よくある質問 I FAQ

法律問題の
ご質問とアドバイス

以下の問題について、ご質問とアドバイスです。
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消費者被害について

Q

消費者被害のQ&A(目次)

A

消費者被害のトラブルは多岐にわたりますが、相談を受ける中でよく接する問題を中心に掲載しています。

第1 消費者被害
1 消費者被害とはどういうものをいうのでしょうか。
2 訪問販売トラブルとはどういうものをいうのでしょうか。
3 ネット販売トラブルとはどういうものをいうのでしょうか。
4 投資トラブルとはどういうものをいうのでしょうか。
5 広告トラブル(事業者)とはどういうものをいうのでしょうか。

第2 相談の流れや解決方法
1 相談するときに被害にあった取引の契約書は必ず必要ですか。
2 裁判以外に解決方法はありますか。
3 費用はどの程度必要でしょうか。

消費者被害について

Q

消費者被害とはどういうものをいうのでしょうか。

A

一概には言えませんが、訪問販売トラブル、ネット販売トラブル、投資トラブルが主なものと言えます。広義では、医療過誤や建築瑕疵等も消費者被害の一つとなりますが、これらについては、独自に項目を設けていますので、そちらを参照して頂ければと思います。

消費者被害について

Q

訪問販売トラブルとはどういうものをいうのでしょうか。

A

訪問販売とは、営業マンが家に来るタイプ、路上で声をかけられるタイプに分かれます。家に来るタイプでは、リフォーム詐欺(屋根、外壁、水回り、トイレ、シロアリ対策など)が最近は多いです。路上で声をかけられるタイプは、最初、「モデルになって欲しい」と健康器具の試用をされ、そのまま購入を求められるものがありますが、被害者に若年層(大学生)が多いのも特徴です。

消費者被害について

Q

ネット販売トラブルとはどういうものをいうのでしょうか。

A

インターネットで購入したが、「物が届かない」「物が違う」というものが多いです。
例えば、車をインターネットで購入したが、「実物を観たら、走行距離が違った」というケースもあります。

消費者被害について

Q

投資トラブルとはどういうものをいうのでしょうか。

A

友人から「絶対にもうかるから」と誘われて、投資をし、最初は収益分が振り込まれていたため、それを信じ、どんどん投資額が増やしたところ、収益分の振込が遅れがちになり、果ては倒産したため、莫大な損害が出るというものです。
最近では、投資の代わりに、まず、物(健康器具、デジタル商品(USB)、果樹)を購入させることが多いです。購入した物は実物を見ることはありません。これらをリースし、収益を上げるという架空のビジネスモデルを作って、投資を募りますが、実際にはリースはされていないため、投資者が減ると一気に破綻に向かいます。

消費者被害について

Q

広告トラブル(事業者)とはどういうものをいうのでしょうか。

A

無料の求人広告の案内を出し、2週間後からは自動で有料に切り替わる契約をさせ、2週間経過後に求人広告費20万円~50万円程度の費用請求をするものです。

消費者被害について

Q

相談するときに、被害にあった取引の契約書は必ず必要ですか。

A

契約書は必ずしも必要ではありませんが、実態の把握に大変重要な資料となりますので、可能な限りご用意いただければと思います。
契約書以外の関係資料(メールのやり取り、見積書、注文書等)もご持参ください。

消費者被害について

Q

裁判以外の解決方法はありますか。

A

裁判ではなく、直接の交渉で解決を行うことも多々あります。
消費者被害の事件では、裁判よりも交渉の方が効果が見込みることが多々ありますので、そのときにあった解決方法を提案させて頂きます。

消費者被害について

Q

費用はどの程度必要でしょうか。

A

消費者被害は、消費者の方にとっては、弁護士費用そのものも持ち出しになるため負担となります。弁護士の着手金は、できる限り低く抑えさせて頂いております。
ご相談の内容から事件の見込み(回収の可否等)をご説明させて頂きますので、見込み及び費用についてご納得頂ければ、ご依頼頂ければと思います。まずはご相談ください。

相続問題について

Q

相続問題のQ&A(目次)

A

相続問題のQ&Aの内容は以下の通りです。
各タイトルをクリックすればそれぞれのQ&Aに飛びます。

第1章 死後の紛争予防
1 死後に備えて遺言を作ろうと思いますが、公正証書遺言か自筆証書遺言か、どちらがよいでしょうか。
2 一切財産を残したくない相続人にも最低限の取り分を残した遺言にしないといけませんか。

第2章 相続が起きたときの問題
第1 相続放棄
1 どんな財産を持っているのか不明な親族が亡くなり、3か月以内に相続放棄するかどうか決めることができない場合、どうしたらいいですか。
2 被相続人が死亡して何年も経ってから無価値な不動産があるとわかった場合、今からでも相続放棄はできませんか。
3 親族が亡くなり遺産分割協議書を作成して預金を解約した後に、被相続人名義の借金や無価値な不動産があると判明しました。今からでも相続放棄はできませんか。

第2 遺産分割
1 相続人の中に行方不明な人がいます。遺産分割するには、どうすればいいでしょうか。
2 被相続人の遺言はどうやって探せばいいですか。
3 どのような財産を遺産分割で分けないといけませんか。
4 遺産はどのように探せばいいですか。
5 被相続人の生前・死後に他の相続人等によって預金から引き落とされたお金は遺産分割の対象にできませんか。
6 被相続人の生前に預金から引き落とされたお金の返還請求を裁判でする場合、遺産分割とどちらを先にしたらいいですか。

第3 遺産分割の具体的手続
1 当事者の間で遺産分割の合意ができている場合、どのような手続をとればいいですか。
2 当事者の間で合意できない場合、どのような手続をとればいいですか。どれくらいの日数がかかりますか。

第4 遺留分侵害請求
1 遺留分とは何ですか。
2 遺言で一切遺産を相続させてもらえなかったので遺留分を請求したいと考えていますが、どのように請求すればいいですか。期限はありますか。

相続問題について

Q

死後に備えて遺言を作ろうと思いますが、公正証書遺言か自筆証書遺言か、どちらがよいでしょうか。

A

遺言の有効性に関する争いをできるだけ防止するには、公正証書遺言の方が無難です。

公正証書遺言は公証役場で公証人が本人の意思・判断能力を確認して、作成されます。そのため、本当に本人の意思で作成されたのか、その時点で本人にきちんと判断能力(遺言能力)があったのか、争われづらくなります。また、法的に有効な遺言になるように検討もされますので、表現の誤りなどで無効になることも防止できます。

これに対して、自分で作成する自筆証書遺言では、そもそも本当に亡くなった本人が書いたものかすら争われる余地もあります。そうでなくとも、ご自分だけで作成することで不正確な内容になって死後の争いの要因になることもあります。
法務局の遺言書保管制度を利用すれば本当に本人が書いたのかという争いは防止できますが、それ以外の問題は残ります。
以上からすれば、公正証書遺言が無難と言えます。

相続問題について

Q

一切財産を残したくない相続人にも最低限の取り分(遺留分)を残した遺言にしないといけませんか。

A

あらかじめ遺留分を残す遺言にする必要はありません。

遺言はあくまで遺言を書く人の意思に基づいて作成して構いません。
作成する上で、紛争防止のために遺留分を考慮して作成することもありますが、本人の意思として一切財産を残したくない相続人がいるのであれば、何も残さない内容でも構いません。

相続問題について

Q

親族が亡くなり、遺産分割協議書を作成して預金を解約した後に、被相続人名義の借金や無価値な不動産があると判明しました。今からでも相続放棄はできませんか。

A

遺産分割が錯誤によるものであることを理由として、相続放棄をする余地はあります。

本来は遺産分割をすれば、相続を承認したことになり、相続放棄はできなくなります。
もっとも、予想外の借金等が存在しており、そのような借金等がないと思って遺産分割をしてしまったような場合であれば、遺産分割が錯誤で無効(取り消し)となるとして、借金等を知ってから3箇月以内であれば相続放棄が可能だと判断された例もあります。

当事務所の弁護士が取り扱った例でも、遺産分割をして不動産の相続登記をした後に無価値な不動産だとわかり、相続放棄を申し立てて受理された例もあります。

相続問題について

Q

疎遠な親族が亡くなり、どのような財産があるのか不明で、3か月以内に相続放棄するかどうか決めることができない場合、どうしたらいいですか。

A

亡くなった人の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」の申立てをすることができます。

一般には、身内が亡くなった場合、相続の事実を知ってから3か月以内に相続放棄するかどうかを決めないといけず、3か月以内に相続放棄しないと自動的に相続したことになってしまいます。
しかし、交流の乏しい人が亡くなった場合だと、どこまで財産があるのかどうか不明な場合もあります。
その場合は、亡くなった人の住所地を管轄する家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」の申立てをして、3か月の期間を延長するよう求めることができます。

相続問題について

Q

親族が死亡して相続人となりましたが、これといった財産もなさそうなので何もしていなかったら、何年も経ってから親族名義の無価値な不動産があるとわかりました。今からでも相続放棄はできませんか。

A

死亡を知って3か月以上経ってからでも相続放棄が認められることもあるので、まずは相続放棄を試みるべきです。

相続放棄は「相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」にしなければなりません。
「相続の開始があったことを知った時」とは、被相続人が亡くなり自分が法律上相続人となったことを知った時点とされています(最高裁1984年4月27日判決)。
もっとも、被相続人が亡くなり自分が法律上相続人となったことを知った場合であっても、予想外の借金や財産が判明した場合には、それを知った時点から3か月以内であれば相続放棄が可能と判断された裁判例も複数あります。
当事務所の弁護士が扱った例でも、被相続人が死亡し、そのこと自体は相続人も知っていたが、何年も(事案によっては何十年も)経ってから無価値な不動産等が判明して相続放棄を申し立てて認められたケースもあります。
したがって、まずは相続放棄を試みることが考えられます。

相続問題について

Q

親族が亡くなり遺産分割したいのですが、相続人の中に行方不明な人がいます。遺産分割するには、どうすればいいでしょうか。

A

調査しても行方不明であれば、家庭裁判所で不在者財産管理人を選任して遺産分割することになります。

相続人であれば、他の相続人の戸籍・住民票を取り寄せて相続関係及び相続人の住民票の住所を調査することはできます。
しかし、行方不明となっている人は、住民票は元の住所においたままで、その住所には住んでいないこともしばしばあります。
関係者に事情を聞いたりするなどの調査をして、それでも行方不明であれば、行方不明の人に代わって財産を管理する「不在者財産管理人」を、家庭裁判所に申し立てて、選任してもらいます。その不在者財産管理人が行方不明者に代わって遺産分割をすることになります。
この場合、不在者財産管理人の報酬・費用として数十万円程度のお金を裁判所に納めるよう求められることもあります。もっとも、遺産が多額で不在者財産管理人の報酬・費用が十分まかなえると見込まれるときは裁判所にお金を納めずに済むこともあります。

相続問題について

Q

亡くなった身内が生前に「遺言書を書いておいた」と述べていたが、どこにあるのか分かりません。どうやって探せばいいでしょうか。

A

相続人から公証役場及び法務局に問い合わせれば、公正証書遺言と法務局で保管された遺言の有無・内容は確認できます。

公正証書遺言については、相続人が公証役場で問い合わせて公正証書遺言の有無を確認できます。確認自体はどこの公証役場でも可能です。
公正証書遺言がある場合には、作成された公証役場で謄本(遺言の写し)を交付してもらえます。
いずれの場合も、相続関係のわかる資料(戸籍謄本等)が必要です。

また、法務局で保管されている自筆証書遺言についても、同様に、相続人から交付の請求ができます。

ただし、亡くなった人が自分で書いて引出しに閉まっておいただけというようなケースでは、これらの方法では確認できません。

相続問題について

Q

どのような財産を遺産分割で分けないといけませんか。

A

保険金、死亡退職金、単純な債権(たとえば、人に貸したお金を返してもらう権利)など、遺産分割の対象とはならないものもあります。

相続人は、被相続人が死亡した時点で被相続人の財産(権利義務)を承継し、どのように分けるかを相続人全員の遺産分割で決めることになります。
もっとも、被相続人の財産(権利義務)や、被相続人の死亡で発生する権利の中には、遺産分割の対象とならないものもあります。

1 生命保険金、死亡退職金
被相続人の死亡で発生する生命保険金は、あくまで被相続人の死亡を理由として受取人が保険会社から受け取る権利なので、遺産分割の対象とはなりません。
また、公務員の場合や、民間の会社でも就業規則の定めにより、被相続人の配偶者等が死亡退職金等の支給を受けることができることもあります。この場合も、会社の規程等で定められた受取人が直接受け取る権利なので、遺産分割の対象とはなりません。

2 分割債権・債務
被相続人が誰かにお金を貸していて返してもらう権利(債権)があるといった場合、このような権利は、法律上は、相続によりそれぞれの相続人が法定相続分で分割して承継します。もっとも、このような債権については、相続人全員が同意すれば、遺産分割の対象に含めて誰か一人で取得するといったことも可能です。
他方で、被相続人に借金(債務)があったような場合だと、法律上は、相続によりそれぞれの相続人が法定相続分で分割して承継します。この場合、遺産分割で誰か一人が債務を全て引き受けるといったことを決めても、権利者(債権者)が同意しない限りは、そのようにはなりません。

相続問題について

Q

被相続人の遺産をどのように調べたらよいですか。

A

不動産については、役所・役場の名寄帳で調査できます。預貯金や投資信託等は、最寄りの金融機関等に問い合わせて探していくしかありません。

1 不動産
被相続人名義の不動産については、各市町村ごとに役所の「名寄帳」で確認できます。
相続人であれば交付を受けられます。

2 預貯金・投資信託
預貯金・投資信託については、被相続人の書類などからここにあるだろうと推測して問い合わせるしかない場合もあります。

3 遺言が存在し、遺言執行者が指定されている場合
また、遺言が存在し、遺言執行者が指定されている場合には遺言執行者は遺産の目録を作成して相続人に交付する義務があります(民法1011条)。したがって、遺言執行者に目録を交付するよう請求することで遺産を把握できます。

相続問題について

Q

被相続人の生前・死後に他の相続人等によって預金から引き落とされたお金は遺産分割の対象にできませんか。

A

遺産分割は現に存在する遺産を対象とするのが原則です。もっとも、死亡後に引き落とされたお金については、引き落とした相続人以外の相続人全員又は相続人全員の同意があれば、引き落とされたお金も預金として存在するものと扱って遺産分割することは可能です。

遺産分割は現に存在する遺産を対象するのが原則です。
そのため、生前・死後に預金から引き落とされたお金がある場合にも、引き落とした人に対して法定相続分に応じた割合で金銭請求(不当利得返還請求又は損害賠償請求)はできても、遺産分割の対象とならないのが原則です。そのため、法的には遺産分割とは別個の手続をしないといけません。

もっとも、このような場合だと、不公平な結果になることも時に生じます。
たとえば、遺産が3000万円で、相続人がA及びBの子ども2人の場合で、Aは生前に被相続人から3000万円以上の贈与を受けていたような場合だと、特別受益があるため、遺産分割で取得できるのは0円になります。この場合でも、Aが死後に3000万円まるごと出金した場合には、BからAへの金銭請求では法定相続分での請求になるため、Bは1500万円しか請求が認められません。
このような不均衡が生じ得ることから、2018年の法改正で、(1)共同相続人全員又は(2)処分をした相続人を除いた相続人全員の同意により、死後に処分された財産を存在するものとみなして遺産分割ができることになりました(民法906条の2)。
そのため、上記のようなケースで、Bは遺産分割で3000万円を取得できることになります。

ただし、これはあくまで死後に処分された遺産があった場合のことなので、生前の出金については、金銭請求によるしかありません。

相続問題について

Q

他の相続人に対して、被相続人の生前に預金から引き落とされたお金の請求を裁判でする場合、遺産分割とどちらを先にしたらいいですか。

A

事情次第ですが、返還請求の裁判を先行させる方が無難なことが多いです。

預金から引き落とされたお金の請求を裁判でした場合、相手方の反論の1つとして「被相続人からもらった(贈与を受けた)」という主張もあり得ます。
本当に被相続人が贈与したのであれば、裁判での金銭請求(不当利得返還請求・損害賠償請求)自体は認められないことになります。
他方で、贈与の事実が認められれば、その相続人は生前に特別受益があったことになるので、遺産分割での取り分は少なくなります。
しかし、遺産分割を先に済ませてしまうと、金銭請求の裁判で贈与が認められた場合でも遺産分割のやり直しは認められない可能性も高いです。
したがって、返還請求の裁判を先行させ、少なくとも相手方の言い分をはっきりさせてから遺産分割の手続を進める方が無難です。

相続問題について

Q

当事者の間で遺産分割の合意ができている場合、どのような手続をとればいいですか。

A

合意内容に基づく遺産分割協議書又は遺産分割協議証明書を作成し、各種名義変更や解約手続きをとることになります。遺産の金額次第では相続税を納める必要もあります。

当事者の間で遺産をどのように分けるか合意ができているのであれば、後日の争い(合意を反故にされるなど)を防止するために、遺産分割協議書を作成して合意を書面に残しておく方が無難です。
相続人全員が署名して実印で押印した遺産分割協議書があれば、その遺産分割協議書に基づいて各種名義変更が可能です(相続関係を証明する書類(戸籍謄本又は法定相続情報)、印鑑証明書も必要))。なお、遺産分割協議書は全員が署名押印するので、相続人が複数いて遠方に住んでいる場合は作成の負担がかかるので、それぞれが遺産分割内容を証明する「遺産分割協議証明書」や相続分を譲渡したことを証明する「相続分譲渡証書」の方が楽なこともあります。
これらの手続についても弁護士に依頼することは可能です。

相続問題について

Q

当事者の間で合意できない場合、どのような手続をとればいいですか。どれくらいの日数がかかりますか。

A

家庭裁判所の遺産分割調停・審判で解決を図ることになります。被相続人の生前・死後の預金からの出金があれば別途裁判を起こす必要があることもありますし、遺産の範囲や遺言の有効性で争いがあれば、これも先に裁判で解決する必要があります。

話がつかない相続人がいる場合には、裁判所の手続で解決を図るしかありません。
この場合、遺産分割自体は家庭裁判所の調停で協議を試み、折り合いがつかないなら裁判所が分割を決める審判という手続に移ります。
もっとも、「被相続人の生前・死後に他の相続人等によって預金から引き落とされたお金は遺産分割の対象にできませんか。」で回答したとおり、被相続人の生前・死後の預金からの出金がある場合には別途裁判を起こす必要があることもあります。
また、遺言の有効性、遺産の範囲について争いがあると、まず地方裁判所の裁判でこの点を確定させてからでないと遺産分割の調停・審判が進められないこともあります。
そのため、争点が多い場合には何年もかかることもあります。

他方で、遺産の範囲は明確で、遺言はなく、単にごねている相続人がいるようなケースであれば、1,2回の調停で解決することもあります。当事務所の扱った例でも、たんに根拠がない要求して過大な取り分を主張しているだけの相続人に対して調停を申し立てて、数か月で、法定相続分通りに分ける内容で解決したこともあります。

相続問題について

Q

遺留分とは何ですか。

A

被相続人の財産について、一定割合を一定の相続人に保障する権利です。

被相続人の財産は、被相続人が存命中であれば被相続人の意思で第三者や他の相続人に贈与できますし、遺言でも自由に処分できます。
他方で、その場合に、財産をもらえなくなる又は相続する分が減少した相続人には、一定の取り分が保障されており、その取り分が遺留分です。
遺留分のある相続人は、①配偶者、②子ども、③直系尊属です。兄弟姉妹も相続人になる場合がありますが、兄弟姉妹には遺留分はありません。

相続問題について

Q

遺言で一切遺産を相続させてもらえなかったので遺留分を請求したいが、どのように請求すればいいですか。期限はありますか。

A

遺産を受け取った受遺者・相続人に対して、記録が残る形で通知することになります。請求に時効があるので注意すべきです。

1 請求の相手方・方法
遺留分の請求は、被相続人が相続人の遺留分を超えて贈与や遺贈・相続分の指定をされていた場合に、被相続人から財産をもらった人に対して行います。
請求の方法が決まっているわけではなく、「被相続人〇〇の財産について遺留分侵害請求をします」と通知すればいいです。具体的に請求金額を特定する必要はありません。
もっとも、遺留分侵害請求をするにも期限(時効)があるので、期限内に通知したことを証拠に残すために、きちんと記録が残る形(郵送なら内容証明郵便)での通知をすべきです。

2 請求の期限
遺留分侵害請求は「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」から1年又は「相続開始の時から10年を経過したとき」に時効になります。
したがって、遺言書等で遺留分が侵害されている事実を知ったのであれば、その時点から1年以内に請求をしないといけません。
法律上は、この請求をした時点で、遺留分に基づく金銭の支払いを請求する権利を取得したことになります。この請求権も5年で時効になるので、通知だけして放っておくと、やはり時効になってしまいます。

労働問題について

Q

労働問題のQ&A(目次)

A

労働問題のトラブルは多岐にわたります。相談を受ける中でよく接する問題を中心に掲載しています。

各タイトルをクリックすればそれぞれのQ&Aに飛びます。

第1 雇用開始に際してのトラブル
1 「内々定」「内定」が取り消された場合に、何ができますか。

2 勤務開始後に、求人票と異なる労働条件を示されたが従わないといけませんか。

第2 「試用期間」に関するトラブル
「当初3か月試用期間」として勤務を開始しました。この場合、3か月以内だと自由に解雇されてしまいますか。

第3 「労働者」に該当するかどうか
「業務委託」としてトラック運転手の仕事をしてきましたが、残業代は請求できませんか。

第4 残業代
1 過去の残業代はいつまで請求できますか(時効の問題)。
2 残業代を請求する上で、どのような証拠があればよいですか。
3 残業時間の証拠がごく限られた勤務日数分しかありませんが、残業代請求は可能ですか。
4 「役職手当に残業代が含まれているから、残業代は出ない」と言われましたが、正しいのでしょうか(固定残業代の問題)。
5 「課長で管理職に当たるから残業代は出ない」と言われました。正しいのでしょうか。
6 トラック運転手です。「出来高払いだから残業代はない」と言われましたが、残業代請求は可能ですか。
7 「残業を禁止しているのに勝手に残業したのだから、残業代は出ない」と言われましたが、請求できませんか。
8 会社に勤務したまま残業代請求はできますか。

第5 労働条件の切り下げ
1 一方的に「経営が厳しいから給料を下げる」と言われましたが、争うことはできませんか。
2 給与減額の同意書に署名押印するよう求められましたが、応じないといけませんか。
3 給与減額の同意書に署名押印してしまいましたが、もはや争うことはできませんか。
4 人事異動に伴って給与が減らされましたが、争う余地はありませんか。

第6 解雇・雇止め
1 どういう場合に解雇が無効になりますか。
2 解雇された場合に、どのように争ったらいいですか。
3 解雇を争う場合、解雇予告手当を受け取ってはいけませんか。失業給付を受けてはいけませんか。
4 会社から「明日から来なくていい」と告げられたので出勤しなかったら、「退職」したことにした離職票が送られてきました。解雇として争うことはできませんか。
5 6か月ごとの雇用期間で5年を超えて更新して勤務を続けてきましたが、「今回は更新しない」と言われました。争うことはできませんか。

第7 退職
1 会社を退職しようと考えて、2週間後に退職するという退職届を提出したら、「就業規則で退職の1か月前までに提出しないといけない」と言われました。従わないといけませんか。
2 自分で退職の通知をしたら「会社指定の退職届ではないから無効だ」と言われました。会社指定の退職届でないと退職はできないのですか。
3 退職日までに有休を使い切って退職することは可能ですか。

第8 社会保険非加入
1 会社にパートで雇用されて毎日6時間週5日勤務で働いているので、健康保険・厚生年金保険に加入できると思うのですが、「パートなので加入できない」と言われました。どうしたらいいでしょうか。
2 健康保険・厚生年金保険の加入対象なのに、過去10年以上加入してもらえず、自分で保険料を支払っていました。会社に何か請求できませんか。

労働問題について

Q

「内定」「内々定」が取り消された場合に、何かできますか。

A

「内定」の取り消しであれば解雇と同様に争うことができます。「内々定」の取り消しに対しては損害賠償請求ができる場合がありますが、労働契約が成立していると主張するのは困難です。

1 「内々定」「内定」とは
一般に、新卒採用の場合、採用企業は卒業年度の10月1日までに、採用決定の通知(内々定)をしたうえで、10月1日の内定式で正式の内定を通知しています。これは、かつては経団連が定めたいわゆる「就活ルール」、現在は政府の「要請」によって、正式な内定日が卒業・終了年度の10月1日以降とされているためです。

一口に「内定」「内々定」といっても、新卒採用とそうでない場合などまちまちですが、新卒採用の内定で、そのまま労働契約が成立することを前提としている場合であれば、内定によって「始期付き」「解約権留保付き」の労働契約が成立したことになります。
「始期付き」というのは、現実に働いて給与を受け取るのは4月1日ですが、内定時点で労働契約は成立しているという意味です。「解約権留保付き」というのは、一定の内定取り消し理由がある場合(卒業できなかった場合など)に労働契約が解約されるという留保がついているという意味です。

2 「内定」が取り消された場合
内定段階で正式の労働契約は成立しているので、内定取り消し理由を企業が定めていても、解雇と同様に「客観的に合理的で社会通念上相当として是認することができる場合」でなければ、内定取り消しは無効となります。
企業が「入社後の勤務に不適当と認められたとき」など、広い取り消し理由を定めていても、自由に取り消すことができることにはなりません。

内定取り消しが無効となった場合、通常の解雇が無効となった場合と同じように、企業に給与を支払い続けるよう請求することができます。4月1日以降は「労働者」としての権利を有しており、現実に働いていないとしても、それは企業の責任となるためです。

3 「内々定」が取り消された場合
内々定の段階では、求職者側はまだほかの企業に就職活動を続けることもできます。企業側も正式な採用はその後の「内定」によることを予定しているので、一般には労働契約が成立したとは認められません。そのため、内々定の取り消しに対しては、4月1日以降の給与の請求をすることは困難です。
しかし、内々定前後のやり取りなどにもよりますが、求職者側にとって採用されるのが確実だと期待を抱かせながら内々定を取り消した場合や、企業側の対応が不誠実であった場合(採用方針について的確な情報を提供しないまま採用せず、安定した職を失わせてしまったケースなど)では、一定の賠償請求は認められています。
もっとも、裁判で認められた賠償額は50~300万円程度であり新卒採用の機会を失わされたことへの賠償としては十分とは言い難いです。

労働問題について

Q

求人票を見て面接を受け、勤務を開始した後に渡された雇用契約書では求人票よりも悪い労働条件になっていました。この労働条件に応じないといけませんか。

A

変更された労働条件に応じる義務はなく、納得いかないのであれば拒否すべきです。

1 求人票の内容通りの労働条件で雇用されたと主張することは可能
求人者はハローワークの求人票を見てその労働条件の通りだと信じて応募するのが通常です。
そのような理由などから、裁判例でも、「求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなど特段の事情がない限り、雇用契約の内容になる」と判断された例もあります(大阪高裁1990年3月8日判決、大阪地裁1998年10月30日判決、京都地裁2017年3月30日判決)。求人票ではない求人広告で同様の判断になった例もあります(東京地裁2017年5月19日判決)。

2 会社が提示した雇用契約書に署名押印すると争いづらくなる
もっとも、この場合であっても、その後に渡された雇用契約書に署名押印してしまった場合には、変更された労働条件に同意したものとして、雇用契約書通りの労働条件になってしまうおそれもあります。
したがって、納得いかないのであれば雇用契約書に署名・捺印せずに、求人票通りの労働条件のはずだと主張すべきです。

労働問題について

Q

「当初3か月試用期間」として勤務を開始しました。この場合、3か月以内だと自由に解雇されてしまいますか

A

「試用期間」中でも自由に解雇できるわけではなく、合理的な理由が必要です。

「試用期間」は実際に勤務させてみて従業員としての適格性を判断するための期間として設けられていますが、試用期間中や満了時であるからといって自由に解雇・本採用拒否ができるわけではありません。あくまで雇用契約は成立しているので、解雇に準じて合理的な理由がなければ無効になります。

労働問題について

Q

「業務委託」としてトラック運転手の仕事をしてきましたが、残業代は請求できませんか。

A

形式上「雇用」になっていなくても、業務実態に照らして「雇用」に該当すれば残業代請求など労働者としての権利を行使できます。

1 「業務委託」などの形式でも「雇用契約」に当たることがある
いわゆる「庸車」と呼ばれるようなトラック運転手は、形式上はある会社が個人に業務委託した形で仕事をさせていることがあります。トラック運転手に限らず、形式上、「業務委託」「請負」の形式で、実質は事業主が個人に仕事を指示して働かせている場合はしばしばあります。
トラック運送事業者によるトラック運転手の社会保険非加入については2008年7月頃から取締りも厳しくなっているようであり(国土交通省「トラック運送事業者の社会保険等未加入に対する行政処分等の状況について」)、過去に未加入だったが途中から加入したという例も見かけます。

このような場合、形式上「業務委託契約書」のような書面が作成されている場合や、あるいは、雇用契約書等の雇用契約の根拠となる書面がない場合でも、実態として雇われて仕事をしている関係であれば、「雇用契約」であることに基づいて残業代など労働者としての権利を行使できます。

2 「雇用契約」に当たる場合に請求できる権利
雇用契約に該当すれば、たとえそれまで「出来高払い」の形で「請負代金」を支払われていても、法律上は「賃金」(給与)だったことになります。したがって、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて仕事をした分の残業代請求も可能となります。
また、社会保険に加入していなかったのであれば、それに基づく損害賠償請求が認められる場合もあります。

労働問題について

Q

過去の残業代はいつまで請求できますか。

A

2020年4月1日以降が支払日となる残業代は3年で時効になります。それ以前の残業代は2年で時効になります。

これまでは給与・残業代は2年経過で時効により消滅することになっていましたが、2020年の法改正により、時効期間は3年間となりました(改正後の労働基準法115条、143条)。
もっとも、法改正が適用されるのは2020年4月1日以降が支払日となる給与・残業代だけなので、それより前が支払日となる残業代は過去2年分しか請求できません。
結果として、以下の通りになります。
2022年1月1日~2022年3月31日 過去2年分しか請求できない
2022年4月1日~2023年3月31日 2020年4月1日以降の残業代を請求できる
2023年4月1日~ 過去3年分の残業代を請求できる。

労働問題について

Q

残業代を請求する上で、どのような証拠があればよいですか。

A

一概に言えませんが、客観性の高い証拠があることが望ましいです。

比較的手堅い証拠としては、以下のようなものになります。
・タイムカード
・業務日報
・デジタコの記録やタコチャート紙(トラック運転手の場合)
この現物が手元にある必要はなく、コピーや写真撮影したものでも十分証拠になります。

労働問題について

Q

残業時間の証拠がごく限られた勤務日数分しかありませんが、残業代請求は可能ですか。

A

ごく一部しかなくても請求できる場合もあります。

ごく限られた日数分しか存在しなくても、他の勤務日も同程度に勤務していたと主張して残業代請求をすることは考えられます。裁判に持ち込んで、その中で開示させるなど、いろいろな方法が考えられます。

労働問題について

Q

「役職手当に残業代が含まれているから、残業代は出ない」と言われましたが、正しいのでしょうか。

A

ある手当を残業代の趣旨で支払うことは認められる場合もありますが、雇用契約書や就業規則等で明確な定めがなければならず、常に有効とは限りません。

会社が、「〇〇手当」という名目の支給を行い、この手当を残業代として支払っていると主張していることはしばしばあります。
このような「固定残業代」で残業代を支払うこと自体は認められますが、そのためには、いくつかの要件を充たす必要があります。
1 残業代として支払われていることが雇用契約書等で示されていること(対価性)
あくまでも労働条件として「〇〇手当」を残業代として位置づけるものなので、雇用契約書・就業規則等で「〇〇手当を残業代として支払う」と記載されるなど、労働契約の内容になっている必要があります。
2 通常の労働時間の賃金部分と残業代部分が判別できること(明確区分性、判別要件)
たとえば、「月給30万円(残業代分も含む)」といった労働条件では、どこまでが残業代以外の給料分か不明となります。このような定めだと、固定残業代の定めとして有効とは言えません。
3 その他無効となる場合
(1) それまで固定残業代として支払われていなかった手当を後から固定残業代の位置づけにした場合
これは労働条件を一方的に不利益に変更することになり、無効となる場合があります。
(2) 固定残業代が予定する残業時間が過大であったり、現実に過大な残業時間となっている場合
このような場合、法が許容する限度を超える残業を認めることが許されないなどの理由から無効となる場合があります。

<当事務所の取り扱い事例>
当事務所の弁護士が扱った事件でも、以下の通り、固定残業代が無効となった判決があります。

〇 名古屋高裁2017年5月18日判決労働判例1160号5頁
当初固定残業代ではなく「日給1万2000円」(時給1500円)の労働条件であった従業員が、3時間の時間外労働分の残業代を含めて1日1万2000円とする雇用契約書に変更された事案で、そのような変更は無効であると判断されました。

〇 名古屋高裁2020年2月27日判決労働判例1224号42頁
「職務手当 130,000円 (残業・深夜手当とみなします)」と定められた職務手当について、職務手当が予定する時間外労働時間数は月約80時間であるのに対し、現実には月120時間を超える残業をしていたことなどから、固定残業代としては無効と判断されました。

〇 名古屋高裁2020年5月20日判決
「課長,所長代理以上を対象に,役付に付随する責任に対し手当するとともに,所定休日労働に対する割増賃金として支払う」と就業規則で定められた「役付手当」について、「管理職以上の責任に対する手当としての性質が含まれ,その職務に対応する金額がどのようなものであるかは本件就業規則において必ずしも明らかにされておらず,役職相当の賃金部分と割増賃金との区別が必ずしも明確であるとはいえない」ことなどを理由に、固定残業代としては無効と判断されました。

労働問題について

Q

「課長で管理職に当たるから残業代は出ない」と言われました。正しいのでしょうか。

A

残業代が支払われない「管理職」に該当するのは一部に限られます。

法律上、「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)については、雇用主に残業代の支払義務がないことになっています。
もっとも、一般的に「管理職」(部署の長)であれば法律上の管理監督者に当たるということにはなりません。管理監督者は事業経営について管理者的立場にあり又はこれと一体をなす立場にあるものである必要があります。
一般的な要件はありませんが、裁判でも管理監督者と認められるケースは少なく、雇用主がこじつけて主張することが多い部類の主張です。

また、管理監督者に対しても、深夜(午後10時から午前5時)に勤務したことに対する深夜割増賃金(時給の0.25倍)は支払う義務があります。

労働問題について

Q

トラック運転手です。「出来高払いだから残業代はない」と言われましたが、残業代請求は可能ですか。

A

出来高払いであることは残業代が出ない理由になりません。

「出来高払い」「歩合給」であっても、雇用されている以上は、残業に応じた残業代を請求する権利があります。
トラック運転手であれば、タコチャートや、タコグラフの記録、業務日報などが残業代の証拠となります。

労働問題について

Q

「残業を禁止しているのに勝手に残業したのだから、残業代は出ない」と言われましたが、請求できませんか。

A

「残業禁止」が周知されていたか、残業しなくてもよい体制がとられていたかという事情によります。単に建前として「残業禁止」と言われていただけでは残業代が出ない理由にはなりません。

残業は所定時間外の労働時間に対する対価であり、ここでいう「労働時間」は、「労働者が使用者の指揮命令下にある時間又は使用者の明示・黙示の指示により業務に従事した時間」という枠組みで判断されます。
そのため、現実に従業員が働いているのを使用者も知りながら止めていなかったなどの事情であれば、黙示の指示により業務に従事したことになり、残業代が認められます。
形式的に「残業禁止」ということになっていても、時間外労働で残業代が請求できなくなるとは限らず、終業時刻で仕事を終了させることができる体制になっていたか、終業時刻で退出するよう指示が徹底されていたか、などの事情で残業に当たるか判断されます。当然に残業代が認められないとは言えません。

労働問題について

Q

会社に勤務したまま残業代請求はできますか。

A

可能です。ただし、勤務に影響することは考えておく必要があります。

残業代請求は正当な権利の行使なので、残業代請求したことを理由に不利な扱いをすることはできません。現実にも、在籍しながら残業代請求して金銭を支払わせている例もあります。
もっとも、昇給や配転など、雇用主の裁量が広く認められる事項で、不利に扱われる可能性は否定できないといわざるを得ません。
これを防止するとすれば、労働組合に加入して(できれば大勢の同僚とともに加入して)雇用主が安易に不利な扱いをできないようして残業代請求をするなど、雇用主に強いプレッシャーがかかる手立てを考える必要もあり得ます。

労働問題について

Q

一方的に「経営が厳しいから給料を下げる」と言われましたが、争うことはできませんか。

A

一方的に労働条件を不利益に変更することはできず、変更されても無効です。

労働条件は使用者・労働者の合意で決められるのが原則であり(労働契約法3条1項)、変更するのも合意が必要です(同法8条)。
就業規則等で降格による減給等の定めがあり、それを根拠にした減額であれば有効となる余地もありますますが、何の根拠もなく一方的に不利益に変更することはできません。

労働問題について

Q

給与を減額することの同意書に署名押印を求められましたが、応じないといけませんか。

A

応じる義務はないので、「持ち帰って検討させてください」と述べて持ち帰り、弁護士・労働組合に相談しましょう。

このような同意書に署名押印したからといって有効となるとは限りませんが、応じない方が無難であることは間違いありません。
応じないようにして、速やかに弁護士や労働組合に相談する方が無難です。同意を求められた状況について録音をするなどしてできるだけ証拠を残しておく方がいいです。

労働問題について

Q

給与減額の同意書に署名押印してしまいましたが、もはや争うことはできませんか。

A

同意書に署名押印しても直ちに同意があったとは言えず、争う余地はあります。

このように労働条件の不利益変更に対する同意書に署名押印しても、当然に有効な同意があったとは限りません。
最高裁判決でも、「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無」について、「当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容および程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯およびその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供または説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきである」と判断されています(最高裁2016年2月19日判決等)。
したがって、同意書に署名押印したからと言って直ちに争えなくなるとは限りません。争うのであれば、できるだけ速やかに弁護士や労働組合に相談して、「自由な意思の署名押印ではなかったから無効だ」と通知した方がいいでしょう。

労働問題について

Q

人事異動に伴って給与が減らされましたが、争う余地はありませんか。

A

単なる職務内容の変更(配置転換)であれば、減給の根拠とならないことが多いです。他方で、降格(部長から課長への格下げなど)であれば、その降格の合理性が認められなければ減給も無効となります。

人事異動という場合には、職務内容(勤務する部署)の変更(配置転換)の場合と、降格(役職・職位の引下げ)の場合が考えられます。
配置転換それ自体は事業主に大きな裁量が認められているのが実情ですが、配置転換と賃金とは別個の問題です。特に日本の一般の企業では厳密に職務に対応した賃金を設定していないのも通常ですから、配置転換が有効であっても、給与減額まで有効になるとは言えません。

降格に伴う減給については、降格の合理性が認められれば減給が認められる余地もありますが、まずもって、就業規則等で降格と賃金の減額が連動する制度となっていなければ、単なる減給として争う余地もあります。
そうでなくとも、報復的な降格など人事権の濫用に当たる場合には降格が無効となり、減給も無効となります。

労働問題について

Q

どういう場合に解雇が無効になりますか。

A

個別の法令で解雇が禁止されている場合のほか、正当な理由のない解雇も無効となりますが、個別具体的な判断を必要とする場合が多いです。

業務上の傷病で休業中の場合など、法律で絶対的に解雇が禁止されている場合もあり、このような解雇は当然に無効となります。
もっとも、現実には、そのように露骨に違法となる解雇は滅多になく、「経営上の理由」「勤務態度不良」などの理由によって解雇になることが一般的です。
このような解雇についても、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には無効となりますが、これは一義的な基準は存在しません。最後は個別具体的な判断にならざるを得ません。

労働問題について

Q

解雇された場合に、どのように争ったらいいですか。

A

解雇が無効だと主張して争う場合には、(1)解雇後も労働者の権利を有している地位の確認、(2)解雇後に勤務していれば支払われた賃金の請求をして争うのが一般的です。

解雇が無効である場合には、雇用契約が続いていることになり、訴訟で争う場合はその地位確認を求めることになります。
そして、現実には解雇されたことで従業員が勤務していないとしても、それは無効な解雇をした使用者の責任なので、従業員は解雇後も賃金を支払うことも請求できます。

労働問題について

Q

解雇を争う場合、解雇予告手当を受け取ってはいけませんか。失業給付を受けてはいけませんか。

A

解雇予告手当を受け取るだけで不利になることはありません。無効であっても解雇された以上、失業給付を受けることも問題ありませんが、仮給付で受ける方が無難です。

一般的には、解雇を争うということは雇用関係が続いていると主張することですから、これと矛盾する行動はとらない方が無難です。
もっとも、解雇予告手当は給与振込口座に一方的に入金されてくることが一般的であり、これをそのままにしておいただだけで解雇を認めたことにはなりません。

解雇を無効だと争うとしても現実には解雇されて給与がひとまずは支払われなくなるので、失業手当を受けることも問題ありません。もっとも、解雇を争っているのであれば、公共職業安定所に対して解雇を争っている資料(裁判所の事件係属証明書等)を提出して、仮給付として受け取る方が無難ではあります。当初にひとまず給付を受けてから仮給付に切り替えることもできます。

労働問題について

Q

会社から「明日から来なくていい」と告げられたので出勤しなかったら、「退職」したことにした離職票が送られてきました。解雇として争うことはできませんか。

A

退職しておらず従業員の地位が続いているとして、解雇と同様に地位確認・賃金請求をして争うことは可能です。

一方的な解雇が認められないために、会社によっては、「明日から来なくていい」などといって実質的に解雇したにかかわらず、「解雇ではない」と言い張ることもあります。
しかし、一旦雇用されたのであれば、退職したり解雇されたりしない限り雇用関係が続くので、解雇か退職かごまかされても、「退職しておらず、引き続き従業員の地位にあり、勤務する意思がある」と通告して、地位確認・賃金請求をすることは可能です。
この場合、会社が退職を主張するのであれば、会社が退職を証明しなければならなくなり、退職届も何もなければ証明できなくなるだけです。
当事務所の弁護士が扱った例でも、会社が従業員に「明日から来なくていい」などと告げて出勤を拒否した上、従業員が退職した扱いの離職票を送付したケースでも、判決では会社の解雇だったと認められ、解雇無効による地位確認・賃金請求が認められています(名古屋高裁2019年10月25日判決)。

労働問題について

Q

6か月ごとの雇用期間で5年を超えて更新して勤務を続けてきましたが、「今回は更新しない」と言われました。争うことはできませんか。

A

解雇された場合と同様に争うことができます。今の期間満了までに「無期転換」の通知をしてから争う方が無難です。

従業員が雇用期間を定めて雇用された場合に、使用者が雇用契約を更新しないことを「雇止め(やといどめ)」と言います。
使用者があくまで一時的な仕事のために期間を定めて雇用し、期間満了で終了させるのであれば「雇止め」を争う余地はありません。
他方で、現実には、一時的な業務ではないのに雇用期間を定めて雇い、何度も更新をくり返して勤務が継続してきたのに、ある時に使用者の都合で雇止めにするといった例も見られます。このような場合は、単に契約期間満了というだけで有効になるとは限りません。

1 雇止めの制限
まず、雇用期間を定めた契約更新が何度も続いており、業務内容としても一時的なものではないような場合には、「労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある」場合に当たると主張できます(労働契約法19条)。この場合、解雇と同様に、雇止めが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」ときは雇用契約が続いていることになります。
また、契約更新の手続が全く形骸化しており、実質には期間なく雇用しているのと同視できる場合も同様に雇止めが制約され、制約の度合いが強くなります。

2 5年を超えて契約更新を続けてきた場合の無期転換請求
また、雇用期間を定めた雇用を更新して通算して5年を超えて勤務してきた場合には、現在の雇用期間が終了するまでの間に、雇用契約を「期間の定めのない雇用契約」に変更する請求することができ、一方的な請求で「期間の定めのない雇用契約」になります(労働契約法18条)。
この場合、使用者はもはや雇用契約を「更新しない」ことはできなくなり、雇用契約を解消しようとするのであれば解雇するしかありません。
雇止めでも解雇と同様に争うことはできますが、一般には雇止めの方が緩やかに認められるので、「期間の定めのない雇用契約」に転換して解雇を争う方が得策です。

労働問題について

Q

会社を退職しようと考えて、2週間後に退職するという退職届を提出したら、「就業規則で退職の1か月前までに提出しないといけない」と言われました。従わないといけませんか。

A

法律上は退職の通知をしてから2週間で退職でき、就業規則等でこれを延長しても無効だと考えられています。

法律上、期間の定めのない雇用契約であれば、2週間前に通知することで退職できることになっています(民法627条1項)。
ここで「2週間」というのは通知をした翌日からカウントするので、たとえば、2月1日に通知した場合は、2月15日が経過することで退職したことになります。

この民法627条1項の定めについては、就業規則や雇用契約書で異なる定めをしても無効となる「強行法規」という考えが多数です。
問題となったケースは少ないですが、裁判例でも従業員からの退職を法律よりも拘束する就業規則等は無効だと判断されています。

〇 福岡高裁2016年10月14日判決
民法627条1項の定めを強行法規だと判断した。
〇 大阪高裁1984年7月25日判決
2017年の法改正前の民法627条2項では、「期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以降についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半についてしなければならない。」と定められていた。
この民法627条2項の規定について、「解約予告期間経過後においてもなお解約の申入の効力発生を使用者の承認にかからしめる特約とするならば、もしこれを許容するときは、使用者の承認あるまで労働者は退職しえないことになり、労働者の解約の自由を制約することになるから、かかる趣旨の特約としては無効と解するのが相当である」と判断した。
直接的には民法627条1項についての判断ではないが、民法627条に基づく労働者からの退職を制約する就業規則を無効と判断した裁判例ではある。

労働問題について

Q

自分で退職の通知をしたら「会社指定の退職届ではないから無効だ」と言われました。会社指定の退職届でないと退職はできないのですか。

A

退職するという意思が明確に表明されていれば、どのような形式でも退職の通知として有効です。

期間の定めのない雇用契約であれば、退職はあくまで「退職する」という通知(意思表示)をして2週間経過することで効力が生じます。
そのため、どのような様式で通知しても構いません。
もっとも、後日退職の通知をしたかどうか不明になるのを避けるためには、内容証明郵便による通知が一番確実です。

労働問題について

Q

退職日までに有休を使い切って退職することは可能ですか。

A

可能であり、雇用主は拒否できません。

退職の通知から2週間以上後であれば、従業員から自由に退職日を設定できます。
そして、一般には従業員の有給休暇の請求に対しては、雇用主は、て事業の正常な運営を妨げるときには他の日に有給休暇を取るよう求める権利(時季変更権)がありますが、退職日までの全日数に有休を使用する場合は、他の日に有休を行使する余地がないので、時期変更もできません。(昭和49年1月1日基収5554号)
したがって、使い切って退職することも可能です。

労働問題について

Q

会社にパートで雇用されて毎日6時間週5日勤務で働いているので、健康保険・厚生年金保険に加入できると思うのですが、「パートなので加入できない」と言われました。どうしたらいいでしょうか。

A

いわゆる「パート」でも週の所定労働時間が週20時間以上あるなど一定の要件に当たる場合には、雇用主は健康保険・厚生年金保険に加入させる義務があります。加入してもらっていない場合は、従業員から年金事務所に確認請求するという方法があります。

1 社会保険の加入義務
雇用主が法人又は常時5人以上の従業員がいる事業所であれば、「適用事業所」となり、雇用主は勤務する従業員を健康保険・厚生年金保険(社会保険)に加入させる義務があります(正確には、被保険者資格取得を届け出る義務)。

日雇など一定の場合には加入対象となりませんが、いわゆる「パート」と呼ばれる短時間労働でも、それなりの労働時間となっていれば加入対象となります。(詳しい要件は厚生労働省等の案内をご確認ください。法改正もあり、時期によっても異なります。)

2 未加入への対策
しかし、雇用主によっては加入手続きを怠っている場合があります。
この場合には、労働者が直接年金事務所に確認請求をすることで、年金事務所も調査し、本来は加入対象だと判断されれば、過去2年分まで遡って加入されます。
この場合、過去に自分で国民健康保険料・国民年金保険料を納めていた場合には、還付されます。他方で、過去2年分の健康保険料・厚生年金保険料を雇用主が収めた場合には、その半分は従業員負担分となり、支払うことになります。一般には、きちんと国民健康保険料・国民年金保険料を納めていた場合であれば、差引きでプラスになります。

労働問題について

Q

健康保険・厚生年金保険の加入対象なのに、過去10年以上加入してもらえず、自分で保険料を支払っていました。会社に何か請求できませんか。

A

加入していれば保険料の半分を雇用主が負担することで、もっと安く済んだ自己負担分の損失を損害賠償請求できます。年金受給年齢に達した後であれば、受け取る年金が少なくなった分の賠償請求が認められる余地もあります。

1 自分で社会保険料を負担していたことによる賠償請求
本来、社会保険に加入している場合は、雇用主が保険料の半分を負担します(健康保険法161条、厚生年金法82条)。
これに対して、国民健康保険・国民年金の場合は、全額自己負担となります。
そこで、本来事業者に半分は負担してもらえたのに全て自分で負担したということになり、納付した保険料の半分の賠償請求が認められた例もあります。(名古屋高裁2017年5月18日判決、津地裁2019年4月12日判決)。
2 年金給付の減少を理由とする賠償請求
きちんと事業主が社会保険に加入していないと、厚生年金保険料を納めていないので、将来支払われる年金(老齢厚生年金)が減少することになります。
その分をあらかじめ請求したケースでは、将来の受給が不確定であることなどを理由に概ね請求は認められていません。
他方で、年金受給年齢になった後で請求した例では、請求が認められているものもあります。

当事務所の弁護士が扱った例として、名古屋高裁2020年5月20日判決では、1999年4月から2007年3月まで厚生年金に加入していなった労働者が、65歳になって退職してから損害賠償請求したのを認めています。

医療過誤について

Q

医療過誤問題のQ&A(目次)

A

医療過誤問題に関するQ&Aの内容は以下の通りです。
各タイトルをクリックすればそれぞれのQ&Aに飛びます。

第1 医療過誤
1 医療過誤とはどういうものをいうのでしょうか。

第2 相談の流れや解決方法
1 相談するときに診療録や検査記録は必ず必要ですか。
2 裁判以外に解決方法はありますか。
3 費用はどの程度必要でしょうか。

医療過誤について

Q

医療過誤とはどういうものをいうのでしょうか。

A

一概には言えませんが、医療のガイドラインに沿った治療や検査を行わなかったものや薬を注意事項を無視して投薬したものなどが分かりやすい医療過誤にあたるかと思います。
その他にも説明を怠ったものや他院への転送を怠ったものなど様々なものがあります。

医療過誤について

Q

相談するときに診療録や検査記録は必ず必要ですか。

A

医療過誤問題は、本人やご家族のお話と診療録や検査記録に沿ってご相談への回答を行うことになります。
ご自身で病院でコピーを取り寄せていただいても結構ですが、困難であれば、取り寄せを弁護士の方で行うこともできますので、必ずしも診療録や検査記録がないと相談ができないということはありません。

医療過誤について

Q

裁判以外の解決方法はありますか。

A

裁判ではなく、調停等を使った話し合いによる解決を行うことも多々あります。
 その際に実際に治療にあたった医師から改めて話しをきく場を設けたりすることもあります。ご希望の解決にそった方法で進めさせていただきます。もっとも、事案によっては、そぐわない手続きもありますので、ご希望を聞いたうえで、ご相談させていただきたいと思います。

医療過誤について

Q

費用はどの程度必要でしょうか。

A

医療過誤問題は、弁護士だけでなく専門医の協力をあおぐことも多い事件です。
弁護士の着手金(11万円~55万円)及び報酬金の他に、専門医による意見書の作成費用(33万円~55万円)が必要となることもあります。弁護士の費用、専門医の費用等は、事案によって変わってきますので、最初のご相談時にご説明させていただきます。最初にすべての費用をご準備していただく必要はございません。資料の収取状況等に応じて、事件の見込みを随時ご説明させていただきますので、見込み及び費用についてご納得頂いた際にのみ、つぎの手続きに移っていくという形でお手伝いさせて頂いております。まずはご相談いただければと思います。

弁護士への相談・依頼について

Q

弁護士への相談・依頼に関するQ&A(目次)

A

弁護士への相談・依頼に関するQ&Aの内容は以下の通りです。
各タイトルをクリックすればそれぞれのQ&Aに飛びます。

 

1 弁護士に相談するときに何を持っていけばいいですか
2 相続事件などで複数の人が同時に同じ弁護士に依頼することはできますか
3 すでに弁護士に依頼していますが、別の弁護士に相談していいですか
4 弁護士費用の基準になる「経済的利益」はどう計算されますか
5 すでに依頼している弁護士を変えるときはどうしたらいいですか

弁護士への相談・依頼について

Q

弁護士に相談するときに何を持っていけばいいですか

A

ご相談内容に関係ある書類は全て持ってきていただく方が正確なアドバイスにつながります

 

相談者の説明だけでは不正確なこともあります。そのため、関連しそうな書類は全てご持参いただく方が、弁護士としてもより正確なアドバイスが可能になります。
結果的に不必要な書類もありますが、そこは相談を聞く弁護士で判断するので、勝手に必要ないと判断せずにひとまずは全部ご持参いただく方が望ましいです。

事件類型ごとに言えば、概ね以下のような書類が考えられます。
これらをそろえないと相談できないわけではなく、手元にあるならご持参いただく方が望ましいということです。
<離婚・養育費>
・戸籍謄本
・双方の収入が分かる書類(所得証明書、源泉徴収票、確定申告書控え等)

<相続>
・相続関係図(戸籍謄本等があるならその方が望ましいが、なければご自分で作成していただけば結構です)
・遺産の内容が分かる書類(固定資産税の納税通知書、預貯金通帳、有価証券等)
・遺言書

<労働>
・雇用契約書・労働条件通知書
・給与明細書(直近1年分あれば望ましい)
・解雇・雇止めの場合:解雇(雇止め)通知書
・残業代の場合:タイムカード、業務日報など

弁護士への相談・依頼について

Q

相続事件などで複数の人が同時に同じ弁護士に依頼することはできますか

A

可能ですが、事情次第ではお受けできない場合があります。お受けしても依頼者同士で意見・利害が対立した場合は双方から辞任する場合もあり得ます。

弁護士は共通の紛争について、同時に複数の方から依頼を受けることはしばしばあり、それ自体は禁止されていません。
もっとも、例で挙げた相続事件は遺産を複数の相続人で分け合う(取り合う)ものなので、潜在的には利害が対立しています。そのような場合でも、複数の依頼者が潜在的に利害が対立することを承知で、同時に依頼する場合であればご依頼は可能です。
もっとも、利害が表面化して意見の不一致で調整困難になったような場合であれば、依頼された弁護士も事件続行が不能となるので、双方からのご依頼を辞任せざるを得ないこともあります。
ご相談・ご依頼時にもその点は説明いたしますが、後になって辞任されると依頼者にとっても不都合が大きいので、後で紛争になりそうな人とは一緒に相談・依頼は避ける方が無難です。

弁護士への相談・依頼について

Q

すでに弁護士に依頼していますが、別の弁護士に相談していいですか。

A

依頼者の自由であり、依頼している弁護士に断りを入れる必要もありません

弁護士と依頼者の関係は委任契約であり、互いに拘束を受けることはありません。依頼している事件で弁護士の進め方などについて疑問に思うことが出たら、まずは依頼している弁護士に尋ねるべきではありますが、その回答に納得いかない場合もあるでしょう。
そのような場合に、別の弁護士に相談することは依頼者の自由です。相談を受けた弁護士が、依頼している弁護士に漏らすことはありません。

もっとも、通常の相談と異なり、
・すでに裁判などの手続になっている場合、記録一式をご持参いただかないと適切に判断できない。
・裁判が相当進んでいるような場合、30分や1時間では記録を確認しきれないので、相談の範囲内では適切なアドバイスができないことがある。
といった問題もあります。本格的な検討が必要な場合は、相談だけでは適切なアドバイスができないこともあります。

弁護士への相談・依頼について

Q

弁護士費用の基準になる「経済的利益」はどう計算されますか

A

基本的には、「回収・確保できた財産の額」「負担を免れた金銭・財産価値の額」になりますが、個々の事件・契約によります

弁護士費用は、一般には、当初にいただく「着手金」と一定の解決になった場合の「報酬金」からなります。
いずれも「経済的利益」を基準に定めるのが通例です。
この「経済的利益」は、一般には、以下のとおり計算します。
<金銭を請求する側>
着手金:請求する金銭・財産価値の額
報酬金:回収・確保できた財産の額
*「確保」とは、たとえば相続事件で自分が現に住んでいる建物・敷地を取得したように、「回収」に限らない場合も含みます。
<金銭を請求される側>
着手金:請求されている金銭・財産価値の額
報酬金:負担を免れた金銭・財産価値の額

もっとも、金銭請求されている側で、相手の請求額が過大な場合は、適正な額を基準にするなど適宜調整します。

弁護士への相談・依頼について

Q

すでに依頼している弁護士を変えるときはどうしたらいいですか

A

途中で弁護士を解任するのは依頼者の自由であり、一方的な通告で済みます

弁護士との契約は「委任契約」となり、どちらからも一方的に解除することができる性質のものです。
したがって、弁護士への依頼をやめたいと思えば、いつでも一方的に解除することは可能です。

なお、委任の解除については、「相手方に不利な時期に委任を解除したとき」又は「委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき」に解除した場合には賠償責任を負うことになっています。
しかし、解任される弁護士にとってはどの時点で解任されても「不利な時期」とは言い難いと考えられます。そのため、解任までの仕事による弁護士費用が生じることはともかく、賠償責任を負うとは考えづらいです(東京高裁2006年6月27日判決、東京高裁2006年10月24日判決)。
また、弁護士が依頼を受けるのは報酬を得るためなので、「専ら報酬を得ることによるもの」に該当すると考えられます。
したがって、途中解除によって賠償責任を負うことは通常は考えづらいです。

離婚問題について

Q

離婚問題のQ&A(目次)

A

離婚問題のQ&Aの内容は以下の通りです。
各タイトルをクリックすればそれぞれのQ&Aに飛びます。

第1 離婚の手続
1 離婚するには、どのような手続をとったらよいですか
2 どの手続の段階で弁護士に依頼できますか
3 それぞれの手続でどれくらい期間がかかりますか
4 離婚するまで同居しないといけませんか
5 同居審判を申し立てられたので、どうしたらいいですか
6 別居・離婚に伴って、どのような請求ができますか
7 先に離婚して、後から慰謝料や財産分与などの請求をすることができますか

第2 離婚原因及びその証拠
1 相手が離婚を拒否している場合、どういうときに離婚できますか
2 まだ別居して間がないので、時間を置いてから調停を申し立てた方がいいですか
3 離婚理由・慰謝料理由になる「不貞」とはどのような行為ですか
4 風俗店の利用は「不貞」に該当しますか
5 配偶者の有責行為は、どのように裏づけたらいいですか
6 無断録音や他人のメールは不貞などの証拠として使えますか
7 不貞をしたような有責配偶者は、どのようなときに離婚できますか
8 離婚原因として問題になる「別居」はどういう状態を指しますか。時々連絡をとったり、子どもに会って宿泊していても「別居」になりますか。

第3 子どもの問題
1 未成年の子どもの親権者はどのように決まりますか
2 一旦決まった親権者の変更はできませんか
3 まだ離婚していない時点で、奪われた子どもを取り戻すことはできませんか
4 別居して相手方が監護している子どもに会うにはどうしたらいいですか

以下は「離婚後共同親権」導入の法改正に関するQ&Aです

5 法改正で、離婚に伴う親権者の扱いにどのような変化がありますか

6 法改正で、離婚後も原則として共同親権になるのですか

7 改正法施行前に離婚していた場合でも、共同親権になるのですか

8 改正法施行前に離婚していた場合でも、共同親権に変更されることはありますか

9 改正法施行前に単独親権者となって離婚した後、再婚相手と子どもが養子縁組した場合、改正法施行後に親権者変更されることはありますか

10 離婚後共同親権になった場合、監護している親が単独で決められるのはどういった事柄ですか

11 離婚後共同親権になった場合、離婚後の子どもの名字はどうなりますか

 

第4 離婚に伴う金銭請求等① 財産分与
1 離婚に伴って請求できる財産分与とはどういうものですか
2 財産分与で分ける財産を確定する基準時はどのように決まりますか。単身赴任で別居していた場合は、単身赴任になった時点が基準時になりますか。
3 財産分与の対象となる財産は、どのように価格を評価されますか。別居後まもなく不動産や株を売却してしまった場合はどうなりますか。
4 どのような財産が財産分与の対象になり、どのように評価されますか。

5 夫婦の一方名義の預貯金はどのように財産分与対象となりますか。婚姻前から持っていた預金は特有財産になりますか。
6 法人(会社)や子どもなど第三者名義の預金は財産分与対象となりますか。
7 子どもの学資保険は子どものためのものなので財産分与対象外になりますか。
8 結婚前の預金や実家の援助を頭金にして住宅ローンを組んだ場合の不動産は、全て財産分与対象になるのですか。
9 株式は財産分与対象となりますか。
10 まだ支払われていない退職金は、財産分与の対象になりますか。
11 自衛官が将来受け取る若年定年退職者給付金は財産分与の対象になりますか。
12 企業年金は財産分与対象になりますか。
13 生命保険は財産分与対象となりますか。
14 自動車などの物は財産分与対象となりますか。
15 ギャンブルで得たお金も財産分与対象となりますか。
16 借金は財産分与対象となりますか。

17 財産分与で財産を分ける割合はどのように決まりますか。たとえば、妻が専業主婦で夫が高収入の場合でも5:5になりますか。
18 具体的にどちらがどの財産を持つことになるのかは、どのように決まるのですか。
19 住宅ローンの残った住宅がある場合は、どのように財産分与がなされますか。
20 同居中に夫婦間で財産の贈与があった場合には、贈与された財産は財産分与の対象となりますか

第5 離婚に伴う金銭請求等② 慰謝料等
1 離婚に伴う慰謝料請求は、どういう場合に認められますか
2 慰謝料の相場はどうなっていますか
3 不貞の場合、不倫相手と配偶者と別々に慰謝料請求できますか。離婚しない場合、不倫相手だけに慰謝料請求できますか。
4 不貞の証拠を確保するために興信所に支払った費用は請求できますか
5 配偶者の不貞によって離婚に至ることで子どもが被った精神的苦痛について、子どもから慰謝料請求することはできますか
6 配偶者が会社の従業員と不倫した場合、会社の責任はありませんか
7 不倫をした配偶者や不倫相手の勤務先に不倫の事実を知らせても構いませんか
8 不倫相手との間で、「今後、配偶者と私的な接触をした場合には1000万円支払う」といった違約金の合意をした場合、有効ですか

第6 離婚に伴う金銭請求等③ 養育費・婚姻費用
1 どのような場合に婚姻費用・養育費が請求できますか
2 同居中ですが、夫が生活費を渡してくれなくなりました。婚姻費用を請求できますか。
3 婚姻関係が完全に破綻しているのに、婚姻費用を支払わなければならないのですか。不貞をした有責配偶者からの請求でも認められるのですか。
4 婚姻費用・養育費はどのように決まるのですか。
5 婚姻費用・養育費はいつから請求できますか。これまで支払われていなかった期間の分は支払わせられませんか。
6 婚姻費用・養育費はいつまで請求できますか。
7 婚姻費用・養育費を決める「算定表」は、どのような計算で作成されているのですか。
8 算定表に当てはめる収入は、どのような資料でどのように判断したらいいですか。
9 算定表の幅の枠内での金額はどのように決まるのですか。
10 算定表に当てはまらないケースでは、婚姻費用・養育費はどう計算したらいいのですか。
11 相手が働けるのに働いていない場合でも、実際の収入を元に婚姻費用・養育費が算定されますか。

12 以下の収入は、婚姻費用・養育費を計算する上での収入と扱われますか。
(1) 生活保護費
(2) 児童手当・児童扶養手当、高等学校等就学支援金
(3) 子どもの収入
(4) 親の援助
(5) 年金収入
(6) 雇用保険による給付など
(7) 結婚前からあった資産

13 住宅ローンの返済などの借金返済は、婚姻費用・養育費を算定する上で収入から控除されますか。
14 子どもが私立学校に通っている場合も、婚姻費用・養育費は算定表通りになりますか。
15 預貯金が持ち出されている場合でも、婚姻費用を支払わないといけないのですか。
16 一旦決まった婚姻費用・養育費の変更は認められますか。
17 一旦合意した婚姻費用・養育費が高すぎる/安すぎるので、変更できませんか。
18 子どもが15歳になった場合や、定年退職で減収になった場合はあらかじめ予想できた事情ですが、婚姻費用/養育費の増額・減額理由になりますか。
19 一旦合意した婚姻費用/養育費が変更される場合は、変更後の金額は算定表に基づいて計算されますか。

20 婚姻費用・養育費の増額・減額理由がある場合、どの時点から増額・減額が認められますか。

21 子どもを監護していない夫(別居中)が児童手当を受け取っている場合、その児童手当を返してもらえないですか。
22 支払が不安なので、養育費を一括払いしてもらうことはできませんか。保証人を付けさせることはできませんか。
23 婚姻費用・養育費の金額を決めるのとは別に「子どもの学費を負担する」という合意をしました。この合意に基づいて学費を請求できますか。

第7 離婚に伴う金銭請求等④ 年金分割
1 年金分割とは、どのような制度ですか。
2 内縁関係にあった場合でも年金分割の請求ができますか。
3 財産分与と同様に、年金分割も同居期間中だけを対象とすることはできないのですか。
4 合意分割の按分割合は、どのように決まりますか。
5 離婚に当たり、「当事者間に何らの債権債務を有しないことを確認する。」という合意をしましたが、年金分割も請求できなくなりますか。
6 離婚に当たり、「年金分割請求をしない」という合意をした場合、この合意は有効ですか。
7 離婚した後に年金分割の請求をする場合、期限はありますか。
8 離婚した後に年金分割請求をしようと思っていたら、元配偶者が死亡しました。この場合に年金分割は可能ですか。

第8 届出・戸籍等
1 離婚をする場合の届出はどのようにしたらいいですか。婚姻届のように二人で届出ないといけませんか。
2 離婚のときに夫の氏を引き続き使用することにしましたが、後から旧姓に戻りたいと思った場合はどうしたらいいですか。
3 離婚してから300日以内に出産する子どもを、元夫の子どもとして扱われないためにどうしたらいいですか。

第9 税金
1 婚姻費用・養育費には税金がかかりますか
2 慰謝料には税金がかかりますか
3 財産分与には税金がかかりますか
4 離婚して養育費を支払っている場合、扶養控除を受けることはできますか

離婚問題について

Q

離婚するには、どのような手続をとったらよいですか

A

 離婚することと未成年の子どもの親権者さえ合意できていれば、役所・役場に届け出る「協議離婚」による離婚が可能です。
 相手方が離婚に応じない場合や条件が折り合わず協議離婚ができない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てて裁判所で話し合い、合意できない場合は、離婚訴訟を起こして裁判で争うことになります。

 

1 離婚の種類
 離婚には、協議離婚、調停離婚・審判離婚、裁判離婚があります。
 協議離婚は、当事者で合意して市役所・区役所・町村役場に離婚届を提出することで離婚になる手続で、離婚全体の約9割が協議離婚です。
 それ以外の離婚は、いずれも裁判所の手続を経た離婚です。

2 協議離婚
 協議離婚の場合は、当事者が離婚に合意できているので、離婚の理由は問題になりません。
 ただし、未成年の子どもがいる場合には、どちらが親権者になるかも決めないといけません。
離婚に伴う諸条件(慰謝料・財産分与・年金分割・養育費など)は、離婚の合意と一緒に合意されることも少なくありませんが、離婚してから決めることもできます。当事者の合意で決まらない場合には、これらの条件だけを後日裁判所で決めるよう求めることもできます。
 もっとも、それぞれ期間制限がありますし、先に離婚と親権者だけ決めて離婚した場合に、後日、慰謝料・財産分与・養育費・年金分割を請求する場合には、別々の手続をとらなければならなくなることもあるなど、かえって負担が大きくなる場合もあります。
 手続面の負担を別としても、相手方との交渉などを考えると、急いで応じない方が得策ということもありますので、よく検討された方がいいでしょう。

3 調停離婚・審判離婚
 当事者の合意で離婚ができない場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて、裁判所で話し合うことになります。
 この場合、調停を申し立てるべき家庭裁判所は、原則として相手方の住所地を管轄する裁判所になります。別居して相手方が遠方にいる場合に、裁判所に何度も行くのは負担になるので、電話会議又はテレビ会議の方法により、現実に裁判所に赴く負担を減らして手続を進めることができる場合もあります。

 調停は、両者が直接話し合うのではなく、間に調停委員(男女2名)が入って調整して話し合いを進めることになり、1~2か月に1回程度、1回につき2時間程度のペースで進められます。
 調停は自分で弁護士を付けなくても進めることのできる手続ですが、弁護士を付けていなかったばかりに、不正確な説明に丸め込まれたりして、不利な合意をしてしまっているケースも散見されます。不安がある場合には、調停を申し立てる段階から弁護士に依頼するか、最低限、適宜相談しながら手続を進める方がよいでしょう。

 審判離婚は、調停で合意できない場合に、裁判所が「調停に代わる審判」で離婚及び離婚条件を決定し、当事者双方が告知を受けてから2週間以内に異議を申し立てない場合に離婚が成立することです。当事者一方から異議があれば審判は効力を失うので、「ほぼ条件で合意できているが、最後の折り合いが付かない」場合や、当事者の一方が遠方で出席できないが条件面では折り合いが付いているようなケースで利用されていると言われています。しかし、現状では、かなり例外的です。

4 裁判離婚
 調停で合意に至らず終了した場合には、家庭裁判所に離婚訴訟を起こすことができます。
離婚訴訟を起こすのは、調停を申し立てられた側からでも可能です。
 調停と異なり、訴訟を起こす裁判所は、原告又は被告の住所地を管轄する裁判所となるので、自分の住所地の裁判所で起こすことが可能です。ただし、相手方からの申立てによって、審理する裁判所を移されることはあり得ます。
 離婚訴訟で、離婚する和解が成立するか、離婚を認める判決が言い渡されて確定した場合には、離婚が成立します。

離婚問題について

Q

どの手続の段階で弁護士に依頼したらいいですか

A

どの段階でもご依頼可能です

弁護士に依頼するのにどの時点でなければならないということはなく、相手と協議・交渉をする段階で弁護士に依頼し、弁護士が本人に代わって交渉を行うことも可能です。
他方で、ご自分で協議や交渉をし、更に調停が不成立で終了して裁判を起こす段階でご依頼することも可能です。
<早期の段階で依頼するメリット・デメリット>
〇 メリット
・自分で相手と話をしなくていいので、負担が減る。
・法的に応じなくてよい要求だと知らずに要求に応じることを回避できる。
・法的な見通しを踏まえて協議・交渉が可能になる。
〇 デメリット
・弁護士費用がかかる。

1 協議・交渉段階
弁護士が本人に代わって相手に離婚を求め、条件等の交渉をすることもあります。
弁護士に依頼することで、協議で解決できないときには法的手続に進める意向だということが明確になります。
そして、裁判になった場合の見通しを踏まえた交渉になるので、応じなくてよい要求だとわからないまま過剰な要求に応じることは回避できます。
もっとも、弁護士は相手を説得する強制力はないので、折り合いが付かないと分かれば、協議・交渉は打ち切って次の手続に進めることになります。

2 調停段階
調停も話し合いの場ではあるし、裁判所で調停委員を介して話し合うので、直接相手と話をする必要もありません。
他方、調停を弁護士にご依頼しても、離婚問題はいろいろな条件がかかわることも多く弁護士でその場で答えられない事柄もありますし、調停で合意して離婚するにはご本人にご出席いただく必要があります。そのため、弁護士に依頼した場合でもご本人もご出席いただくこともあります。
もっとも、裁判所の調停でも、調停委員は素人なので、法的に正確な知識を持っておらず、相手方の根拠のない言い分をそのまま伝えてくるとか、法的に間違った見通しを述べて不正確な情報で合意してしまったということもしばしばあります。
そうした事態を避けることができるという点で、協議・交渉段階で弁護士に依頼する場合のメリットと同様の意味があるとはいえるでしょう。

3 裁判段階
裁判となると、法的枠組みに基づいて、主張すべき点を適切に主張し、証拠を提出しないと、本来よりも不利な結果になったり、スムーズに進行せずに無駄に期間がかかることもあります。
どんなに遅くとも裁判を起こす段階では弁護士に依頼すべきです。

離婚問題について

Q

それぞれの手続でどれくらい日数がかかりますか

A

1か月以内にスムーズに解決することもあれば、3年以上かかることもあり、ケースバイケースです。

1 協議・交渉段階
 弁護士に依頼しようとご自分で協議しようと、最終的には相手と合意できなければ離婚は不可能です。
 協議・交渉の期限はなく、人によっては、「子どもが成人するまでは離婚に応じない」などと述べる人もいますが、それで成人まで待っていたら、今度は「大学卒業まで」とどんどん延長されることもあります。
 事情次第ではありますが、早期の離婚を希望するのであれば延々と協議を続けるよりは次の手続に進めた方がいいでしょう。

2 調停段階
 調停は、1回の期日で終わるのではなく、たとえば、「次回までに離婚に応じるかどうかよく考える」「次回までに双方の財産関係の資料を出す」などということで、何度も協議の期日が重ねられることがあります。
 スムーズにいけば、1,2回で終わることもありますが、離婚に関わる問題が多数あると回数もかかり期間もかかります。
 統計からみて、合意できる場合・合意できずに終わる場合を含めた終了までのおおよその期間としては、
・50%程度は6か月以内に終わっている。
・90%程度は1年以内に終わっている。
・1年を超すことも1割程度あるが、2年以上かかることは滅多にない。
というものです。

3 裁判段階
 裁判も、1回の期日で終わるのではなく、期日ごとに主張・証拠を出していくので、その応酬で一定の期間がかかります。更に、少なくとも当事者双方の言い分(証言)を聞く尋問の手続をすることが一般的で、これも1回の期日が必要となります。
 そのため、判決までいく場合にはスムーズにいっても1年くらいかかり、争点が複数あるなどの事情だと2年以上かかってしまうこともあります。
 他方で、早期の段階で和解で終了することもあります。
 そのため、これも進展次第でまちまちな面があります。

離婚問題について

Q

離婚するまで同居しないといけませんか

A

相手の同意なく別居して構いません。

1 夫婦の同居義務
法律上は、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」と定められ(民法752条)、同居義務があることになっています。

2 「同居義務」の意味
もっとも、同居したまま離婚調停や訴訟をするのは困難なので、まず別居してからこれらの手続をとるのが一般的です。
そのため、現実には、夫婦関係を円満に継続できないような場合には、別居することで同居義務違反になるとは受け止められず、同居義務に違反したとして不利になるケースはまずありません。
同居義務が意味を持つのは、たとえば、婚姻前から夫が所有していた自宅に夫と妻が住んでいる場合に、夫が妻に対して自宅からの退去を要求することができないというように、住む権利を守るという局面です。
したがって、特に相手方の許可なく別居しても構いません。もっとも、一旦別居すると、荷物を取りに戻るのも円滑にできない場合など、その後に支障を来すことはあります。事前に弁護士と相談してみた方がいいこともあるでしょう。

離婚問題について

Q

同居審判を申し立てられたので、どうしたらいいですか

A

同居審判が申し立てられた場合には、同居できない事情を主張して反論すべきです。仮に同居を命じられても強制力はありません。

1 同居審判とは
法律上は夫婦に同居義務があるため、裁判所の手続として、別居して家を出ていった相手方に対し、同居を命じるよう申し立てる同居審判という手続が存在します。
しかし、現実には同居を命じる審判がなされることは稀です。
「共同生活を営む前提となる夫婦間の愛情と信頼関係が失われ,仮に,同居の審判がされて,同居生活が再開されたとしても,夫婦が互いの人格を傷つけ又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が高いと認められる場合には,同居を命じるのは相当ではない」(大阪高裁2009年8月13日決定)などと考えられており、別居するほど夫婦仲が悪化している状況では、同居を命じるのは適当ではないからです。
また、仮に、同居するよう命じる審判が認められても、強制力はありませんから、現実に同居しないといけないわけではありません。

2 同居義務違反で不利になることはあるか
別居したこと自体で不利になることは考えられません。
もっとも、別居しても夫婦の扶助義務はあるので、たとえば、収入のある夫と専業主婦の夫婦であれば、夫が妻に婚姻費用(生活費)を分担する義務はあります。請求にもかかわらず負担を拒否し続けていたような場合であれば、そのことをもって悪意の遺棄に当たると評価されることはあり得ます。

離婚問題について

Q

別居・離婚に伴って、どのような請求ができますか

A

離婚するまでの間は、婚姻費用を請求できます。離婚に伴うものとしては、財産分与・養育費・年金分割を請求できます。また、離婚の経緯によっては慰謝料請求ができることもあります。

 離婚するまでの間は、婚姻関係があることによって、婚姻費用を請求できます。離婚後は、子どもの親権者となった方が相手方に養育費を請求できます。
 また、夫婦で形成された財産を分けるよう求める財産分与の請求権があるほか、相手方の有責行為に離婚に至ったときは慰謝料請求も可能です。
 このほか、婚姻している間の保険料納付記録を夫と妻の間で分割する年金分割の請求も可能です。
詳しくは、それぞれのQ&Aをご参照下さい。

離婚問題について

Q

先に離婚して、後から慰謝料や財産分与の請求をすることができますか

A

可能ですが、それぞれの時効に注意する必要があります。また、手続が面倒になる場合もあります。今後お互いに金銭請求をしないといった条件を付けて離婚してしまうと、金銭請求はできなくなります。

1 財産分与・養育費・慰謝料請求・年金分割の請求の手続と注意点
(1) 後から請求することは可能
 財産分与・養育費・慰謝料請求・年金分割の請求は、離婚した後からすることも可能です。
 調停離婚・裁判離婚では、可能な請求は併せて行い解決することが多いですが、十分に条件を決めないまま協議離婚してしまった場合などは、後からでも請求して構いません。
(2) 「清算条項」に注意
 もちろん、調停離婚・裁判離婚した場合でも後から他の請求をすることは可能です。ただし、調停や和解で離婚した場合には、「今後お互いに金銭請求をしない」といった清算条項(清算条項)を付けて合意するのが一般的です。このような条項で合意をすると、財産分与・慰謝料については、後から請求できなくなる場合があります。
(3) 後から請求する場合の手続
 後から請求する場合は、慰謝料請求は簡易裁判所・地方裁判所の民事訴訟として、養育費・財産分与・年金分割の請求は家庭裁判所の調停・審判の手続で行うことになります。場合によっては複数の手続を別個に進めなければならないことになり、負担がかかります。

2 財産分与・養育費・慰謝料請求・年金分割請求の期間制限等
 以下のとおり、離婚してから手続をするには期間制限等があります。
 財産分与 離婚してから2年間(民法768条2項)
 慰謝料請求 配偶者の有責行為によって離婚に至った場合は、離婚してから3年間(民法724条1号)
 離婚原因とならない不法行為による慰謝料は、離婚してから6か月(民法159条)
 養育費 請求する以前の期間の分は請求できなくなる可能性が高い
 年金分割 離婚してから2年間(厚生年金保険法78条の2第1項)

3 一般には請求を後回しにするメリットは乏しい
 こうした点を考えると、一般には、後から請求するのはメリットが乏しいと言えます。

離婚問題について

Q

相手が離婚を拒否している場合、どういうときに離婚できますか

A

法律上定められた離婚理由がある場合のほか、相当程度の別居期間が経過し婚姻関係が破綻しているようなケースに認められます。

1 法律上の離婚原因
 法律上の離婚原因は、①配偶者の不貞行為、②配偶者による悪意の遺棄、③配偶者の生死が三年以上明らかでないとき、④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき、⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるときと定められています(民法770条)。
 問題になることの多い①②⑤について、説明します。

2 不貞行為とは
 「不貞行為」とは、いわゆる「不倫」であり、肉体関係を持った場合を意味します。
 もっとも、時々「一緒にラブホテルには入ったが、うまくできなかったので、肉体関係までは持っていない」といったことを述べる方もいます。
 しかし、このような場合に「不貞行為」そのものに当たらないとしても、離婚理由になることには変わりがありません。また、頻度や期間の定めはないので、1回限りの不貞行為でも離婚理由に当たります。

3 悪意の遺棄とは
 「悪意の遺棄」とは、婚姻に伴う同居・協力・扶助義務を、正当な理由なく履行しない
ことをいいます。
 もっとも、現実問題としては、別居しただけで「悪意の遺棄」に当たると評価されることはまずありません。
 該当するのは、夫が一方的に妻子をおいて家から出て行き、生活費を送らない、といったようなケースが典型です。

4 婚姻を継続し難い重大な事由
 その他、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがない状態であれば、「婚姻を継続し難い重大な事由」があることになります。
(1) 暴力・虐待
 暴力・虐待を受けているようなケースは、離婚理由に該当します。
(2) 婚姻関係の破綻
 「性格の不一致」と言われるように、不貞や暴力のように明確な理由はないが夫婦関係がうまくいっていないというケースも少なくありません。こういう場合、一方が拒否していると、「夫婦仲の回復の見込みがないとは言えない」と判断され、直ちには離婚できないこともあります。
 結果的に分かりやすい目安となるのが、別居して相当期間が経過しているということになります。
この別居期間については、5年が1つの基準になるという見解も見られますが、実際には、別居に至った経緯や、別居後の夫婦間のやり取り(修復を求める行動が一方からあったかどうか)なども踏まえて考慮されます。
 たとえば、別居前から夫婦仲が悪く、1年間程度は家庭内別居状態であったようなケース(婚姻期間約30年間)で2年程度の別居期間でも、判決で離婚が認められている例もあります。
 また、別居期間は婚姻期間との対比でも考えられるので、婚姻期間が短いケースならそこまで長期間の別居は必ずしも必要ありません。

離婚問題について

Q

夫婦仲が悪いので、家を出て別居を始めましたが、不貞や暴力のような離婚理由がありません。裁判になっても離婚できなさそうなので、時間を置いてから調停を申し立てた方がいいですか。

A

早く申し立ててしまった方が早期の離婚につながることもあります。

1 調停・裁判をしている間も別居期間になり、それで十分なこともある
 婚姻関係が破綻しているかどうかの目安となる別居期間は、基本的には、裁判で審理が終結した時点までで考えます。調停や訴訟をしている間に1、2年は経過するので、調停や訴訟をしている間に経過した期間で、別居期間として十分になることもあります。

2 裁判所の手続に入ることで相手方も離婚に応じてくることもある
 相手方が当初離婚を拒否している場合でも、調停や訴訟まで進めれば条件次第で応じてくることも少なからずあります。
 特に、相手方の方が収入が多いケースなら、離婚調停と併せて婚姻費用請求の調停を申し立てれば、相手方は、離婚するまで婚姻費用を支払い続けることになるので、その負担を嫌って離婚に応じてくる場合もあります。
 以上のことから、別居して間がないからというだけで調停申し立てを控えるのは必ずしも適切ではありません。

離婚問題について

Q

離婚理由・慰謝料理由になる「不貞」とはどのような行為ですか

A

基本的には「肉体関係」を意味しますが、婚姻関係の円満を侵害する行為であれば肉体関係に至らない行為も該当する余地はあります。

判例上は、「不貞」は「配偶者ある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいう」などとされています(最高裁1973年11月15日判決)。
これは、肉体関係を持つことで婚姻共同生活の平和を侵害するからですが、逆に言えば、肉体関係に限らず一般的に婚姻共同生活の平和を侵害する行為であれば、「不貞」に該当するか、それに準ずるものとして離婚理由・慰謝料理由になるといえます。
そのため、判決でも肉体関係まで認められなくとも離婚・慰謝料を認めた例もあります。

離婚問題について

Q

配偶者の有責行為は、どのように裏づけたらいいですか

A

写真・録音など様々なものが証拠に使えます

1 不貞の証拠
不貞の証拠として典型的なものは、
① 配偶者と不倫相手のメールやLINEのやり取り
② ラブホテルに出入りしている写真や、深夜に不倫相手の家に出入りした写真
③ 不倫の事実を認めた書面や録音
といったものが挙げられます。

2 暴言・暴力
暴言や暴力が問題となっているケースでは、
・医療機関の診察
・暴力を受けた後の自分の写真
・暴力・暴言場面の録音
といったものが挙げられます。

証明したい事実を裏づけるものであれば、原則としてどのようなものでも裁判の判断材料としての証拠にはなります。できるだけ証拠を確保し揃えておいた方がいいでしょう。

離婚問題について

Q

無断録音や他人のメールは、不貞などの証拠として使えますか

A

犯罪に当たるような行為で確保したものでなければ、証拠として使うことは可能です

1 証拠能力のルール
民事裁判では、証拠として使える物の制限は原則としてありません。ただし、著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたものについては、違法に収集された証拠(違法収集証拠)として、証拠として使えなくなるというのが一般的な考え方です。

2 メールやLINEなど
配偶者のメールやLINEを見る方法としては、①配偶者のID・パスワード等を配偶者の携帯電話機等に入力して、その機器の内部に保存されたメール等を見る方法と、②配偶者のID・パスワード等を用いて、他のパソコンなどからログインして、メール等を見る方法が考えられます。
しかし、後者の②の場合は、配偶者の承諾がない場合には不正アクセス禁止法の「不正アクセス行為」に当たり、犯罪に該当します。犯罪行為で取得した証拠かどうかは違法収集証拠に当たるかどうかに直結はしませんが、違法性が高いとの評価にはなります。最近の裁判例を見ても、不正アクセス行為によって取得したものではないことを理由として、配偶者と不貞相手のメール等の証拠能力を否定していないものも存在します。
他方で、前者の方法による場合は犯罪に当たりません。既に別居した後に配偶者の自宅に入って証拠を取得したような場合を別とすれば(この場合、住居侵入罪になり得る。)、①の方法によって取得した証拠が違法収集証拠と評価される可能性は低いと思われます。

最近の裁判例の傾向
(1) 名古屋地裁2017年9月15日判決
「原告がA美の同意を得ることなくメールのデータ等を入手したものであるとは認められるものの,原告が携帯会社のサーバーに侵入してデータを入手したと認めるに足りる証拠はなく,また,信義則上,証拠から排除しなければならないほどの事情があるとも認められない。」
(2) 東京地裁2016年 8月 4日判決
「被告は,原告がAからパスワードを教えられていないのに,これを特定して,Aの携帯電話に入力して甲2,3を入手したとして,甲2,3の証拠能力が否定されるべきと主張するが,被告主張の事実を前提としても,甲2,3が著しく反社会的な手段を用いて採集されたものとは認められず,証拠能力を欠くものとは認められない。」
(3) 東京地裁2015年 9月16日判決
原告(夫)が、被告(妻)の携帯電話機から収集した証拠(データ)について、原告が,被告の携帯電話の着信に気づき,被告から携帯電話を取り上げようとした際,被告の顔面を殴打し,右脇腹を押さえ付けて肋骨を骨折させる程度の暴行を加えているという事実関係で、「これが原告の被告に対する不法行為として民事上の責任を負うことは別として,本件訴訟における違法収集証拠として証拠能力が否定されるべきものとまでは認められない。」と判断している。(なお、上記暴行についても慰謝料請求が認められている。)
(4) 東京地裁2009年 7月22日判決
夫の入浴中に、無断で携帯電話を確認して、そのメールを転送したり、夫のパソコンに保存されていた不貞相手の写真をプリントアウトした行為について、「その取得の方法・態様は,上記メール及び写真の民事訴訟における証拠能力を排除しなければならないほどに著しく反社会的なものであるとは認め難」いと判断した。

このように、勝手にパソコン・携帯電話機のメール等を取得したという程度では証拠能力は否定されていません。

3 録音
録音としては、①配偶者や浮気相手を問い質して、不貞を認めさせたときの会話を録音した場合や、DV場面などを録音した場合、②自宅や自動車内に録音機器を置いておき、不貞の場面や不貞相手との会話内容を録音したというケースがあります。
まず、①については、このように、録音する者と相手方の会話などを録音したものは、相手方に無断で録音しても証拠能力は否定されません。離婚・不貞事件に限らず、パワハラ事件など多数の事例でこういった証拠が使われることはありますが、証拠能力は問題にもならないが実際のところです。
他方で、②については、プライバシー侵害になるとは言えますが、これも証拠能力は否定されていません。
もっとも、裁判例を見ると、録音装置を設置した時点ではまだ完全な別居状態ではなかったことに言及しているものもありますし(東京地裁2013年 8月22日判決)、別居後に妻が元の自宅に入って持ち出した夫のノートについて証拠能力を否定した例も存在します(東京地裁1998年 5月29日判決)。こうした傾向から考えると、完全な別居後に録音装置を仕掛けたようなケースでは証拠能力が否定されることもあり得ると言えます。

離婚問題について

Q

風俗店の利用は「不貞」に該当しますか

A

本来的には該当するといえますが、該当しないと判断されている例もあります。

性交又は性交類似行為のサービスを提供する風俗店の利用は、本来的には「不貞」に該当するといえます。
裁判例でも、風俗店の利用が不貞行為(不法行為)に該当すると認められている例もあります(東京地裁2010年2月5日判決、東京地裁2005年6月24日判決等)。

他方で、以下のように、風俗店の利用のみをもっては不貞行為・不法行為に該当しないと判断されている例もあります。

(消極例)
〇 東京地裁2021年1月18日判決
妻が夫の不貞相手(風俗店従業員)に慰謝料請求した事案で、夫が提供を受けた性的サービスは「性的サービスの提供を業務とする店舗の従業員と利用客という関係に基づいてなされたものであり,その際になされた性交渉も,被告とAの従業員と利用客という関係を超えてなされたものとは認められない。」として、以下のとおり慰謝料請求を否定しました。
「風俗店の従業員と利用客との間で性交渉が行われることが,直ちに利用客とその配偶者との婚姻共同生活の平和を害するものとは解し難く,仮に,婚姻共同生活の平和を害することがあるとしても,その程度は客観的にみて軽微であるということができる。
そうすると,仮に,被告とAとの間でなされた本件性的サービスの際の性交渉が,原告の婚姻共同生活の平和の維持を侵害し,不貞行為に当たり得る面があるとしても,それにより,原告に,金銭の支払によらなければ慰藉されないほどの精神的苦痛が生じたものと認めるに足りない。」

〇 横浜家裁2019年3月27日判決
妻が夫に離婚等を請求した事案で、夫が1回デリヘルの性的サービスを利用したことを認定しつつ、「仮にあと数回の利用があったとしても,被告は発覚当初から原告に謝罪し……,今後利用しない旨約束していること……からすると,この点のみをもって,離婚事由に当たるまでの不貞行為があったとは評価できない。」と判断して離婚・慰謝料請求を否定しました。

〇 東京地裁2015年7月27日判決
妻が夫の不貞相手(ソープランド従業員)に慰謝料請求した事案で、夫がソープランド店舗を利用していた時期については、「性的サービスの提供を業務とする本件店舗において,利用客であるAが対価を支払うことにより従業員である被告が肉体関係に応じたものであると認められ,それ自体が直ちに婚姻共同生活の平和を害するものではないから,これが原因で原告とAとの夫婦関係が悪化したとしても,被告が故意又は過失によってこれに寄与したものとは認め難いというべきである。」として不法行為の成立を否定しました(ただし、その後、店外で肉体関係を持っていた時期については不法行為を認めた。)。

〇 東京地裁2015年7月27日判決
妻が夫に離婚等を請求した事案で、「証拠から認定できる事実は,被告が風俗店で遊んだこと,特定の女性とメールのやりとりをしていたこと及び被告が淋病に罹患したことに止まり,これらの事実のみでは,被告が特定の女性と性的関係を持つことにより不貞行為をしたことやこれにより婚姻関係が破綻したことまでは未だ認められないといわざるを得ない。したがって,この点についての原告の主張は理由がない。」として、風俗店の利用をもって有責行為と認めませんでした。

(積極)
風俗店の利用を契機に風俗店従業員と交際を開始したような事案では、慰謝料請求を認めています(東京地裁2018年1月19日判決、東京地裁2016年3月28日判決、東京地裁2016年3月22日判決)。
また、以下のとおり風俗店の利用自体を不貞行為と認めた例もあります。

〇 東京地裁2010年2月5日判決
「被告が風俗店において原告以外の女性と数回にわたり性交渉を持ったこと(なお,このこと自体も不貞行為に該当し,不法行為として損害賠償の対象となり得るものと解される。)については被告本人もこれを認める供述をしており,これに証拠(甲10,13,16,原告本人の供述)を合わせ考慮すれば,被告は風俗店において性交渉を持った結果性病に罹患し,平成17年1月ころには原告に性病を感染させたものと認めることができる(但し,被告が原告に性病を感染させた回数が数回に及ぶこと,及び被告が特定の女性と不倫関係に及んでいたことを示す適確な証拠はない。)。」

〇 東京地裁2005年6月24日判決
離婚請求事件で以下のとおり判断。
「証拠(被告本人)によると,被告は,平成9年2月及び平成13年5月か同年6月ころ,ソープランドへ行ったものと認めることができ,被告の行為は,原告との関係で,不法行為にあたるというべきである。」

離婚問題について

Q

不貞をしたような有責配偶者は、どのようなときに離婚できますか

A

一般的な判断枠組みとしては、相当期間の別居をし、経済的手当をしていることが必要と考えられています。

1 判例の示した要件
かつては不貞をした有責配偶者からの離婚請求は認めないとされていましたが、①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、②その間に未成熟の子が存在しない場合には、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、有責配偶者からの離婚請求も認められるとされています(最高裁1987年9月2日判決)。
傾向としては、別居期間が10年以上に達していれば離婚が認められやすく、6~8年程度だと十分な経済的給付をしているとかの事情がないと離婚が認められないこともあると言えます。
最近は別居期間について相当緩和して判断した裁判例も現れていますが、依然として厳格に判断している例もあります。

2 最近の緩和した事例
(1) 静岡家裁浜松支部2021年1月26日判決
不貞をした夫(ナイジェリア国籍)から妻(フィリピン国籍)への離婚請求で、同居期間が約4年8か月(2012年12月4日婚姻、2017年8月頃別居)で別居期間が3年半程度(2人の間に子どもはいないという事実関係で、「原告と被告は平成29年8月頃から現在まで別居を継続しており,別居期間は相当期間に及んでいると評価できる。」と判断し、「原被告間の婚姻関係は,原告の不貞行為のみにより破綻に至ったわけではなく,それに先立ち,主として,同居中の被告やその子らの生活態度について原告と考えが合わず,原告が車中泊をするなどして疎外感を強めていったこと等により次第に悪化していったことが認められ,かかる事実関係の下では,被告が離婚によって多少の精神的苦痛を被ること(なお,離婚慰謝料の支払によりその精神的苦痛が慰謝されるべきことは後記6のとおりである。)は格別,それが極めて過酷なものであるとまではいえない。」と判示して、離婚請求を認めた。
(2) 東京高裁2018年6月12日判決
不貞をした妻からの離婚請求で、婚姻期間約9年間のうち同居期間約7年間、別居期間約2年間で、6歳と4歳の子どもがいるという事実関係でありながら、離婚を認めている。
もともとは夫からも離婚を求めていたとかいった事情も考慮されているが、従来の判例から外れた判断と言える。
(3) 横浜家裁川崎支部2017年3月9日判決
不貞をした夫からの離婚請求で、別居期間約2年8か月・同居期間が約1年9か月(夫33歳,妻32歳)の事実関係で「別居期間が相当の長期間に及んでいる」と評価し(子どもはいない)、夫が月額10万円の婚姻費用を毎月支払っており,また,320万円を支払うことを申し出ていることなどから、妻が離婚により精神的・経済的に極めて苛酷な状況に置かれるとはいえないとして離婚を認めた。
(4) 札幌家裁2015年5月21日判決
不貞をした夫からの離婚請求で、婚姻期間約18年半・別居期間約1年半、就学前の未成熟子である長男(1998年生)・長女(2000年生)がおり、妻はパート社員で、離婚により「一定程度経済的に余裕のない状態となる」と認めながら、妻が夫名義で借金をくり返していたなど婚姻関係の破綻に至ったのは妻にも一定程度の有責性があることなどを考慮して、離婚を認めた。
しかし、控訴審の札幌高裁2016年11月17日判決は、従前の判例の要件に沿って検討し、離婚請求を棄却している。

このように、踏み込んだ判断を示した例もあるものの、従前の判例に沿って厳格に判断している例もあります。

3 一度離婚が否定されても、再度挑戦することは可能
仮に離婚請求が認められない判決が確定した場合であっても、後日改めて離婚調停・訴訟を起こすことは可能です。その場合、別居期間も、改めてカウントすることにはならず、本来の別居時点からの期間でカウントされます(高松高裁2019年11月12日判決、福岡高裁那覇支部2003年7月31日判決)。
有責配偶者からの離婚請求は裁判官の感覚でも判断が分かれる部分ですので、ひとまず訴訟でチャレンジしてみるというのも1つの方法です。

離婚問題について

Q

離婚原因として問題になる「別居」はどういう状態を指しますか。時々連絡をとったり、子どもに会って宿泊していても「別居」になりますか。

A

あくまで婚姻が空洞化しているかどうかの指標なので一義的な定義はありませんが、元の自宅を訪れたり泊まっていても「別居」に当たらないことにはなりません。

1 「別居」が要件となる意味
もともと、離婚原因として別居が問題になるのは、婚姻関係が空洞化しているか、修復が不可能かどうかの指標として用いられているからです。
したがって、単純に一緒に暮らしているかどうかということで判断されるわけでもありません。たとえば、単身赴任のような場合であっても、それはここでいう「別居」とは評価されないでしょう。

2 元の自宅を訪れたり泊まったりしていても「別居」になる
逆に、元の自宅を訪れたり泊まったりしていても、夫婦生活の実態が失われていれば、それは別居と評価されるでしょう。
裁判例を見ても、そのような判断が示されています。
(1) 大阪高裁1980年12月14日判決判時1384号55頁
Y(妻)の宗教活動により婚姻関係が破綻したことを理由とするX(夫)からの離婚請求を棄却した一審判決を取り消し,離婚請求を認容した事例。
同判決は,「被告〔Y〕は,同年〔昭和57年〕一〇月八日ころ,春子〔Xの母〕から聖書に今でも未練があるのではないかと問いただされたので,まだ迷っていると正直な気持を答えたところ,春子は,立腹して別居を求め,春子の電話連絡により原告方へ来た被告の両親に対し,被告を原告方に置いておくことはできないと言った。そこで,被告は,止むなく兵庫県宝塚市内の被告の実家へ戻り,以後,原告や二人の子供とは別居することになった。」「原,被告は,別居後二,三年の間は,原告が被告の実家に被告を訪ねたり,被告が原告宅を訪れたりして何回も話し合いの機会をもった。被告は,昭和五八年一月実家を出て兵庫県伊丹市西野所在のアパートに一人で居住するようになったが,原告が同所を訪れて泊ったこともあった。また,被告は,原告に月に一度の割合で手紙を出し,その心境を原告に伝えた。」「被告は,原告とともに居住している二人の子供達とは一週間に一,二度継続的に連絡をとり合っており,再び控訴人及び二人の子供と同居して生活したい希望を持っており,自分の信仰する宗教の崇拝行為に関係ない限り控訴人及びその母の言うことに従いたい意向を示している。」との事実を認定した上で,諸事実を踏まえて,「別居期間はすでに八年に及んでおり(もっとも,当初の二,三年は両者間に若干の交渉があったが)現実に夫婦関係が円満に回復するという見込みは全くないことが明らかであり,控訴人と被控訴人との間の婚姻関係は既に完全に破綻しているものと認めるのが相当である。」と判示した。
(2) 大阪高裁1992年5月26日判決判タ797号253頁
X・Yは昭和17年に婚姻した夫婦であり,Xが,昭和40年以後,東京において,不貞の相手方及びその子(Xとの子)と同居するようになったが,Xは,月1,2回は,事業のため,Yが居住する元の自宅がある大阪にも来ており,その場合,元の自宅に泊まることを常としていた。Xが元の自宅に泊まった際には,Yは,風呂の用意や身の回りの世話をしていたが,寝室は別で,夫婦関係はなかった。Xは,毎年の正月には元の自宅でY及び同人との子どもらと過ごしており,Xの母(昭和48年死亡)の法事も,元の自宅で営まれた。
上記のような事実関係において,同判決は,「前記認定の事実によれば,控訴人〔X〕と被控訴人〔Y〕との婚姻関係は,昭和40年以降,夫婦としての共同生活の実体を欠き,既に破綻しており,控訴人は,もっぱら東京を本拠として秋子との内縁関係を継続していたのであるから,控訴人と被控訴人とは,控訴人による松崎町の建物〔Yの住む元の自宅〕への立ち寄り・宿泊の事実はあったものの,昭和40年以降別居状態と評価すべきものであり,別居期間は,当審口頭弁論終結時において既に26年余に達しており,両当事者の年齢(控訴人が84歳,被控訴人が78歳)及び同居期間に比べて相当の長期間に及んでいるものというべきである。」と認定判断して,離婚請求を認容した。
(3) 東京高裁2002年6月26日判決判時1801号80頁
X・Yは昭和49年3月に婚姻した夫婦であり,Xが,平成8年3月ころ自宅を出て別にアパートを借りて別居し,そこに不貞の相手方が時々訪ねてくるという生活になり,その後も,子供のことが心配で週に1回は自宅に帰宅していたが,平成9年3月頃からは,不貞の相手方と上記アパート(その後,別のマンション)で同棲生活をするに至り,その頃から週1回の自宅への帰宅もしなくなった。
上記のような事実関係において,同判決は,「別居期間は平成八年三月から既に六年以上経過している」旨認定判断して,離婚請求を認容した。

離婚問題について

Q

未成年の子どもの親権者はどのように決まりますか

A

協議離婚・調停離婚なら当事者の合意によります。裁判所が判決で決める場合には、子どもの利益のために諸事情を考慮して判断されます。

1 一般的な親権者の判断要素
当事者で親権者をどちらにするか合意できず判決で定められる場合には、裁判所がどちらを親権者とするか決めることになります。
どちらとするかは、監護に対する意欲と能力、健康状態、家庭環境状態、従前の監護状況、子どもの年齢・性別・兄弟姉妹の関係、心身の発育状況、子どもの希望などを総合的に検討して判断されます。

2 現実的な判断過程
(1) 子どもが判断能力のある年齢の場合
15歳以上の未成年の子どもについては、親権者を決める上で、子どもの陳述を聴かなければならないことになっています(人事訴訟法32条4項)。また、実際上は、10歳前後以上で親権に争いがあるケースでは、家庭裁判所の調査官の聴き取りなどの方法で意思を確認しています。
そして、10歳以上程度の子どもの意向は、相当に尊重して考慮されます。
(2) これまで及び現在の監護状況
現在及び過去の監護状況も重視されます。現在の子どもの監護状況に問題がなく、安定している場合には、これが重視されます。
特に、子どもの意思の把握が十分にできない年齢であれば、これが重要です。

 

*記事掲載時(2022年2月5日)の法令・実務に基づく解説であり、その後の法改正等により不適当となっている場合があります。

離婚問題について

Q

一旦決まった親権者の変更はできませんか

A

変更しなければならないような事情がなければ認められません。また、親権者が再婚して再婚相手と子どもが養子縁組すると、親権者変更は不可能になります。

 

1 親権者変更の要件
法律上は、「子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる」と定めるにとどまっています(民法819条6項)。
現実的には、現在の子どもの監護状況に問題がなければ、変更が認められることはありません。
これと異なり、親権者となった者(その親族も)が現実には監護しておらず、非親権者の親が監護しているようなケースでは変更が認められるでしょう。

2 親権者が再婚して再婚相手と養子縁組された場合は親権者変更はできない
親権者となった親が、再婚して、再婚相手と養子縁組した場合は、その養親と親権者となった実親が共同して親権を行使することになります。
この場合には、もはや、非親権者の親からは親権者変更の申立てができなくなります。

 

*記事掲載時(2022年2月5日)の法令・実務に基づく解説であり、その後の法改正等により不適当となっている場合があります。

離婚問題について

Q

別居して相手方が監護している子どもに会うにはどうしたらいいですか

A

家庭裁判所に面会交流の申立てをすることが考えられます

1 面会交流の申立て
離婚前の別居状態にある場合や離婚後に、親が子どもに会って交流することを面会交流といいます。
これは会う日時や方法について様々な調整が必要になることですから、できるだけ当事者で協議して実現するのが望ましいことですが、現実は話し合いができないこともあります。
その場合は、家庭裁判所に調停を申し立てて、協議し、協議で折り合いが付かない場合には、裁判所の審判で面会交流の可否や実施する場合の頻度等が定められます。

2 調停で合意され又は審判で決定された面会交流が実施されない場合
(1) 履行勧告
調停で面会交流を合意し、又は審判で決定されても面会交流が実施されないケースはあります。
穏当な方法としては、家庭裁判所から相手方に履行を勧告してもらうという方法があります(履行勧告)。
これは書面で要請する必要もなく、口頭で要請するだけで可能なので簡易な方法です。
この履行勧告も裁判所からの正式な勧告なので、履行勧告をきっかけにある程度改善される場合もあります。
(2) 間接強制
これで応じることが期待できない場合には、相手方に対して、面会させない場合に1回〇〇円支払うよう裁判所が命じる間接強制を申し立てるという方法があります。
ただし、間接強制が認められるには、調停で合意され又は審判で決定された面会交流の方法が、「面会交流の日時又は頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引渡しの方法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところがないといえる場合」でないといけません(最高裁2013年3月28日決定)。
「面会交流の日時又は頻度」「各回の面会交流時間の長さ」「子の引渡しの方法」の全てが厳密に決まっていなくとも間接強制が認められる場合もありますが、「月に〇回程度」といった定め方では特定性に欠けるとして間接強制が認められないでしょう。
また、特定性のある内容であっても、子どもが相応の年齢となって自分の意思で拒否している場合には、間接強制が認められないこともあります。
なにより、子どもとの交流はできるだけ諸事情に配慮して行わなければ円滑に実現できないので、最初から厳密な条件での面会交流を求めるのが適切ではない場合もあります。

離婚問題について

Q

まだ離婚していない時点で、奪われた子どもを取り戻すことはできませんか

A

子の引き渡しの申立て、人身保護法による人身保護請求という方法が考えられます

1 家事審判による子の引き渡しの申立て
子の引き渡しを求めるには、家庭裁判所の子の引き渡し審判の申立てという手続があります。
ここでも、親権者指定と同様に子どもの意向聴取もなされて、判断がされることになります。

2 人身保護請求
子の引渡しの審判が出ても従わず、強制執行でも功を奏しない場合には、人身保護請求というより強力な手段をとることになります。この手続では、相手方の出頭を確保するための身柄の拘束などの手段が用意されており、実効性が高い手段となっています。

離婚問題について

Q

離婚後「共同親権」導入による法改正で、離婚に伴う親権者の扱いにどのような変化がありますか。

A

これまでは離婚と同時に父母の一方を単独で親権者と定めることになっていましたが、一方又は双方を親権者と定める扱いになりました。また、親権者指定は後で家庭裁判所の決定に委ねることにして、ひとまず協議離婚だけすることも可能になりました。

2024年5月に、「離婚後共同親権法案」などと呼ばれる法改正が制定されました。改正法は法改正成立から2年以内に施行されることになっており、2026年に施行されると見込まれます。
これによる影響は未だ不確定な部分が多いですが、可能な範囲で解説します。

現行法では、協議離婚にせよ裁判離婚にせよ、離婚をするときに父母の一方を親権者と定めることとなっています(現行民法819条1項2項)。
改正法では、父母の「双方又は一方」を親権者と定めることになっているので、共同親権と定めることも、父母の一方と定めることも可能となります(新民法819条1項2項)。

また、現行法では協議離婚の場合も、親権者の指定をしなければ離婚の届出ができません(現行民法765条)。
改正法では、親権者の定め(双方又は一方)をして届け出ることもできますが、家庭裁判所に親権者指定を申し立てていれば、親権者の定めをすることなく離婚の届出をすることができます(新民法765条)。後者の場合には、家庭裁判所が新たに親権者の指定をするまでは共同親権が続くことになります。

*記事掲載時(2024年5月31日)で把握できている情報に基づく内容であり、その後の動向で記事内容が不適当になっていることがあり得ます。
*法改正に賛成・反対の立場から記事を掲載するものではなく、なるべく客観的に法改正の内容及びその影響として予測される事項を説明する趣旨です。ただし、判例・法令で明確になっていない事項も多いため、今後の推移を見ないと判断しづらい事項も多々あります。

離婚問題について

Q

法改正で、離婚後も原則として共同親権になるのですか。

A

原則であると明記はされていませんが、条文の表現や法改正の背景からすれば、原則として運用される可能性もある一方で、共同親権になるのは例外的となる可能性もあります。

新法でも法改正過程の政府答弁でも、離婚後の親権者指定として共同親権が原則であるとされたことはありません。
もっとも、改正法の表現としては、離婚後又は離婚に伴い裁判所が親権者を定める場合の判断基準として以下のように定められています(新民法819条7項)。
「裁判所は、……父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動……を受けるおそれの有無、……協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。」
これは、条文の表現だけ読めば、あくまで「父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき」又は「父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」には共同親権にしない、と定めているだけで、それ以外の場合に共同親権とするか単独親権とするか、その判断基準はどうなるかは何も定めていない状態です。
もっとも、単独親権とするのはこの2つの場合に限定されるかの表現でもあり、原則として共同親権であるかのようにも読み取れます。また、法改正は離婚後共同親権を求める要求に応じたものであるという背景からすれば、その背景に影響された運用になることも考えられます。
他方では、当事者双方が合意しているような場合にしか共同親権にはならないという運用も制度上は可能です。
最終的には今後の運用に丸投げされたと言え、しばらくは裁判所によって判断がまちまちな状態が続いたり、あるいは、極端な運用がなされた後に軌道修正されると言った混乱が生じることも考えられます。

*記事掲載時(2024年5月31日)で把握できている情報に基づく内容であり、その後の動向で記事内容が不適当になっていることがあり得ます。
*法改正に賛成・反対の立場から記事を掲載するものではなく、なるべく客観的に法改正の内容及びその影響として予測される事項を説明する趣旨です。ただし、判例・法令で明確になっていない事項も多いため、今後の推移を見ないと判断しづらい事項も多々あります。

離婚問題について

Q

改正法施行前に離婚していた場合でも、共同親権になるのですか。

A

改正法施行前に離婚していた場合の単独親権者の指定は引き続き有効であり、勝手に共同親権になることはありません。

法改正施行前の民法の定めによる親権者指定はその効力を失わないので(改正法附則2条)、法改正施行前に離婚していた場合の単独親権者の指定は引き続き有効です。

離婚問題について

Q

改正法施行前に離婚していた場合でも、共同親権に変更されることはありますか。

A

非親権者の親が共同親権を求めて親権者変更申立てをすることは可能となります。その場合でも、当然に共同親権に変更されるとは限りません。

現行法でも、家庭裁判所への請求により、親権者を父母の一方から他方に変更することはできることとなっています(現行民法819条6項)。
この点、新法でも、家庭裁判所への請求により、親権者を変更することができることとなっており、その場合の親権者の指定はゼロから親権者を定める場合と同じ判断基準となっています(新民法819条6項7項)。そうなると、「Q 離婚後も原則として共同親権になるのですか。」の説明のとおり、親権者変更が認められた場合には原則として共同親権になるという運用もあり得ます。

もっとも、親権者変更が認められるための要件は、新法も旧法と同じ「子の利益のため」であり、一定の事情変化がなければならないと考えられているため、当然に親権者変更が認められるとは限りません。

*記事掲載時(2024年5月31日)で把握できている情報に基づく内容であり、その後の動向で記事内容が不適当になっていることがあり得ます。
*法改正に賛成・反対の立場から記事を掲載するものではなく、なるべく客観的に法改正の内容及びその影響として予測される事項を説明する趣旨です。ただし、判例・法令で明確になっていない事項も多いため、今後の推移を見ないと判断しづらい事項も多々あります。

離婚問題について

Q

改正法施行前に単独親権者となって離婚した後、再婚相手と子どもが養子縁組した場合、改正法施行後に親権者変更されることはありますか。

A

今後の法解釈に委ねられ不明ですが、親権者変更申立ては可能という解釈になる可能性は十分あります。

離婚時に親権者と定められた母が再婚し、再婚相手と子が養子縁組をした場合(いわゆる「連れ子養子」)、子は養親とその配偶者たる実母の共同親権に服することになります。
そして、現行法の解釈としては、このような場合には、もはや実父からは親権者変更の申立て自体ができないこととされていました(最高裁2014年4月14日決定)。
もっとも、その理由は、(1)現行民法819条6項の親権者変更の定めは、1から5項における単独の親権者であることを前提とした定めであること、(2)条文上も「親権者を他の一方に変更する」という文理からすれば、親権者となることができる者が2人いることを前提にあくまでその一方から「他の一方」への変更を認めるものであり、実親と養親の共同親権に服している場合を予定していないと読み取るのが素直であることが挙げられています。
これに対して、(1)新民法819条では離婚後共同親権もあり得る定めとなり、(2)親権者変更の定めとしても、「子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。」というものとなり、「一方」「他方」といった表現はなくなったので、文言上は様々な変更が可能となったと読み取ることができます。
したがって、少なくとも旧法の解釈の根拠を失っており、実母と再婚相手たる養父との共同親権である場合にも、養父から実父への親権者変更(実母と実父の共同親権への変更)を求めること自体は可能になるように読み取れます。

*記事掲載時(2024年5月31日)で把握できている情報に基づく内容であり、その後の動向で記事内容が不適当になっていることがあり得ます。
*法改正に賛成・反対の立場から記事を掲載するものではなく、なるべく客観的に法改正の内容及びその影響として予測される事項を説明する趣旨です。ただし、判例・法令で明確になっていない事項も多いため、今後の推移を見ないと判断しづらい事項も多々あります。

離婚問題について

Q

離婚後も共同親権になった場合、監護している親が単独で決められるのはどういった事柄ですか。

A

きわめて不明瞭です。

1 現行法と法改正の内容
現行法においても、離婚前においては「父母の一方が親権を行うことができないとき」を除いて親権は父母が共同して行使することになっており(現行民法818条3項)、法改正もその定めは異なりません(新民法824条1項)。
改正法では、これに加えて、「子の利益のため急迫の事情があるとき」には一方で単独行使が可能であり、また、「監護及び教育に関する日常の行為」についても単独行使が可能とされました。しかし、これらの要件・意味が曖昧であり、ガイドライン等もないため予測が困難な面があります。
ひとまず、現時点で想定できる範囲で解説します。

2 各種の法律行為(契約)
まず、未成年者が当事者となる契約(預金口座・証券口座開設など)については、現行法でも法定代理人である親権者の同意が必要であり(民法5条1項)、父母が親権者であれば双方の同意が必要です。これは法改正後も異ならないので、離婚後に共同親権となった場合には、こうした手続に非監護親の同意も必要となります。

3 保育園への入園
保育園の入園は、市町村から認定を受けて行うものであり、この認定の申請は「保護者」が行うこととされています(子ども・子育て支援法20条1項)。
ここでいう「保護者」とは、「親権を行う者、未成年後見人その他の者で、子どもを現に監護する者」とされているため(同法6条2項)、「子どもを現に監護」している親権者だけで入園手続は可能ということになります。

4 学校への入学
(1) 入学の法的性質
小中高の学校への入学は、この入学が子ども(生徒)と学校の契約なのか、保護者(親)と学校の契約なのか、契約当事者が解釈として明確ではありません。また、公立学校の場合はそもそも契約関係と言えるのかすら、解釈として明確ではありません。
(2) 公立学校の場合
公立小学校・中学校については、市町村教育委員会が就学予定者の就学すべき学校を通知、指定することとなります(学校教育法施行令5 条 l 項、 2項)。そして、市町村教育委員会が設定する許可基準に応じて「相当と認めるとき」は、保護者の申し立てにより指定校を変更することができることになっています (同施行令8条)。したがって、法令上は転校も含めて契約によるものとは言い難く、そうであれば、必ずしも親権の行使として入学・転校させるわけではないので、親権者単独で可能とも言えます。
公立高校についても、入学は、「入学者の選抜に基づいて、校長が許可する」ことになっており(学校教育法施行規則90条)、転校も同様に「転学先の校長は、教育上支障がない場合には、転学を許可することができる。」という定めとなっています(同規則92条)。こうした定めからすれば、これも契約によるものとは言い難く、そうであれば、必ずしも親権の行使として入学・転校させるわけではないので、親権者単独で可能とも言えます。
なお、裁判例としては、公立中学校について親権者と地方公共団体との「公法上の在学契約関係」と判断した例(福岡地裁2001年12月18日判決)、公立高校について親権者と地方公共団体との「公法上の在学契約関係」と判断した例(横浜地裁2006年3月28日判決)はありますが、契約当事者が誰かということは明確に争われておらず、前例としての意味は乏しいと言えます。
(3) 私立学校の場合
私立学校については、契約によって入学・転校すると考えざるを得ません。
この場合の契約当事者についていえば、子ども(生徒)と学校の契約であれば、各種契約と同様に、親権者双方の同意がなければ入学もできないことになります。保護者(親)と学校の契約であれば、そもそも親権の行使ではないのだから、法改正の影響は受けないことになります。
裁判例としては、私立の中学校及び高校について生徒と学校法人との在学契約と判断した例(東京高裁2006年9月26日判決)があります。ただ、この事件は契約当事者が誰かということが中心的争点だったわけではなく、確固たる前例とは言い難いものです。
また、そもそも、誰が契約の当事者なのかはそれ自体が契約内容で定まるものであり、その解釈が争われるのは入学申込書等の書類でその点が明確になっていないためと言えます。
そして、現実には、学校の入学に当たり、親権者双方の署名を求められるよりは、保護者一人の署名で足りることが多いのが実情です。したがって、少なくとも現実の運用では、明確に意識されていないにせよ、保護者(親)と学校の契約という前提で扱われているとも言えます。実質的に考えても、生徒が契約当事者になるとすれば、学費等の負担をするのは生徒自身であり親には請求できないということになるので、特に私立の学校であれば、学校側の合理的意思にもそぐわないように考えられます。
このように、あくまで親が契約当事者だと考えれば、法改正の影響はなく、今後も監護している親が単独で進学を決められることになります。
ただし、法改正の影響として、学校側が親権者双方の署名(同意)を求めるようになることも考えられ、各学校の対応にも左右されそうです。

5 医療行為
医療行為については、(1)医療を受けるという契約を子ども又は親権者単独でできるのか、(2)手術や薬剤投与などの身体に対する侵襲(ダメージ)を伴う医療行為(医的侵襲行為)を正当化するための同意を子ども又は親権者単独でできるのか、という2つの側面が問題になります。
(1) 医療契約としての側面
医療機関で医療を受けるのは、医療契約という契約によるものです(ただし、たとえば救急搬送で患者1人が運ばれ、患者本人に意識がないようなケースでは事務管理という法理によるものであり、契約によるものではありません。)。
この医療行為の性質をどう考えるにせよ、「監護及び教育に関する日常の行為」については親権の単独行使が可能ですので、風邪などの重大でない傷病の医療や、ひとまず診察を受けるような場合であれば、監護している親権者単独で可能と考えられます。

それでは、「日常の行為」と言い難い、重大な手術などの場合はどうでしょうか。
入学契約と同様に、この医療契約についても、未成年者が患者となる場合に、誰が契約の当事者なのかは明確ではありません。これは具体的事情(親が同伴して診察を受けるか、子どもだけで診察を受けるのか。子どもの年齢・判断能力がどの程度か。)によっても異なると考えられますが、保護者(親)が契約当事者だと考えれば、親権者一人で子に手術を受けさせることも可能ということになります。他方、あくまで子どもが契約当事者だと考えると、親権者双方の同意が必要になります。この場合でも、緊急手術が必要な場合には「子の利益のため急迫の事情があるとき」に該当するものとして一方で単独行使が可能と考えられます。
ただし、法改正の影響として、医療機関側が親権者双方の署名(同意)を求めるようになるということも考えられ、各医療機関の対応にも左右されそうです。
(2) 医的侵襲行為への同意としての側面
一般に、医的侵襲行為は、患者本人の同意を得て行われます。
これは契約のためではなく、医的侵襲行為はたとえ必要な手術等であっても、身体に傷をつけるなど身体への傷害も伴う行為であり、患者本人の同意がなければ傷害罪等の犯罪に当たる行為となるからです(もっとも、本人に意識のない場合の緊急手術など、患者本人の同意がなくとも正当化される場合はあります。)。
この同意は、契約その他の法律行為ではないので、本来的には親権の問題ではないし、自己の身体への侵害を許すかどうかという本人だけが決めるべき問題と考えれば、未成年者であっても判断能力があれば患者本人が決定すべき事項と言えます。
他方、現実には成人であっても患者本人に判断能力がない場合に、患者に代わる家族の同意で医的侵襲行為をしているケースも多々見受けられます。しかし、本来は本人が決める事項を家族の同意で代えることができる法的根拠はないし、家族と言ってもどこまでの範囲の同意を得ればいいのか、意見が食い違ったときどうすべきか、何も明確ではない領域です。逆に言えば、明確ではない以上は、監護している親だけの同意で医的侵襲行為をしても、それが違法になるとも限らないと言えます。
このように、現状でも、根拠も同意権者の範囲も不明なままに運用されている事項であり、何の整理もないままに法改正だけしたので、専ら医療機関側の対応に左右される面があります。

6 住居の移動
民法822条では、子どもの住む場所(居所)は親権者が指定することとされています。
したがって、理論上は、離婚後も共同親権が続くなら、この居所の指定も父母が共同してすることになり、共同して決められないのであれば居所を変更できないことになります。
しかし、現実には、現在も離婚するまでの共同親権である下でも、配偶者の同意を得ずに子どもを連れて別居することはいくらでもあり、そのことで直ちに違法になるわけでもありません。
また、子どもがどこに住むかは契約その他の法律行為ではなく事実の問題であり、現実に引っ越した場合に、その居所の指定が無効だといったところで、引っ越しの事実がなくなるわけもありません。

そう考えると、住居の移動が現実に妨げられるとは考えにくいです。

*記事掲載時(2024年5月31日)で把握できている情報に基づく内容であり、その後の動向で記事内容が不適当になっていることがあり得ます。
*法改正に賛成・反対の立場から記事を掲載するものではなく、なるべく客観的に法改正の内容及びその影響として予測される事項を説明する趣旨です。ただし、判例・法令で明確になっていない事項も多いため、今後の推移を見ないと判断しづらい事項も多々あります。

離婚問題について

Q

離婚後共同親権になった場合、離婚後の子どもの名字はどうなりますか。

A

離婚後に共同親権となった場合には、子どもが15歳未満の間は、父母の同意がなければ離婚時の名字のままとなります。

婚姻に際して名字を変えた側(妻が多い)が離婚に伴い旧姓に戻った場合でも、何も手続をしなければ子どもは離婚時の名字のままです。
この場合に、子どもは家庭裁判所の許可を得て当該旧姓に名字を変更することができます(民法791条1項)。
家庭裁判所の許可といってもかなり形式的な手続ですが、それでも家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。
そして、子どもが15歳以上なら子どもが単独でその申立てをすることができますが、15歳未満だと法定代理人がすることになります(民法791条3項)。そうなると、共同親権が続いている場合には、父母単独で申立てをすることができないので、双方の同意がなければこの申立てもできないことになります。

離婚問題について

Q

離婚に伴って請求できる財産分与とはどういうものですか

A

夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産を分けることをいいます

1 財産分与の内容
 夫婦でいる間は、一方の名義の財産であっても、実質的には夫婦の協力で出来た財産といえるので、これを離婚に際して公平に分けるよう求める権利があります。これが、財産分与のうち「清算的財産分与」と言われます。
 これ以外に、離婚後の扶養としての財産分与(扶養的財産分与)、慰謝料としての財産分与(慰謝料的財産分与)として主張することも可能です。もっとも、扶養的財産分与が認められるのは例外的ですし、財産分与と別に慰謝料請求が可能なので慰謝料的財産分与を求めることは通常はしません。
したがって、実際上は、単に「財産分与」と言うときは清算的財産分与のことになります。(以下もその前提で説明します)

2 財産分与の基本的な方法
 財産分与の基本的な計算方法としては、
(1) 分ける対象となる財産を確定する時点(基準時)を決め、
(2) 分ける対象となる財産を確定し、
(3) 分ける対象となる財産の価値を評価した上で、
(4) 分ける割合を決め、
(5) 分与方法(どの財産をどちらが取得し、あるいは、一方が他方にいくら支払うか)を決める、
ということになります。

 おおまかには、(1)別居時点を基準に、(2)婚姻後に夫婦で形成された財産を対象とし、(3)現在(裁判の審理終了時点)の価値で評価し、(4)原則として5:5で分けることとして、(5)たとえば不動産についてはどちらが住んでいるか等を考慮して分与方法を決めることになります。
 以下、(1)基準時、(2)いかなる財産が対象財産になり、(3)どのように評価するか、(4)分ける割合の決定方法、(5)分与方法について、詳しい内容は、個々のQ&Aをご参照下さい。

離婚問題について

Q

財産分与で分ける財産を確定する基準時はどのように決まりますか。単身赴任で別居していた場合は、単身赴任になった時点が基準時になりますか。

A

基本的には「別居」時点が基準時となりますが、これは夫婦の経済的協力関係が終了した時点を基準とするためです。単身赴任を開始しても、夫婦の経済的協力関係が終了したとは言えないので、通常はその時点にはなりません。

1 基本的な考え方
財産分与の基準時は、あくまで、夫婦で協力して形成された財産を確定するための基準となる時点を決めるためのものです。したがって、物理的に同居しているかどうかが問題なのではなく、夫婦の経済的協力関係が終了していたかどうかが重要です。
それまで同居していた夫婦であれば、別居した時点で経済的協力関係が失われるので別居時点を基準とするのが通常です。
別居日などが明確でない場合は、当事者が合意すれば、これが明らかに不合理でなければ、裁判所が決定する場合も、その合意した時点によることになります。

2 単身赴任の場合
単身赴任の場合は物理的に同居はしていませんが、通常は、一方が他方に送金するなどして経済的協力関係があるので、単身赴任になった時点を基準時と扱うことにはなりません。
単身赴任中に夫婦関係が悪くなって離婚を求めるように至った場合は、夫婦の経済的協力関係が終了した時点を基準時とするという趣旨からすれば、当事者が離婚を申し出た日、自宅に残っていた妻が自宅から出た日、単身赴任をしていた夫が最後に自宅を出た日、海外赴任先から帰国した後も同居しなかった場合は帰国日、単身赴任中の夫が送金を打ち切ると告げた日などが基準になると思われます。

3 家庭内別居の場合
家庭内別居状態で離婚の手続が進むことも時にはあります。
この場合も、夫婦の経済的協力関係が終了した時点を基準時とするという趣旨からすれば、一方が離婚を申し出て生活費も渡さなくなり、炊事・洗濯等も別々にするようになったようなケースであれば、渡さなくなった時点をもって基準時とすることになります。

離婚問題について

Q

財産分与の対象となる財産は、どのように価格を評価されますか。別居後まもなく不動産や株を売却してしまった場合はどうなりますか。

A

対象となる財産は、現在(裁判なら審理終了時点)の価値が基準となりますが、それまでに売却された場合はその価額で評価することもあります。

財産分与で分ける財産自体は基準時に存在するものが対象となりますが、その価値を評価するのは分ける時点を基準とします。
具体的には、裁判なら審理が終了する時点となります。もっとも、それまでに売却されている場合は、売却時の価格で評価するのが通常です。
調停であれば当事者が合意するならそれに従いますが、比較的近い時点で評価するのが適当ということになります。

離婚問題について

Q

どのような財産が財産分与の対象になりますか。

A

夫婦が協力して得た又は共同して負担したと評価できる財産は全て財産分与の対象となります。一般には、一方が仕事で得た収入も全て夫婦が協力して形成したものとして対象になります。

財産分与は夫婦で協力して形成された財産を離婚に伴って清算するための制度なので、分与する対象となるのは、夫婦が協力して得た実質的共有財産であると言われます。
もっとも、一方が仕事で収入を得ている場合も、他方が家事労働で支えて協力していることになるので、ここでいう「協力」というのは極めて抽象的なものです。
そのため、「夫婦一方の固有の事情で得た財産(特有財産)以外は分与対象となる」と考える方が実態に即しています。
「固有の事情」というのは、①親族からの贈与、②相続が代表的です。
個々の財産ごとの扱いは、個別のQ&Aをご参照下さい。

離婚問題について

Q

夫婦の一方名義の預貯金はどのように財産分与対象となりますか。婚姻前から持っていた預金は特有財産になりますか。

A

別居時に存在している預貯金が財産分与対象となりますが、婚姻前から持っていた預貯金が含まれている場合は事案ごとの判断になります。

預貯金は、基本的には別居時点の残高が対象となります。
もっとも、その預貯金には婚姻前からもっていたお金も含まれている場合があります。
この場合の扱いは、必ずしも一貫した決まりがなく、考えとしても分かれている傾向にあります。概ね以下の2通りといえます。
① 差額処理
基準時に残存している限度で、婚姻時にあった預貯金は特有財産になるという考え(蓮井俊治「財産分与に関する覚書」ケース研究329号)。
この場合、婚姻又は同居開始時点で50万円で、別居時に130万円であれば増加した80万円分が財産分与対象となることになります。
② 一体処理
夫婦の預貯金は全体として一つの家計を構成し、入出金を繰り返しながら変動していくので、婚姻時の残高も夫婦共有財産の形成のための原資として消費されたと考えることができ、原則として、基準時の残高全体を対象とするという考えもあります(山本拓「清算的財産分与に関する実務上の諸問題」家月62巻3号)。この場合も、婚姻又は同居開始時点で一方の預金が多かった事情は分与割合で考慮するとされます。

そもそも、証拠上、婚姻・同居開始時点の預金額が明らかにできないケースも多々あり、①の処理が不可能なこともあります。
そこで、「混在した預貯金の預金期間が長期で家計の支払に供されてきたものであるとか、増減が甚だしい場合には後説〔②の処理〕によることになろうが、減少したことは一度もなく、増加しただけの場合は、前説〔①の処理〕が妥当ともいえ、事案に応じて処理すれば足りる。」という説明もされます(松本哲泓『離婚に伴う財産分与-裁判官の視点にみる分与の実務-』91頁)。
裁判例を見ても、全体として財産が増加しているケースや増減が明確なケースでは①の処理となっているように思われます。

 

(裁判例)

1 福岡家裁2018年3月9日審判
内縁関係解消による財産分与申立てについて、②の処理をした上で、分与割合では分与義務者の寄与度を3分の2として調整しました。
「相手方は,内縁関係の開始時に相手方が保有していた預貯金口座の残高の合計額である4733万4354円(乙91)を控除すべきであるとも主張している。
しかしながら,そもそも,申立人と相手方の内縁関係は約18年半もの長期間に及んでいる上に,関係証拠に照らすと,相手方は,同期間中に,上記預貯金口座以外にも複数の預貯金口座を保有していたことが認められる。そして,各預貯金口座の出入金履歴には,生活費関係の多数の出入金のほかに,事業関係資金等と推察される多数かつ多額の出入金及び資金移動も混在していることが認められる。
上記事情等に照らすと,内縁関係の開始時に相手方が保有していた預貯金口座の残高について,特有性が維持されているとは認められないから,相手方の主張は採用できない。」

2 東京高裁2011年12月20日判決
約9年半同居していた夫婦の離婚請求事件で、妻(原告)名義の預金の特有財産性について、以下の通り判断されて①の処理がされています。このケースでは、判決で被告から原告への多額(約3000万円)の金銭支払いとなっており、相当な財産の増加があった事案のようです。
「原告は、婚姻時合計881万9690円の預貯金を有し、別居時の預貯金は合計1187万2786円と増加しているが……、婚姻時から金額が増加している同番号2-1、同2-2、同2-5の預貯金の入金状況を見ると、婚姻時に近接した時期に多額の入金がされており、原告の母が原告の独身時代に生活費として渡された金銭を箪笥預金や株式購入に充て、原告の母の金銭も含めて原告名義の定期預金等として入金してきた(原告本人9、10、37頁、甲71)とみることが相当である。したがって、原告名義の預貯金は原告の特有財産と認められる。」

3 東京高裁2011年9月29日判決
平成21年.3月3日に婚姻し、同年12月18日頃別居となった夫婦の離婚請求事件で、財産分与について、以下の通り判断されて①の処理がされています。全体としては預金の増加分を上まわる債務があることで財産分与請求が認められていません。
「(ア) 被控訴人名義の預金
被控訴人名義の預金(三菱東京UFJ銀行及び北海道銀行)の残高は,控訴人との婚姻届出日の平成21年3月3日時点で合計11万2564円,同居を開始した同月21日の時点で合計503円,別居に至った同年12月18日の時点で合計9万0169円であり(乙33,34),同居開始日から別居の日までに8万9666円増加している。当該増加分は,控訴人との共同生活中に形成された財産であり,財産分与の対象となる積極財産に当たる。
(イ) 控訴人名義の預金
被控訴人名義の預金(三菱東京UFJ銀行及びゆうちょ銀行)の残高は,控訴人との婚姻届出日の平成21年3月3日時点で合計1万1024円,同居を開始した同月21日の時点で合計6114円,別居に至った同年12月18日の時点で合計5308円であり(甲20の1,2,21の1),被控訴人との共同生活中に形成された預金は存在しない。」

3 大阪高裁2007年1月23日判決
被控訴人(夫)の預金の一部について、①の処理により特有財産と認められています。全体としては夫から妻への多額の金銭支払い(1739万円のほか、退職時の退職金の4分の1)となっており、相当な財産の増加があった事案のようです。
「みずほ銀行の定期預金のうち50万円は,被控訴人が婚姻前から管理している給与の振込口座と一体となった定期預金で(甲15,弁論の全趣旨),平成2年9月20日には既に預金されていたことからすれば(甲13),婚姻前に被控訴人がした預金が継続しているものであり(甲25の6頁),被控訴人の特有財産と認めるのが相当である。」

4 名古屋家裁1998 年6月26日審判
昭和61年7月末から内縁関係となり、平成4年2月7日別居となった内縁の夫婦について、夫の預金について、昭和61年7月31日時点と平成4年1月31日時点の預金額の増加分を計算し、増加分を財産分与対象とし、①の処理となっています。
全体としては、内縁期間が4年間程度でありながら、夫から妻へ1000万円の金銭支払いとなっており、相当な財産の増加があったといえます。

離婚問題について

Q

法人(会社)や子どもなど第三者名義の預金は財産分与対象となりますか。

A

法人(会社)名義の財産でも実質的に夫婦の協力で得られた財産は財産分与対象となる余地はありますが、現実にはその証明・評価が困難なことが多いです。子ども名義の預金は、預金が作られた趣旨・目的にもよります。

1 会社など法人の預金
夫婦の一方が経営している会社等の預金については、基本的には対象となりません。それは、当該会社等の株式や出資持分を分与対象として扱い評価すれば足りるからです。
夫婦の実質的共有財産であるにもかかわらず名義のみが法人とされているような場合には、対象として扱う余地は考えられますが、現実にはそのような立証が困難となることが多いでしょう。

2 医療法人の場合
(1) 出資持分あり医療法人
2007年4月より前に設立された医療法人であれば、出資持分なし医療法人に移行していない限り、出資持分があります。この場合、定款の定めにより、出資持分権者が死亡や脱退した場合には、法人の財産全体からその持分割合に応じて金銭支払いを受けることができます(最高裁2010年4月8日判決)。
そのため、出資持分も株と同様に財産的価値があることになります。
もっとも、あくまで脱退したり法人が解散した場合にしか出資持分に基づく金銭請求権は生じないので、株ほどには換価性があるとは言い難く、裁判例では、96.77%の出資持分について、法人の純資産評価額の7割相当の価値だと判断された例があります(大阪高裁2014年3月13日判決)。
(2) 出資持分なし医療法人
他方で、2007年4月以後に設立された医療法人は出資持分が最初からなく、社員であっても勤務して給与や役員報酬を受けるのとは別個に剰余金が配当されることはありません(医療法54条)。
そうなると、医療法人を経営している当事者に対しても、医療法人の財産を財産分与の対象とすることはできないということになります。
もっとも、法改正が最近であるだけに、この点の裁判例は見当たりません。古い裁判例ですが、医療法人が実質上個人経営と大差ない実情である場合に「財産分与の額を決定するに当っては、同法人の資産収益関係をも考慮に入れて然るべき」と判断された例も存在します(福岡高裁1969年12月24日判決)(出資持分を財産分与対象とするという請求の立て方をしていなかったと見られます)。
そのため、出資持分なし医療法人だから法人の財産は完全に対象外になるとも限りません。

3 子ども名義の預金
子ども名義の預金については、子どもがアルバイトなどで得た収入によるような場合は子ども固有の財産として財産分与の対象から外れます。他方で、夫婦の財産で形成した預金であれば、財産分与の対象として扱うことになります。
財産分与の基本的な考えからすればこのように言えますが、事案によっては、子どもに贈与されたものと扱って、財産分与の対象から外している例も存在します(大阪高裁2016年 7月21日判決、大阪高裁2014年 3月13日判決、高松高裁1997年3月27日判決)。

離婚問題について

Q

子どもの学資保険は子どものためのものなので財産分与対象外になりますか。

A

貯蓄性の保険と異ならないので、財産分与対象となります。

学資保険について、これが子どものための保険であるとして、財産分与の対象外であり、親権者となる者が取得すべきであるといった主張がなされることもあります。
しかし、学資保険は貯蓄性の保険と異なるものではないので、対象外となることはありません。

離婚問題について

Q

結婚前の預金や実家の援助を頭金にして住宅ローンを組んだ場合の不動産も、全て財産分与対象になるのですか。

A

結婚前の預金や実家の援助を住宅ローンの頭金にした場合、支出した割合に従って特有財産があると考えることになります。

婚姻前に持っていた預金等を住宅ローンの頭金にした場合は、支出した割合に従って特有財産があると考えることになります。夫又は妻の親族の援助を頭金にした場合も、夫又は妻の特有財産として扱います。
たとえば、5000万円で購入する不動産について、夫が婚姻前の預金及び親の援助で500万を出し、妻が婚姻前の預金及び親の援助で1000万円を出して、残りはローンを返済して完済した場合、夫の特有財産は10分の1、妻の特有財産は10分の2、残りの10分の7相当が共有財産として財産分与の対象となります。

離婚問題について

Q

株式は財産分与対象となりますか。

A

婚姻後に得たものであれば、基本的には財産分与対象となります。

婚姻後に購入した株式は、財産分与対象となります。もっとも、購入の原資が特有財産であれば特有財産になることはあります。
上場株式については、取引価格によって算定します。
非上場株式については、厳密に算定するなら公認会計士による計算を行ってもらうことになりますが、費用もかかるので、直近の決算報告書における純資産額を発行株式で割って計算するという簡易な方法によることもあります。

離婚問題について

Q

まだ支払われていない退職金は、財産分与の対象になりますか。

A

基本的には対象になります。

将来の退職金については、支払が不確実であることなどから、退職まで相当期間がある場合には財産分与の対象としないという見解も見られましたが、現在は、退職まで相当先であっても財産分与の対象とするのが一般的とされています。
その場合、対象となるのは、あくまで夫婦の協力で形成された部分に限られるので、退職金のうち、同居期間/就労期間の部分ということになります。
計算方法・支払方法としては、
① 別居時に自己都合退職した場合の退職金のうち同居期間/就労期間を基準とする
② 定年退職時の退職金のうち、同居期間/就労期間を基準とした上で、中間利息を控除する
③ 定年退職時の退職金のうち、同居期間/就労期間を基準とし、支払を退職時とする といった方法があり、更に、支払の不確実性も考慮して調整されることもあります。

離婚問題について

Q

自衛官が将来受け取る若年定年退職者給付金は財産分与の対象になりますか。

A

まだ事例が少なく、一概に言えません。

自衛官には若年定年制が採用されており、多くは54~57歳という早期に定年退職となります。その代わりに、通常の退職金とは別に「若年定年退職者給付金」が支給されます。
この制度が導入されたのは1990年の法改正によるものであり、これが財産分与対象となるかどうか争われ判決に至ったケース自体があまり確認できません。
制度からすれば、退職金とは別個に財産分与になるという考えも、ならないという考えもどちらもあり得るといえます。

1 積極説(対象になる)の根拠として考えられる理由
① 実質的には退職に伴い支給されるものであり、支給の確実性が高い。
② 支給金額の計算方法も明確に定められている(防衛省の職員の給与等に関する法律27条の3以下)。
③ 支給金額の計算方法としても退職時の俸給月額を基礎とした計算になっていて通常の退職金の計算と類似し、労働の後払的性格ともいえる。

2 消極説(対象にならない)の根拠として考えられる理由
① 退職金はいつ自己都合でやめても支給されるのに対し、若年定年退職者給付金は、20年以上勤務した上で定年になるか、定年になる前1年以内に一定の事由により退職する場合など、支給される場合が限定されている(防衛省の職員の給与等に関する法律27条の2)。
② 法改正前は自衛官に対しては55歳から年金を支給する特例が設けられていたのを改めて導入された制度であり、制度導入の経緯から将来の年金支給に代わるものといえる。
③ 現実の支給内容としても、以下のとおり、早期定年退職による通常の定年までの間の収入減少を補填する給付という面がある。
ア 支給額が、若年定年から通常の定年までの年数によって計算される(年数が長い方が支給額が増える)
イ 第1回目の給付金は、退職の翌年の所得が退職翌年まで自衛官として在職していたと仮定した場合の年収相当額を超えた場合は全額返納し、一定額以上の収入だった場合も収入額に応じて返納しなければならない(防衛省の職員の給与等に関する法律27条の4第3項)
ウ 第2回目の給付金は、退職の翌年の所得が、退職翌年まで自衛官として在職していたと仮定した場合の年収相当額から俸給月額1.714倍分を引いた金額を超える場合は支給されず、また収入が一定以上あればそれに応じて支給が減少するという調整がある。(防衛省の職員の給与等に関する法律27条の4第1項第2項)

<裁判例>

これが財産分与対象になるかどうか争われ判決・決定までいった事例は少ないですが、以下の通り扱いが分かれています。
〇 さいたま家裁2021年9月30日判決
定年まで10年以上先という事情の下で、「若年定年退職者給付金は,……若年定年制により退職した自衛官に対して,退職後から60歳までの間の所得条の不利益を補うために支給されるものであって(甲19),労働の事後的対価(賃金の後払い)としての性格を有するものではなく,基準時まで夫婦共有財産として蓄積しているとはいえないから,財産分与の対象にはならない」と判断しました。
〇 広島高裁2020年3月23日決定
離婚前に自衛隊を定年退職しており、財産分与の基準時は離婚時となった事案で、若年定年退職者給付金の利用実態(ほとんどの自衛官が支給を受けており、生活設計に組み込まれていること)や労働の事後的対価という性格もあると見ることができること、基準日時点で支給が相当程度確実であることから、財産分与対象とされました。

離婚問題について

Q

企業年金は財産分与対象になりますか。

A

必ずしも扱いは確立していません。

企業年金とは、企業がその従業員を対象に実施する私的な年金制度であり、法律上の制度としては、厚生年金基金、確定給付企業年金(基金型、規約型)、確定拠出年金(企業型)等があります。基本的には退職金の一部又は全部を年金化したものであり、退職金規程等に基づく退職金の原資が積み立てられていると認められる限りは、退職金と同様に扱うことができるでしょう。
もっとも、この問題を扱った裁判例の集積は乏しく、まだ扱いが確立しているとは言えません。

離婚問題について

Q

生命保険は財産分与対象となりますか。

A

解約返戻金相当額が財産分与対象となります。

生命保険については、基準時における解約返戻金を評価額とするのが一般的です。
もっとも、婚姻前から生命保険契約をしていた場合は、同居期間/契約期間で評価するなど修正することになります。

離婚問題について

Q

自動車などの物は財産分与対象となりますか。

A

自動車などの物も夫婦で形成した財産であれば財産分与の対象となります。
もっとも、家具家財の類は価値が乏しいので、そういった物品までは取り上げないことが一般的です。

離婚問題について

Q

ギャンブルで得たお金も財産分与対象となりますか。

A

財産分与対象とした上で、分与割合が調整されると考えられます。

宝くじや競馬で大当たりした場合に得たお金について、これが問題となったケースは稀ですが、裁判例では財産分与の対象とすることは認めつつ、分与割合を修正している例が存在します。
〇 東京高裁2017年3月2日決定
夫が、その小遣いで購入していた宝くじで当たった約2億円の扱いについて、宝くじの購入資金が婚姻後に得られた収入の一部である小遣いであることなどから、財産分与の対象と認めつつ、分与割合について夫6:妻4とした。
〇 奈良家裁2001年7月24日審判
夫がその小遣いで購入した競馬による利益で購入した不動産の売却代金について、財産分与の対象と認めつつ、万馬券という射倖性の高い臨時の収入については運によるところが大きく,夫の寄与が大きいとして、妻の分与割合を3分の1とした。

離婚問題について

Q

借金は財産分与対象となりますか。

A

財産分与の対象として計算されますが、一方から他方に借金を移すことはできません。

夫婦の一方が負った借金も、基本的には財産分与の対象として計算されます。住宅ローンもこれに該当します。
ただし、ギャンブルや専ら個人的遊興でつくった借金については、夫婦共同で負担するものではないので、対象から外れることになります。もっとも、現実問題として、借金の理由・使途を明確にするには困難を伴うことも少なくありません。
なお、借金については、当事者間で借金の負担を合意しても(たとえば、一方名義の借金を他方名義に移すように合意しても)、貸主はこの合意に拘束されません。したがって、一方が立て替えて支払うといった合意をするのはともかく、借金自体は現状のままとなることを前提とした財産分与になるのが原則です。

離婚問題について

Q

財産分与で財産を分ける割合はどのように決まりますか。たとえば、妻が専業主婦で夫が高収入の場合でも5:5になりますか。

A

原則として5:5で分けることになります。一方が相当に高額所得であるとかいった事情がある場合に修正されることはありますが、修正されても6:4程度に留まっています。

財産分与において、夫婦で形成した全財産を分ける割合については、一応は夫婦が財産形成に貢献した度合いに応じて分けるという考えがとられつつも、妻が専業主婦の場合も含めて2分の1ずつで分けるのを原則とする考えが確立しています。
一方が相当に高収入であるとかいった事情で修正される例もありますが、修正されても6:4程度に留められるのが通常です。

離婚問題について

Q

具体的にどちらがどの財産を持つことになるのかは、どうのように決まるのですか

A

裁判所が決める場合、基本的には、それぞれ名義の財産はそのままとして、金銭支払の形で分与することが通例です。ただし、不動産については必要に応じて、名義変更が命じられます。

財産分与は夫婦で形成した財産を分ける手続ではありますが、個々の預金や自動車等については、いちいち一方から他方に名義を変更させるのは迂遠なので、名義人のものとしたままとして、金銭支払の形で決定されるのが一般的です。
もっとも、不動産については、取得する者に名義を変更するよう命じられます。

離婚問題について

Q

ローンの残った不動産がある場合は、どのように財産分与がなされますか

A

ローンも借金なので、不動産と借金は別々の財産と考えて財産分与を計算しますが、オーバーローンの不動産及び借金を除外して計算することもあります。また、借金(債務)の名義変更はできないことから結果的に不均衡になることもあります。

1 具体的事例に則した検討
最終的には判断が異なる場合もあり得ますが、一般的な考えに基づいて検討します。

(1) オーバーローンだが、全体としては債務超過でない場合など他の財産がそれなりにある場合
(夫名義の財産)
不動産 評価額1500万円
ローン  残額2000万円
預金      800万円
(妻名義の財産)
預金      700万円

こういった場合の扱いとしては、①全ての財産を通算して計算する場合と、②オーバーローンの財産を除外して計算する場合があります。

①の方法だと、夫婦の財産総額は1000万円となるので、これを2分の1ずつ分けると、それぞれ500万円ずつになります。したがって、夫が不動産を取得し住宅ローンを負担するので、各自が自己名義の預金をそのまま取得し、妻から夫に200万円支払うことになります。
②の方法だと、オーバーローンの不動産及び負債を除外した夫婦の財産総額は1500万円で、これを2分の1ずつ分けると、それぞれ750万円ずつになります。したがって、夫が夫から妻に150万円支払うことになります。

通算方式によるか非通算方式によるかは、オーバーローン以外の物件以外に相当の財産があるか(本来はローンの早期返済も可能だったか)、当該物件が収益のために使用されているか居住用か(収益用なら収益でローンを返済すればよい)、などの諸事情で判断されます。

(2) オーバーローンで、全体として債務超過の場合
(夫名義の財産)
不動産 評価額3000万円
ローン  残額4000万円
(妻名義の財産)
なし

夫婦の財産総額はマイナス1000万円となる。
こういった場合に、夫が妻にマイナス1000万円の半分である500万円の分担を求められるかというのは、一般的には否定される。

2 妻が住宅ローンの連帯保証人になっている場合や連帯債務になっている場合
(1) 妻が連帯保証人になっている場合
上記の事例で妻が連帯保証人になっているような場合、その点をどう考慮すべきかも問題になります。
これについては、夫がこれまで住宅ローンを滞りなく返済しており、今後も夫が同不動産に居住し、住宅ローンの返済を続ける蓋然性が高く、夫の返済能力も特段問題ないようなケースであれば、妻が住宅ローンを負担する現実的可能性は小さいものとして、特に考慮しないと見込まれます。
そういった事情がないケースでは悩ましい状態と言え、一義的にどうなるとは言えません。
(2) 妻が連帯債務者になっている場合
妻が連帯債務者になっている場合も同様ですが、この場合は、審判・判決のときは、裁判所が内部的な負担割合としては妻の負担は0であると判断することもあります。

離婚問題について

Q

同居中に夫婦間で財産の贈与があった場合には、贈与された財産は財産分与の対象となりますか

A

財産分与の趣旨からすれば、当該財産が婚姻後に築かれたものであれば、対象となります。ただし、事実関係によっては対象外となることもあります。

財産分与は「婚姻中に築かれた夫婦の財産を分ける」ものなので、元々財産分与対象となる財産であれば、婚姻中に一方から他方に贈与(名義変更)されても、財産分与対象から外れる理由はありません。

もっとも、婚姻中に夫から妻に贈与された不動産(婚姻中に取得したもの)について、「妻が夫の不貞行為を疑い,現に夫の不貞行為を疑われてもやむを得ない状況が存在した中で,妻の不満を抑える目的で贈与された」という事実関係の下で、その贈与は確定的に妻に当該不動産を帰属させるのが当事者の意思であったと判断して、財産分与対象外とされた例もあります(大阪高裁2011年2月14日決定)。
このように、事実関係次第では、贈与された財産が財産分与対象外となることもあり得ると言えます。

離婚問題について

Q

離婚に伴う慰謝料請求は、どういう場合に認められますか

A

不貞や暴力が典型的な理由ですが、それ以外にも配偶者の違法な行為で婚姻関係が破綻した場合には認められることがあります

 

離婚に至る過程や離婚の結果によって種々の精神的苦痛を被ることはありますが、離婚になったからと言って当然に慰謝料請求が認められることにはなりません。
判決で慰謝料請求が認められるためには、配偶者の有責行為で婚姻関係が破綻に至ったと評価されなければなりません。
たとえば、東京家裁の2012年4月~2013年12月までの離婚事件の判決のうち、一方又は双方から慰謝料請求がなされたもので欠席判決等を除外した203件のうち、慰謝料請求の理由として主張されたものの分類及び結果等は以下のとおりとなっています(神野泰一「離婚訴訟における離婚慰謝料の動向」ケース研究322号(2014年))。

主な慰謝料理由 件数 認容件数 認容率(%) 平均認容額(万円)
不貞 44 29 66 223
暴力 44 23 52 123
粗暴な言動 17 4 24 100
精神的圧迫 62 7 11 93
悪意の遺棄 12 1 8 200
経済的事情 15 7 47 100
子との交流阻害 2 2 100 30
犯罪行為 2 2 100 75
性的不調和 5 0 0 0

これだけでは全体的な傾向を判断することは困難ですが、実際の業務をしている実感も踏まえていうなら、
・不貞と暴力(DV)が慰謝料理由の中心
・「粗暴な言動」「精神的圧迫」(いわゆる「言葉の暴力」「モラハラ」など)が主張されることは多いが、単なる性格の不一致・夫婦の不仲に過ぎないケースや立証に困難を伴うケースが少なくないので、慰謝料請求が認められる例は比較的少ないし、認められても大きな額にならない
という傾向はうかがわれます。

離婚問題について

Q

慰謝料の相場はどうなっていますか

A

おおよその相場はありますが、裁判官のぶれが大きい面があります

1 総論
慰謝料は、精神的苦痛という、目に見えず、本来は金銭換算できないものを金銭で評価するものなので、確たる根拠があって決まるわけではありません。おおよその傾向ないし相場があるとはいえますが、それでも裁判官によって生じる差も小さくありません。
離婚に伴う慰謝料全般の傾向としては、婚姻後の同居期間が長い、未成熟子がいる、当事者に経済力があるといった場合は比較的高額になると言われます。

2 不貞の場合
(1) 金額の傾向
東京家裁の2012年4月~2013年12月までの離婚事件の判決においては、29件において、平均223万円で、100万円~700万円という結果となっています(神野泰一「離婚訴訟における離婚慰謝料の動向」ケース研究322号(2014年))。
岡山県内の高裁・地裁・家裁で不貞慰謝料請求について判断された判決(離婚になっていないケースもある)のうち慰謝料が認められた27件においては、平均216万円、80万~600万円という結果となっています(安西二郎「不貞慰謝料請求事件に関する実務上の諸問題」判例タイムズ1278号(2008年))。

2016年12月~2019年2月の東京地裁での不貞慰謝料請求事件の判決(同様に、離婚になっていないケースもある)で請求が認められた130件においては、加重平均値163.5万円で、30万~300万円という結果になっています(大塚正之『不貞行為に関する裁判例の分析』154-155頁(2022年))。
業務をしている実感としては、離婚に至っていないケースでは100万円前後、破綻したり離婚に至ったケースでは150~200万円程度で、一定程度悪質性が強いと300万円以上になってくるというのがおおよその傾向に思われます。
(2) 考慮される事情
判決で慰謝料を決める上で考慮した事情として挙げられるのは、①不貞期間、②不貞の内容・頻度、③婚姻関係への影響、④婚姻期間等ですが、どういった事情がどこまで重視されているかはケースバイケースです。
当事務所で扱った事件において、判決で慰謝料が300万円以上になったのは、
・不貞相手が複数いたケース
・不貞を否認しており、態度が悪いケース
・暴力と不貞の両方があったケース
・賠償義務者の収入が多いケース
などです。
本来的には賠償義務者の収入・資力は精神的苦痛の程度と無関係なので慰謝料額に影響する理由はなく、判決でも明示的に賠償義務者の収入・資力を慰謝料額の理由に挙げられてはいませんが、実質的には額に影響することもあります。

3 暴力が原因の場合
東京家裁の2012年4月~2013年12月までの離婚事件の判決においては、23件において、平均123万円で、20万円~300万円という結果となっています(神野泰一「離婚訴訟における離婚慰謝料の動向」ケース研究322号(2014年))。
比較的高額になるのは、傷害の程度が重いとか、暴力の頻度、対応の悪さなどの事情がある場合です。

離婚問題について

Q

不貞の場合、不倫相手と配偶者と別々に慰謝料請求できますか。離婚しない場合、不倫相手だけに慰謝料請求できますか。

A

別々にも請求できますが、法的には共同の責任となります。不倫相手だけに慰謝料請求もできますが、支払わせた後、配偶者に求償請求が来ることもあります。

 

便宜上、夫婦のうち、夫が第三者(以下「不倫相手」という。)と不倫したケースで説明します。
1 はじめに
不倫された人(妻)が、その配偶者(夫)と不倫相手に対して慰謝料請求できることは一般にもよく知られていますが、その請求ができる根拠や、請求して支払われた後の処理などについては不正確な理解もよく見受けられます。
立ち入って検討すると、法的に明確とはいえない部分もあり、裁判官の価値観でも左右される要素もあり、一義的に「正しい」説明が困難な面もあります。
2 配偶者・不倫相手で別々に慰謝料支払義務を負担するわけではないこと
(1) 一般に複数の加害者がいる場合の賠償方法
不倫で慰謝料が生じるのは、配偶者(夫)・不倫相手が不倫をしたことによるものであり、いわば、配偶者(夫)・不倫相手が共同して妻に危害を加えたことになります(法的には、「共同不法行為」といいます)。
たとえとして、Bさん・Cさん2人が、共同して、Aさんのお金100万円を盗み出したと考えて下さい。
この場合、B・Cは、共同して、Aさんの被った損害全額を賠償する義務を負います(「連帯して支払義務を負う」といいます。)。Aさんは、どちらに対しても、全額(100万円)の賠償を請求できます。しかし、B・Cいずれか一方から弁償されれば、その分、他方に対しても請求できなくなります。この場合、訴訟を起こせば、裁判所は、「各自100万円支払え」又は「連帯して100万円支払え」といった判決(主文)を下しますが、いずれも、意味としては、Bさん・Cさんが共同して100万円を支払え、ということです。別々に100万円を支払うべきということではありません。
これは、被害者であるAさんを保護するため、B・Cのいずれに対しても(B・Cの分け前などの内部関係にかかわりなく)損害賠償を全額請求できるとした上で、被害を超える賠償を得ることはできないという当然のことを定めたものといえます。
(2) 不倫の場合も同様
同様に、妻の被った精神的苦痛を金額に換算した額(慰謝料額)が200万円だとしても、夫に対しても不倫相手に対しても別々に200万円を支払わせることができるわけではありません。それは、以上に述べたとおり、あくまで、夫・不倫相手で連帯して賠償責任を負うのが200万円だからです。
財産の損害であれば比較的わかりやすい話なのですが、慰謝料になると、相手に対する制裁という意識もあってか、あくまで別々に支払わせることができるものだと誤解する方もいるようです。
3 いずれか一方が弁償した場合の後始末
(1) 一方が弁償した場合の法律関係
それでは、夫・不倫相手に対する200万円の慰謝料請求が認められた後、一方(仮に、不倫相手)が200万円支払った場合、他方(夫)の支払義務はどうなるのでしょうか。
この場合、不倫相手から200万円支払われたので、夫は、妻に対しては支払義務はなくなります。
ただし、夫・不倫相手に共同の責任があるわけですから、不倫相手は、「共犯者」である夫の分も、「立て替えた」ことになります。そこで、不倫相手は、夫に対して、この立替え分の支払を請求できます(これを「求償請求」といいます)。
この場合、夫・不倫相手の負担割合は、どちらが不倫に積極的だったか(働きかけたか)などの事情から決まってきます。仮に、5分5分の責任だとすれば、不倫相手は夫に半分の100万円の求償請求ができるということになります。
(2) 責任の割合
なお、この責任割合については、夫・不倫相手はあくまで共同して妻に害を与えたのだから、5:5を基本として個別の事情で修正して判断した(あるいは、修正する事情はないとした)例も複数ありますが、他方で、婚姻関係の平穏は第一次的には配偶者相互間の義務によつて維持されるべきものという考えから、基本的に配偶者(夫)の側により重い責任があると考えて、夫に重い責任割合があると判断した例もあります。
4 配偶者・不倫相手の間の事情が慰謝料額に影響するか
(1) 共同不法行為の理論的帰結=内部事情なので影響しない
ところで、夫・不倫相手まとめてではなく、不倫相手だけ訴えるということもよくあります(離婚していない場合とか、離婚後であっても、夫(又は元夫)とは話がついたとかいった場合。)。
そうした場合に、不倫相手から、夫の方が積極的だったといった反論がなされることもあります。
共同不法行為の論理からすれば、どちらが積極的かというのは夫・不倫相手の内部問題であり、妻への支払額には影響しないずです。実際、そのように判断する判決の例も見られます。
(2) 理論的帰結を修正した例も多数
ところが、どちらが積極的だったかということも、慰謝料額に影響する事情として考慮している(たとえば、夫が積極的だったことを、不倫相手の支払う慰謝料額を減らす事情として考慮する)判決も、見受けられます。これは、実際問題として、不倫相手の責任を超える額を支払わせるのには、裁判官としてもためらいを覚えるといったことから、そのような判断になっていると思われます。
盗難の被害などの財産的損害と異なり、慰謝料は、もともと、目に見えないものをフィクションとして金額に換算しているわけですし、実質的には「制裁」という側面もあるわけですから、そうである以上、責任を超えた慰謝料支払義務を課すのに抵抗感がある、という裁判官もいると思います。
さらに進んで、不倫相手は、自己の責任の限度でしか妻への支払義務はない、と明言する判決の例も若干ながら存在します。たとえば、妻の精神的苦痛のトータルが200万円相当であり、夫・不倫相手の責任の割合が5:5であれば、不倫相手は100万円しか支払義務がない、という判断です。
これは共同不法行為の理論からすれば無理があるのですが、実際問題として、不倫相手の責任を超える額を支払わせるのにためらいを覚えるといった考慮から、そのような判断を示したものと考えられます。
5 夫・不倫相手の支払額が異なることはあるか
(1) 夫・不倫相手をあわせて訴えた場合
そうなってくると、夫・不倫相手をまとめて訴えた場合にも、不倫相手には不倫相手の責任部分だけで支払義務を認めるということもありそうなものです。
実際、少数ながら、不倫相手には不倫相手の責任部分の支払だけを認めた判決の例も存在します。具体的には、総額200万円の慰謝料を認めた上で、不倫相手は100万円の限度でしか支払義務がない、などと判決で明示したような事例です。
しかし、一般には、夫・不倫相手がまとめて訴えられた場合には、夫・不倫相手に同じ額の支払いを命じることが圧倒的多数です。不倫相手だけ訴えた場合には、夫・不倫相手の内部問題を考慮しても、共同不法行為の理論との食い違いはそれほど表面化しませんが、裁判所の判決で、夫・不倫相手の支払額に差異を設けると、正面から、食い違いが表面化するので、裁判所もなかなかそこまでは踏み切りにくいものと思われます。
(2) 離婚に至ったなどの場合―最高裁2019年2月19日判決を踏まえた扱い
もっとも、最高裁2019年2月19日判決では、離婚した元夫が元妻の不倫相手に慰謝料請求した事件で、不倫相手は「不貞行為を理由とする不法行為責任」を負うことはあるが、「離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはない」と判断しました。
この最高裁判決に従えば、不倫の結果として離婚に至ったようなケースで、妻が(元)夫と不倫相手に対して1つの訴訟で慰謝料請求した場合でも、(元)夫は「不倫の結果として離婚に至ったこと」まで含めた慰謝料支払義務を負うのに対して、不倫相手は「不倫をして苦しめたこと」の慰謝料支払義務にとどまり、不倫相手の支払額の方が小さくなることも考えられます。
他方で、不倫の慰謝料請求では、不倫によって「離婚させたことを理由とする慰謝料」として明確に請求していなくても、不倫の結果として婚姻関係が破綻したことや離婚に至ったことも慰謝料の額で考慮していました。この扱いが異ならないなら、額としても実際には異ならないことも考えられます。
(3) 別々に訴えた場合
他方、妻が、不倫相手だけ訴えてから、夫も訴えたような場合で、裁判が別々に進行したような場合はどうでしょうか。
この場合、妻vs不倫相手の訴訟と、妻vs夫の訴訟は、全く別々に扱われます。民事裁判は、基本的には、当事者の主張したことと提出した証拠に基づき、当事者間の争いを個別的に裁定するものにすぎません。ですので、主張や証拠が異なる別々の訴訟であれば(もっといえば、異ならなくても)、結果が異なってもかまわないのです。たとえば、妻vs不倫相手の訴訟では、不倫関係の実態などが十分に明らかにできなかったので認められた慰謝料は低額になったが、後の妻vs夫の訴訟でこの点が明確になり、より高額になるということはあり得ます。逆に、後の妻vs夫の訴訟において、夫婦の婚姻関係が円満ではなかったとか、妻の婚姻生活における態度にも非があったなどの事実関係が明らかにされた結果として、妻vs不倫相手の訴訟よりも低額の慰謝料となることもあり得るでしょう。

以上のとおり、裁判の争いとなっても必ずしも理屈どおりに行かなかったり、裁判官によって判断が分かれることもあります。「こういうときはこうなる」と一概に決めつけることはできず、具体的ケースに即した検討が必要となります。

離婚問題について

Q

不貞の証拠を確保するために探偵に支払った調査費用は請求できますか

A

認められない例も多く、認められても支払った全額までは認められない結果になることが多いです

 

不貞の証拠を確保するために探偵(興信所)に依頼したという方もしばしばおられます。
それによってラブホテルの出入り場面の写真・録画など決定的な証拠を確保できているケースもありますが、反面、調査費用は数十万円や場合によっては100万円以上かかっているケースもあります。
これも不貞のせいで費やされた費用だとして請求したくなるのはもっともですが、裁判例の傾向としては、これを認めないものも多いですし、認めた例でも実際にかかった費用のうちのごく一部しか認めない傾向にあります。

離婚問題について

Q

配偶者の不貞によって離婚に至ることで子どもが被った精神的苦痛について、子どもから慰謝料請求することはできますか

A

原則としてできません

このような問題について、最高裁判例は、「夫及び未成年の子のある女性と肉体関係を持った男性が夫や子のもとを去った右女性と同棲するに至った結果、その子が日常生活において母親から愛情を注がれ、その監護、教育を受けることができなくなったとしても、その男性が害意をもって母親の子に対する監護等を積極的に阻止するなど特段の事情のない限り、右男性の行為は、未成年の子に対して不法行為を構成するものではない。」と判断し、その理由として、「母親がその未成年の子に対し愛情を注ぎ、監護、教育を行うことは、他の男性と同棲するかどうかにかかわりなく、母親自らの意思によって行うことができるのであるから、他の男性との同棲の結果、未成年の子が事実上母親の愛情、監護、教育を受けることができず、そのため不利益を被ったとしても、そのことと右男性の行為との間には相当因果関係がないものといわなければならないからであり、このことは、同棲の場所が外国であっても、国内であっても差異はない。」としています(最高裁1974年3月30日判決)。

離婚問題について

Q

配偶者が会社の従業員と不倫した場合、会社の責任はありませんか

A

問題となったケースが少ないですが、問題になった事案では会社の責任を認めない判決が多数です。

1 従業員の行為について雇用主が責任を負う場合
一般に、会社の従業員がその事業の執行について第三者に損害を加えた場合は、会社も損害を賠償する責任を負います(使用者責任(民法715条))。
従業員の加害行為が暴力行為のような事実行為の場合は、使用者の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有する行為であるかどうかで、使用者責任が認められるかどうか決まります。

2 裁判例
したがって、会社の業務と無関係に知り合って不貞に及んだようなケースでは、使用者責任を追及する根拠はないと言えます。
他方で、会社の業務過程で不貞に発展したような場合であれば、事実関係次第では使用者責任を追及する余地も生じ得ます。このような請求がなされた事案は多くは確認できませんが、確認できる裁判例においては、不貞自体は業務と関連がないということで、使用者責任を否定されているケースが通例です。

3 使用者責任を認めた例
使用者の責任を認めたケースとしては、以下の裁判例があります。いずれも事案の個別性が影響しており、一般的に使用者責任を認めているとは言えません。
〇 東京地裁2021年6月25日判決
原告の妻が、原告の出向先である会社の代表取締役(原告の出向元会社の執行役員)と不貞行為をして離婚に至ったと認定された事案です。原告は、上記代表取締役(Y1)に対して不貞慰謝料請求するとともに、出向元会社に対し、不法行為及び使用者責任に基づいて損害賠償請求をしたのに対して、以下のとおり判断されました。
Y1が単なる従業員ではなく出向先の代表取締役である点が判断に影響しているように思われます。また、会社の責任を認めた根拠として直接は言及されていませんが、Y1は原告の妻と仕事上知り合っていたという事実関係であった点も判断に影響しているようにも考えられます。

(会社の不法行為責任について)
「使用者が労働者に出向を命じ,その就業場所を当該出向先と指定した場合においては,当該出向先において労働者の労務管理を統括する権限と責任を有する者は,出向元の使用者が負う上記配慮の義務の履行補助者として,当該義務の内容に従って,その職務を遂行すべきものというべきである……。
もとより,使用者が負う上記配慮の義務の具体的内容は一義的に定まるものではないが,少なくとも,労働者の出向先における労務管理の統括者が当該労働者の配偶者と不貞関係を持つという行為は,当該出向労働者がその就業場所である出向先で労務を提供する過程において,その心の健康に害を被る危険性の高い行為であり,上記配慮の義務に違反するものといわなければならない。したがって,このような行為が行われた場合には,出向元の使用者において,当該労働者に対する上記配慮の義務の不履行があったものとしてこれに基づく雇用契約上の責任を負うものというべきであり,また,当該行為を行った出向先の労務管理の統括者においても,当該労働者の上記配慮を受ける権利を侵害したものとして当該労働者に対する不法行為責任を免れないものというべきである。
これを本件についてみると,被告会社は,原告X1の使用者として原告X1に対する上記配慮の義務を負っており,また,原告X1の出向先のB社で代表取締役を務めていた被告Y1は,同社における労務管理の統括者として上記義務の履行補助者の立場にあったものというべきところ,前記認定のとおり,被告Y1は,原告X1のB社出向期間中に,Dが原告X1の妻であることを知りながらDと不貞関係を持ったことが認められるから,被告Y1は,当該不貞行為により,原告X1の上記配慮を受ける権利を故意により侵害したものとして,原告X1に対する不法行為責任を免れず,原告X1の被った精神的苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。原告X1の主張は,この趣旨をいうものとして理由がある。」

(被告会社の使用者責任について)
「被告会社は,その執行役員である被告Y1との間に使用関係が認められるうえ,前記3で説示したとおり,実質的にみても,自らが雇用する原告X1についての労務管理業務を被告Y1に委ねることにより,その事業のために被告Y1を使用していたものと評価することができる。そして,前記3に説示したところによれば,被告Y1の不貞行為が,被告会社から委ねられた労務管理業務(前記配慮の義務の履行補助)の執行について行われたものであることも明らかである。
したがって,被告会社は,民法715条1項本文の使用者責任に基づき,被告Y1と連帯して,被告Y1の不貞行為により原告X1の被った精神的苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。」

〇 神戸地裁姫路支部2014年2月24日判決
自衛隊の本部心理担当幹部であった隊員が、カウンセリングの過程でわいせつ行為を行ったことを理由に、以下のとおり判断して国の賠償責任を認めた判決です。明らかに業務過程の行為であることによるものと考えられます。
「被告の被用者であるEが,被告の事業であるL駐屯地におけるカウンセリングに際し,原告の妻であるFに対して,カウンセリング行為であるとして,Eのわいせつ行為を行ったことが認められる。
したがって,被告が,原告がEのわいせつ行為によって被った損害について使用者責任を負うことは明らかであり,Eのわいせつ行為と同人の職務との密接関連性を否認する被告の主張は採用しえない。」

離婚問題について

Q

不倫をした配偶者や不倫相手の勤務先に不倫の事実を知らせても構いませんか

A

名誉棄損又はプライバシー侵害により賠償責任が認められている例があります

一般的に言って、たとえ職場不倫であっても不倫する当事者の意思で行うものであり、勤務先はこれを是正する立場にありません。まして職場不倫でなければ、勤務先がなにかできる根拠もありません。
他方、不倫は私的なことですから、プライバシーも及びます。

そのため、裁判例としては、不倫の事実を勤務先に知らせた行為については、不法行為が認められている例が多数です。

1 東京地裁2021年1月27日判決
b社に勤務し雑誌「a」の編集長を務める男性が部下の女性(A)と不貞関係になった事実関係の下で、Aの元夫が、Twitterアカウント名に「a誌編集長YとAのW不倫で,家庭を壊されました」との記載を入れて、アカウントの自己紹介欄に「a誌という雑誌の編集長Y氏とその部下だった元妻AのW不倫によって家庭を壊され,子ども達と一緒に苦しみながらも楽しく暮らしているシングルファザーです。恥ずかしいですけど,事実を少しずつ書いていきたいと思っています。」との記載を入れて、b社の5つの公式アカウントをフォローしたほか,複数のマスメディアの公式アカウントをフォローした行為について、以下のとおり判断して不法行為を認めた。
「原告による本件アカウント作成等により,被告の勤務先の同僚らが,被告とAの不貞行為を知るにいたったことが認められ,原告による本件アカウント作成等の行為は,被告の名誉を毀損するとともに,被告のプライバシー権を侵害するものといえる。
原告は,本件アカウント作成等は伝播性がないとするが,被告の同僚等が本件アカウントを見ることができる状況にあったことは上記認定のとおりであって,その主張は採用できない。
また,原告は,名誉毀損について違法性阻却事由があるとも主張するが,ツイッターのアカウント名と自己紹介文を被告とAの不貞行為の暴露に利用するというその方法や,抗議を受けて直ちに撤回した経過などからすると,被告の不貞行為を社会に訴えかけるのが正当な行為であるという認識のものと行ったものとは考え難く,むしろ私怨を果たすことを目的にした行為であると認められ,名誉毀損について違法性阻却事由があるとは認められない。」

2 東京地裁2019年3月26日判決
精神科医同士の夫婦が、妻(原告A)の不貞により離婚した後、元夫の兄が、原告Aの勤務先など各所に不貞の事実等を知らせる手紙を送付するなどした行為について、以下のとおり判断して不法行為の成立を認めた。
「上記各手紙には,原告らが不貞行為を行ったこと,原告Aが妊娠したこと,原告らが中絶同意書を偽造したこと,原告Aが中絶手術を受けたことなどが記載されていること,……L宛の手紙……及びe病院の副病院長宛の手紙……には,原告Aの日記の内容(「原告Aは不倫内容を日記に記載し,(不倫相手の性器を)『欲しい。欲しくて身体があつい。子供ができてしまったのにまだ欲しい。』ととんでもない日記を書いています。これこそ原告Aは,精神病ではないでしょうか?」)が記載されていることがそれぞれ認められる。
上記各手紙の内容は,原告らの社会的評価に相当程度影響を与え,その事柄の性質上,私生活上の事実で公にすることを欲しないものであろうと考えられることを考慮すると,被告Cの上記記載内容の各手紙の送付行為は,社会通念上受忍すべき限度を超えて原告らの生活の平穏を侵害するものと認められるから,不法行為上違法な行為に当たるというべきである。」

3 東京地裁2016年10月17日判決
不貞配偶者、不倫相手のいずれも官庁勤務の国家公務員であったところ、不倫された配偶者が、25人程度の国会議員の議員会館事務所に宛てて、不倫の事実等を知らせる以下の内容のファックスを送信した行為について、名誉毀損であるとして賠償責任を認めた
(ファックス内容)
「はじめまして。私は△△省に勤務している者です。
過日,△△省◇◇局□□部◎◎課課長Y1(被告)に対し,別添の訴状のとおり,東京地方裁判所に被告の不貞行為による損害賠償請求訴訟を提起いたしましたので,ご参考までにお知らせします。
このことは2週間以上前に職場(△△省)に連絡済であり,起訴内容について今後裁判で被告と争っていきます。もちろん不貞行為の確実なる証拠は確保しております。
なお,被告にも妻子があり,この不倫が原因で私の家族は崩壊しておりますが,国家公務員の管理職という立場にありながら,部下の女性職員と不倫を行い,その夫に対して,未だに何の謝罪も行っていない被告は絶対に許せません。裁判は原則公開ですので,今後は社会に対しても被告の責任を訴えていく所存です。
※ 申し訳ございません。訴状の一部を黒塗りとさせていただいております。」
(裁判所の判断)
「一般人の通常の注意と読み方を基準とすれば,これらの内容は,単に原告が被告に対して訴訟を提起したという事実を摘示するにとどまるものではなく,被告が原告の妻と不貞行為を行ったこと,少なくとも被告が原告からその妻と不貞行為を行ったことを相当に高度な確度をもって疑われ訴訟提起されるに至った人物であるとの印象を与えるものであり,被告の社会的評価を低下させ,その名誉を毀損するものであることは明らかである。これに反する原告の主張は採用することができない。」

4 東京地裁2015年 7月30日判決
離婚後に、元妻(原告)が不貞行為をしていたなどの事実を第三者に流布した元夫の以下の行為について、名誉権・プライバシー権を侵害する違法な行為であるとして不法行為の成立を認めた。
「原告の親戚等に対して,原告の不倫が原因で婚姻生活が破綻したこと,原告が被告に対して再三にわたって嘘や偽りを述べたこと,残りの人生をかけて原告を恨み・呪い,できる限り合法的な復讐を成し遂げたいなどと記載した葉書を送付した。」
「原告が以前に勤務していた会社の社長や社員及び取引先に対し,原告になりすまして,原告が不倫をしていたことなどを記載したメールを送信した。」
「原告の親戚や友人ら多数人に対し,同メールと同内容の書面を送付した。」
「被告は,同人のいわゆるフェイスブック上のページに,…同内容のメールを掲載した。」
「原告が以前に勤務していた会社の社員や友人ら多数人に対し,原告と被告が離婚に至った経緯に関する事実,原告が不貞行為をしていた事実を記載したメールを送信した。」
「原告の両親や友人ら多数人に対し,原告と被告との婚姻生活が破綻した経緯に関する事実や,原告が不貞行為をしていた事実等を記載した書面を送付した。」
「原告の実家の近所の家々に,同メールと同内容の書面に,『お世話になった御近所の皆様へ』と記載した上で,多数投函した。」

5 東京地裁2015年6月3日判決
夫(A)が、夫の経営する会社の営業担当者である女性(原告)と不貞関係にあった下で、妻(被告)が、女性の勤務する保険会社の支社長宛に不貞行為をしたなどの以下の通知を送付した行為について、以下のとおり判断して不法行為を認めた。
(通知内容)
「原告がAと不貞行為をしていたことが判明したため、a生命においても、原告の使用者としての責任に鑑み、原告に厳正な処分をするほか、原告が公的にも私的にもAと今後一切関係を持たず、Aの会社に出入りせず、被告、被告の家族、自宅及びAの会社に近づいたり連絡したり危害を加えたりせず、法人会に出入りしないことを誓約するよう、a生命として誠実な対応をお願いしたい、また、被告側の個人情報が原告に知られており、原告が自宅近くまで来ようとしたりして家族が怖い思いをしているため、個人情報についてa生命がどのような対応をするかを検討の上、速やかに報告されたい旨」
(裁判所の判断)
上記通知をするのと同日に依頼した弁護士からも女性宛に内容証明郵便を送っていることなどから、「(妻は)勤務先に不貞の事実を認識させることにより原告に社会的制裁を加える意図も有していたことがうかがわれる。そうすると、原告とAの不貞関係が事実であることや、原告とAの関係がa生命の営業担当者と取引先という関係であって、a生命に対し管理監督責任を追及したり会社としての対応を求めたりすること自体は直ちに不当とはいえないことなどを考慮しても、被告による内容証明②の送付は方法として相当性を欠くものであり、原告の名誉を毀損する不法行為を構成するというべきである。」

6 東京地裁2014年12月9日判決
元妻が、離婚後に、元夫が職場で部下の女性と不貞行為をしているなどの以下の通知を職場の上司等にメールで知らせた行為について、以下のとおり不法行為の成立を認めた。
「本件各メールは,①原告は,妻子があるのに20歳年下の職場の同僚と不倫をしていたこと,②原告が自ら不倫をしながら被告の暴力を主張して被告を家から追い出そうとしたこと,③原告が被告に不倫相手が発覚するのを恐れて若い女性を目で追いかけていたこと,④原告が不倫発覚時に証拠の奪い合いをして被告の左腕を傷つけたこと,⑤原告が,Cとともに,財産分与をいかに減らすかについて,会社のセキュリティがかかったエクセルファイルで管理し,婚姻の計画を立てていたこと,⑥原告が我孫子事務所には週に1,2度しか出勤せず,自宅から通えるのに,上野に単身赴任用のアパートを借り,不倫相手と交際していたこと,⑦原告は,原告の社内不倫により被告や子が深く傷ついても,幸せを感じることができること等を摘示するところ,①③は,原告が自分の娘と大差ない年齢の女性と社内で不倫をし,それを隠そうとする倫理観の欠如した男性であること,②は,原告が被告を虚言により誹謗中傷したこと,④は,原告が被告に傷害を負わせる暴力的な人物であること,⑤は,原告が被告と婚姻中に不倫相手と婚姻する計画を立てている男性であること,⑥は,原告が勤務時間中も不倫女性と過ごし業務を怠けていること,⑦は,原告が家庭を壊し子供を不幸せにしても自分が幸せを感じるような身勝手かつ冷酷な男性であることを摘示するから,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。」

7 東京地裁立川支部2013年 7月30日判決
妻(原告)が、市役所勤務の夫(A)と同じ市役所に勤務して不貞関係にある女性(被告)に対し、同市役所を訪れ数名の職員や来訪者がいる1階のロビーで,Aの妻であることを名乗り,Aと「不倫をしている。」「浮気をしている。」などと話しかけるなどした行為について、以下のとおり不法行為の成立を認めた。
「原告は,複数の職員や来館者がいる前で,被告に対し,不倫をしていると告げ,その声は,周囲にも聞こえる状況であったこと,原告がAの職場に書類を送るにあたり,上司に対し,電話をした際の内容は,その状況からするとAと被告の不貞行為が原因で別居したと取れる内容であることからすると,これらの原告の言動については,被告に対する名誉毀損行為と認めることができる。」

8 東京地裁2013年 1月17日判決
aスーパーで勤務する男性従業員(被告)が、同スーパーでパート勤務する女性(A)と不貞関係をもったことを、スーパーに告げた行為について、以下のとおり不法行為の成立を認めた。
「原告が,①平成23年4月17日頃,aスーパーのお客様相談室へ架電し,被告とAが不貞関係にあることを告げたこと,②同年5月2日頃にもaスーパーのお客様相談室へ架電したこと,③同月頃,被告が勤務するaスーパー◎◎店のお客様の声ボックスへ,被告と原告の妻とが不貞行為をしていることがわかる内容の投書(乙2)をしたこと,④同年8月6日頃,被告の勤務するaスーパー◎◎店に架電したこと,⑤同年10月17日頃,同店に赴き,買い物をして,レジの店員に対し,被告が同日同店にいるかどうかを尋ねたこと,⑥同年12月29日頃,aスーパー本社に架電し,被告に裁判所へ出頭するよう伝言を要求したことは原告も認めており,この範囲で争いはない。」
「そうすると,前記①,③の行為は,被告が不貞行為をしていることを不特定の者に告知するもので,少なくとも被告の名誉を毀損する行為であるといえる。また,前記⑥の行為は,前記①,③の行為と相まって,被告が不貞行為を理由に訴えを提起されていることを通知するものであって,前記①,③の行為と併せて不法行為を構成するものといえる。」

9 東京地裁2008年6月25日判決
刑務官がその地位を利用して元受刑者の妻と不貞行為をしたとして、元受刑者(原告)が刑務官(被告Y1)や国に対する損害賠償請求をしたところ、刑務官が元受刑者の行動によって社会的評価が低下したとして反訴請求をした事案について、刑務官が元受刑者の妻と肉体関係を結んだことにより、元受刑者の夫婦関係を破綻させた事実を認定して、元受刑者からの損害賠償請求を認容するとともに、元受刑者が刑務官の職場に不貞の事実を触れ回ったことについても、以下のとおりプライバシー侵害の不法行為の成立を認めた。
「原告が話した内容には,被告Y1とAの不貞関係など,同被告の私生活上の事実,しかも,第三者に知られたくない事実が含まれており,それが職場の者に話された場合,被告Y1が精神的苦痛を受けることは,明らかである。そして,上記証拠(丙4)によれば,原告の通話内容には,刑務官の不祥事を勤務先の刑務所に通告し,その姿勢を問うという部分も含まれてはいるが,上記証拠から認められる通話内容やその時期及び回数を併せて考えれば,少なくとも,その主要な目的の1つは,被告Y1を困惑させ,そのころ進められていた原告と被告Y1との間の示談交渉を有利に進めようとする点にあったものと推認できるのであり,原告の上記行為をもって,社会的相当性の範囲内にある行為と評価することは困難である。原告の上記行為は,被告Y1に対する違法なプライバシー侵害に当たる解するのが相当である。」

離婚問題について

Q

不倫相手との間で、「今後、配偶者と私的な接触をしない。これに違反した場合には1000万円支払う」といった違約金の合意をした場合、有効ですか

A

婚姻関係が破綻したり離婚したりした後の連絡・接触を制限することはできませんし、金額が高額すぎたり制限範囲が広すぎれば無効(一部無効)になることもあります。

この点が争われた裁判例はそれほど見当たらないですが、確認できる範囲から傾向を述べると以下の通りとなります。
1 連絡・接触制限合意の有効性・範囲
この種の接触・連絡の制限の合意自体は、不貞相手との関係を完全に断ち切らせるために必要な合意であるというような理由により、有効と認められています。
他方で、不貞相手との関係を断ち切らせるのはあくまで婚姻関係を保護するためなので、婚姻関係破綻後には合意は無効になることになります(裁判例⑥)。
また、連絡・接触を禁止するのもあくまで婚姻関係を保護するためなので、連絡・接触禁止合意違反に基づいて賠償が認められた事案も、性的接触を伴うなど婚姻関係を脅かすといえそうな事実があった場合や(裁判例⑤)、端的に再度の不貞があった場合(裁判例③)です。
また、連絡・接触合意に反したLINE・メールの送信行為については、「原告が,被告とAの平穏な婚姻関係を破綻させられる脅威を感じ,原告とAの婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある行為」であるとして賠償を命じた例もあれば(裁判例④)、違約金が高額すぎて無効であり、また、連絡・接触禁止合意違反としても「これが原因となって原告とAとの婚姻関係が破綻したと認めるに足りる証拠はな」いことを理由に不法行為成立も否定した例もあります(裁判例②)。LINE・メール程度の連絡・接触行為となると、違約金額との兼ね合いなどにも左右され、判断が分かれそうです
2 高額な違約金合意の有効性
以下のような事例があります。
・違約金100万円を有効と認めた例(裁判例⑤⑦)
特に裁判例⑦は、違約金としては「1回100万円」ですが、6回の不貞行為をしたと認定され、6回分600万円の請求が認められています。
・違約金1000万円と定めたのが高額すぎるとして150万円の限度で有効とした例(裁判例③〔再度の不貞行為がなされた事案〕)
・違約金1000万円と定めたのが高額すぎて違約金合意自体が無効であるとした例(裁判例②〔単に連絡・接触合意違反のメール送信行為があった事案〕)
・違約金5000万円と定めたのが高額すぎるとして1000万円の限度で有効とした例(裁判例①〔再度の不貞行為がなされた事案〕)があります。
もっとも、裁判例①は事実関係が特殊すぎて参考になりません。
裁判例③も、再度の不貞行為により婚姻関係が破綻したことによる慰謝料が200万円だと認め、そこから違約金150万円を差し引いた50万円を慰謝料として支払を命じており、結局、合意がなく再度の不貞行為があった場合に慰謝料請求したのと異ならない結論になっているとも言えます。
その意味では、再度の不貞行為があれば、合意違反を問題にしなくても慰謝料請求が認められるわけですから、高額すぎる違約金を定めても必ずしも大きな意味があるわけではないとも言えそうです。
3 合意が意味を持つ場合
もっとも、再度の不貞行為までは証拠を確保できなくとも、示談後、再び相当親密な交流を再開していた(しかし、不貞行為として賠償請求できるとまでいえるかは微妙)ようなケースでは、違約金請求であれば認められる余地はあることになります(裁判例⑤のようなケース)。
また、不貞行為「1回100万円」という違約金条項が有効になったケースもあるので(裁判例⑦〔ただし、具体的事情の下で有効という判断でもある〕)、そういう定め方をすることで高額な違約金が認められる余地があるとは言えます。

(裁判例)

① 東京地裁2005年11月17日判決
原告の妻とくり返し不貞行為をくり返した事業経営者の被告が、「二度とA〔妻〕と不貞関係を持たないことを誓約し、これを破ったときには5000万円を賠償する」との誓約書を作成して合意した後、更に不貞行為を続けたばかりか、他者と共謀して原告に対する殺人未遂事件を起こして重傷を負わせた事実関係の下、殺人未遂による損害賠償請求のほか、上記誓約による賠償金5000万円を請求した事案。
同判決は、以下のとおり1000万円の限度で違約金合意の有効性を認めた。
「不貞行為についての損害賠償として、5000万円全額の支払を被告に命ずるというのは高額に過ぎ、被告の不貞行為の態様、資産状況、金銭感覚、その他本件の特殊事情を十分に考慮しても、なお相当と認められる金額を超える支払を約した部分は民法90条によって無効であるというべきである。
本件では、前記のとおり被告が本件殺人未遂行為に及んでいることからして、被告の行動が悪質ではあることは明らかであるが、それは後記のとおり本件殺人未遂行為に係る慰謝料の算定に当たって評価すべきであって、あくまで不貞行為についての慰謝料という観点から損害賠償の予定として相当と認められる金額を認定すべきである。
しかるところ、5000万円という金額は、被告が自ら提示したものであること、被告は会社の代表者を務め、本件殺人未遂行為の報酬等として数千万円もの大金を拠出するなど、かなりの資力があり、金銭感覚も通常人とは異なっているとうかがわれること、不貞行為の内容をみても、被告は、先に本件誓約1をしながら、平然とこれを破り、Aを唆して家出させて同棲に及び、さらに本件誓約2の後も、すぐにAとの不貞行為を再開し、入院中ですら逢瀬を重ねるなどその態様も大胆不敵で違法性は強いというべきこと、その他本件の各事情を勘案すると、被告に対して不貞行為に関する損害賠償額の予定として支払を命ずるべき金額としては1000万円を限度とするのが相当と認められる。」

② 東京地裁2009年1月28日判決
不倫相手との間で、「①被告はA〔原告の配偶者〕と何度にも渡る不貞の関係を持ったことを認め,謝罪する,②被告は同窓会に関係する事項から撤退し,今後,方法のいかんを問わずAと一切の直接の連絡をしないこと(ただし,連絡ができなくなったという最後の連絡を除く。),③被告は慰謝料500万円を3月25日までに支払う,④違約した場合には被告は違約金1000万円を別途,支払う」と合意した後、被告がAにメールで連絡をしたという事実関係において、原告が、合意による慰謝料500万円に加え、違約金1000万円を請求した事案。(メール内容は判決では認定されていないが、原告の主張によれば「原告と被告との面談の内容や和解の内容をすべて明らかにした」というものである。)
同判決は、慰謝料500万円の合意は有効と認める一方で、違約金合意については以下のとおり判断し、違約金の合意は無効とした。
「慰謝料500万円を支払わない,Aと連絡を取る等の違約があれば,慰謝料500万円のほかに違約金としてその倍の金額の1000万円もの多大な金員を別途支払うことになるという違約金条項は,結局,違約があった場合には被告の支払額を3倍の1500万円まで高めるものであって,不貞行為による損害賠償請求という本件事案の性質に照らし,社会通念上,容認することができない不当かつ不合理な合意というほかない。結局,違約金に関する合意の限りでは,本件和解契約書は暴利行為ないし公序良俗に反しており,無効というべきである。
したがって,慰謝料500万円の合意は認められるが,違約金1000万円の合意は無効である。」
その上で、メール送信行為についての不法行為の成立も、以下のとおり否定した。
「本件約定に反して被告が本件和解契約成立後,Aに電子メールを送った事実は認められるものの,これが原因となって原告とAとの婚姻関係が破綻したと認めるに足りる証拠はなく,原告の請求はその余の点について判断を加えるまでもなく,理由がない」

③ 東京地裁2013年12月4日判決
不倫相手が、「今後,A〔原告の配偶者〕に会うことはもちろん,一切の電話・メール・手紙・面会等で連絡をとることはしない。職務上においても必要最小限以外のコンタクトをとらないことを約束する」「万が一違反した場合には,別途違約金として1000万円を支払う」旨の誓約書を作成して合意した後、再度の不貞行為に及んだ事案。
同判決は、以下のとおり判示し、1000万円の違約金を定める条項は150万円の限度で有効であると判断した。
「本件違約金条項は,面会・連絡等禁止条項の違反について,違約金を課すものであると認められるところ,違約金は損害賠償額の予定と推定されるから(民法420条3項),その額については,面会・連絡等禁止条項が保護する原告の利益の損害賠償の性格を有する限りで合理性を有し,著しく合理性を欠く部分は公序良俗に反するというべきである。
そこで検討すると,面会・連絡等禁止条項は,被告にAとの不貞関係を確実に断ち切らせ,原告の精神的安定を確保し,Aとの婚姻関係を修復するという正当な利益を保護するためのものであって,その目的は正当であると認められる。そして,原告本人の供述によれば,原告としては,面会・連絡等禁止条項の履行を確保することが,本件違約金条項を定める大きな目的だったことが認められるが,上記正当な目的を有する面会・連絡等禁止条項の履行を確保するために,その違反行為に違約金を定めることも,上記目的を達成するための必要かつ相当な措置であると認められる。
しかしながら,本件違約金条項による違約金額1000万円は,メールや面会等による接触にとどまらず不貞関係にまで至った場合に認められる損害額(後記4(3)のとおり)に照らすと,損害賠償額として著しく過大であるというほかない。
なお,原告本人の供述によれば,原告が本件において違約金の額を1000万円と設定したのは,原告において事前にインターネットで調べたところ,慰謝料の2倍から3倍を違約金として定めるのがいいと書かれていたからである。しかしながら,慰謝料額が500万円であることにも,違約金の額がその2倍ないし3倍であることにも法的根拠はなく,本件の違約金額の設定方法にも合理性は認められない。
そして,面会・連絡等禁止条項に違反してAと面会したり電話やメール等で連絡をとったりした場合の損害賠償(慰謝料)額は,その態様が悪質であってもせいぜい50万円ないし100万円程度であると考えられるから,履行確保の目的が大きいことを最大限考慮しても,少なくとも150万円を超える部分は,違約金の額として著しく合理性を欠くというべきである。
したがって,本件違約金条項のうち,150万円を超える部分は,著しく合理性を欠き,公序良俗に反し無効である。」
その上で、再度の不貞行為による慰謝料について、子の不貞行為により婚姻関係が決定的に破壊されたことなどを理由に慰謝料相当額を200万円と認め、「再度の不貞は,面会・連絡等禁止条項違反でもある。したがって,違約金による填補を考慮して,被告は,再度の不貞による慰謝料として50万円の支払義務を負う」と判断した。
結論的には違約金合意にかかわらず、再度の不貞行為による慰謝料を負担したのと異ならない結果になったともいえる。

④ 東京地裁2018年9月25日判決
不倫相手との訴訟上の和解で、「被告が,原告に対し,解決金として100万円の支払義務があることを認め,被告が,原告,A及びAの親族に対し,メールや電話等の方法を含む一切の連絡及び接触をしないことを確約する」旨の合意をした後に、不倫相手が、配偶者に対し「成功報酬はらってほしいだけだよ」「みなさんに全部お話します それで,訴えられてもかまいません」「あなたのせいで,お店の方々には迷惑かかりますし,お店はつぶれますね」「親とあなたの実家にもいきますので」「もう成功報酬は,払わないってことでいいんですね?そしたら,いったとおりのことをします まず,本部のかたにお話してから店長に言います そのあと,警察にもいきます あたしの親にも会ってくださいね」という内容のLINEメッセージを送付した。
このLINEメッセージの送信行為が合意違反であるとして損害賠償請求がなされた事案において、以下のとおり判断して不法行為の成立を認め、慰謝料5万円等の支払を命じた。
「本件和解は,成立後,再び原告とAとの婚姻関係を破綻に至らせるような行為,具体的には,被告とAが接触をしないということを当然の前提として,当事者間で成立させたものといえる。
それにもかかわらず,被告は,本件和解成立後もAと同じ職場で勤務し続け,Aに対しLINEメーセージを送付したのであり,また,その内容も,前記前提事実(3)のとおり,不貞行為を周囲に話してAや職場に迷惑をかけるという内容であり,このような被告の行為は,原告が,被告とAの平穏な婚姻関係を破綻させられる脅威を感じ,原告とAの婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある行為であると認められるから,かかる被告の行為は,原告に対する不法行為に該当するものと認めるのが相当である。」

⑤ 東京地裁2018年12月12日判決
不倫相手が、「①今後いかなる理由があるとしても原告の夫であるAとの電子メール,電話,ショートメッセージサービス,ソーシャルネットワーキングサービス,面会等の一切の関係を絶つこと」及び「②これに反する行為をした場合には,妻である原告から即座に違約金として100万円を請求されても異存はなく,その場合,被告にどのような事情があったとしても速やかに上記金員を一括で原告に支払うこと」をそれぞれ誓約する誓約書を作成した事案。
この誓約書による合意の有効性について、以下のとおり判断し、誓約後に性的な接触を含む接触をするなどしたことを理由とする違約金請求を認めた。
「被告は,本件合意における被告とAの接触の禁止対象が広範に過ぎるため無効であると主張する。仮に一般論として,配偶者と不貞相手との接触を禁じ,当該接触禁止約束に違反した場合に極めて高額な違約金を定めるなどする合意が,公序良俗違反等により無効になるという理論があり得たとしても,その全部が無効になると解するのは相当ではなく,さらに,本件においては,仮に上記のような一部無効の理論を採ったとしても,本件合意が原告の夫であるAとその不貞相手である被告との関係を絶つことを目的として原告と被告との間で合意されたものであることに照らせば,本件合意のうち,少なくとも,実際に面会して性的な接触を含む接触をしたり,日帰りかつ二人きりではないとはいえ連れだって旅行に出かけたり,あるいは二人でホテルに同宿してテーマパークで遊興する(しかも,いずれについても,当該接触がやむを得ないということのできるような事情は微塵もない。)という接触を禁じ,その接触禁止約束に違反した場合に違約金として100万円を支払う旨の部分が公序良俗に反するなどとして無効にならないことは明らかである。」

⑥ 東京地裁2020年6月16日判決
不倫相手との間で不貞慰謝料について示談し、配偶者と私的な接触を持たず、違反した場合には「a 電話やメール・手紙,面会その他の方法の如何を問わず,私的な接触を行った場合,1回につき30万円」「b 不貞行為に及んだ場合,1回につき100万円」との違約金を定めた合意の有効性について以下のとおり判断した。そして、不倫相手が示談後に再度不貞行為に及んだ時点ではすでに婚姻関係は破綻していたとして、違約金請求は棄却した。
「本件違約金条項は,被告とAとの不貞行為が原告の権利ないし法益を侵害することを前提とするものであるところ,不貞行為時において,既に婚姻関係が破綻していた場合には,それにより原告の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法益が侵害されたとはいえず,特段の事情のない限り,保護すべき権利又は法益がないというべきである。そうすると,本件違約金条項のうち,原告とAの婚姻関係破綻後について定めた部分は,公序良俗に反し無効と解するのが相当である。」

⑦ 東京地裁2021年10月28日判決
婚姻関係ではなく婚約関係のもとでの不倫事案。被告が、原告と婚約関係にあったAと不倫し示談した際に「再度,不貞行為をもった場合は,被告は,原告に1回につき100万円を支払う」との違約金合意をした。その後、被告はAと6回不倫をしたことで、原告は被告に600万円を請求した事案。
違約金条項の有効性について、「本件条項の趣旨目的は,被告によるAとの再度の不貞行為を抑止することが主たる目的であって,過当な金銭を取得することが主たる目的であるとは認められず,不貞行為1回あたり100万円という金額が,その趣旨目的に照らして一見して著しく過大であると評価することはできない。」として有効と判断された。
また、6回の不貞行為で600万円という高額の違約金になる点についても、「本件条項は,短期間に不貞行為が多数回繰り返された場合には損害賠償額が高額に上る可能性があり,事案によっては,本件条項の趣旨目的に照らして著しく過大な金額であるとの評価を受ける余地がないではないが,本件違反行為は,令和2年3月15日(本件合意書作成日)から同年10月4日(本件違反行為が発覚した日)まで,半年以上に渡って繰り返されたものであること,本件違反行為の結果,Aは父親が被告である可能性の高い子を妊娠するに至り,Aの内心において原告との婚約関係の解消も検討していたこと,原告とAは最終的には結婚するに至っているが,Aは本件妊娠に係る子を堕胎しており,本件違反行為が原告とAの婚約関係に与えた影響は大きいものであったといえることを踏まえると,本件違反行為による不貞行為の回数が6回であり,損害賠償額が600万円になるとしても,本件条項の趣旨目的に照らして一見して著しく過大であると評価することはできず,公序良俗に反して無効であるということはできない。」と判断された。

離婚問題について

Q

どのような場合に婚姻費用・養育費が請求できますか

A

離婚するまでの間は婚姻費用を請求でき、離婚後に未成年の子を監護する側が養育費を請求できます。

1 婚姻中は、配偶者・子どもの生活費=婚姻費用を請求できる
夫婦は互いに扶養する義務があり、別居したりしても、この義務は失われません。扶養義務は、自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者にも保持させる義務(生活保持義務)と、自分の生活を犠牲にしない程度で被扶養者の最低限の生活扶助を行う義務(生活扶助義務)に分けられますが、婚姻費用も養育費も前者の生活保持義務に当たります。

そこで、離婚の協議や裁判の手続中も、生活費の分担を請求できることになり、これが婚姻費用です。婚姻費用は、配偶者の生活費の分のほか、請求する配偶者が監護している未成年の子どもがいれば、その子どもの生活費の分も含まれます。

2 離婚後は、子どもの養育費のみ請求できる
離婚すると、配偶者同士では扶養の義務はなくなります。
他方で、未成年の子どもがいる場合には、その子どもに対する生活保持義務は残ります。したがって、親権者とならなかった親が、親権者となった親に対して、監護の費用として、養育費を支払う義務があります。

婚姻費用・養育費の内容は論点も多岐にわたるので、詳しくはそれぞれのQ&Aをご参照下さい。

離婚問題について

Q

同居中ですが、夫が生活費を渡してくれなくなりました。婚姻費用を請求できますか。

A

同居しながらでも、婚姻費用は請求できます。ただし、住居費の負担を免れている分、算定表よりも安い金額になります。

婚姻費用は、別居中に請求するのが通例ですが、夫婦としての扶養義務を求めるものなので、同居中でも請求できます。
もっとも、同居することで住居費等の負担を免れている部分があるので、金額の算定としては、算定表からその分を控除するなどして調整されることになります。

離婚問題について

Q

婚姻関係が完全に破綻しているのに、婚姻費用を支払わなければならないのですか。不貞をした有責配偶者からの請求でも認められるのですか。

A

婚姻関係から生じる義務なので、破綻していても免れることはできません。ただし、有責配偶者からの請求であれば否定する判断が多いです。

1 婚姻関係の破綻と婚姻費用義務の関係
婚姻費用分担義務は、どれだけ婚姻関係が破綻し形骸化していても免れることはできません。
婚姻費用分担義務は、婚姻という法律関係から生じるもので、夫婦の円満な関係、協力関係の存在という事実状態から生じるものではないからです。

2 破綻原因を作った有責配偶者からの請求は認められない(子どもの生活費分は除く)
他方で、夫婦の扶助義務に違反した配偶者が、自らはその義務を怠りながら、他方にその履行を求めるのは信義則に反するなどの考えから、別居又は婚姻関係破綻について専ら又は主として責任がある有責配偶者からの婚姻費用請求については否定又は制限される裁判例が多数となっています。
ただし、ここでいう有責配偶者というのは、不貞をしたケースが典型であり、「勝手に家を出ていった」というだけでは全く有責には当たりません。
また、未成年の子どもがいる場合には、有責配偶者からの婚姻費用請求でも、子どもの生活費分の請求は認められます。

離婚問題について

Q

婚姻費用・養育費はどのように決まるのですか

A

当事者が合意できれば合意で決まりますが、合意できない場合は家庭裁判所が決めます。家庭裁判所の決定に不服があれば、不服申立ても可能です。

1 裁判所で決める手続
いずれも、当事者間で合意ができれば、その合意が有効です。
合意できない場合には、家庭裁判所で決めることになります。
婚姻費用については、婚姻費用請求調停という調停手続によることになり、調停でも合意できない場合は、裁判所が「審判」という決定で定めます。
養育費については、離婚が判決になる場合には、通常、判決で養育費も決められます。離婚に際して養育費が取り決められなかった場合には、婚姻費用と同様に、養育費請求調停という調停手続によることになり、調停でも合意できない場合は、裁判所が審判で定めます。

2 金額の決め方
一般には、「算定表」に基づいて毎月の金額が定められます。
http://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/
ただし、個々の事情によって種々の修正がなされることはあります。

3 家庭裁判所の審判に対する不服申立て
家庭裁判所が審判で婚姻費用・養育費を決めた場合、その内容に不服があれば「即時抗告」という不服申立てができます。
即時抗告は、審判の告知があった日(通常は、審判書謄本を受け取った日)の翌日から2週間以内に抗告状を家庭裁判所に提出します。抗告状に不服の理由を書いていない場合には、抗告状提出から更に2週間以内に不服の理由書(抗告理由書)を提出します。
その後は、高等裁判所で審理されることになります。一般には、書類の審査だけで判断されるので、高等裁判所に出席しないまま終わります。出席しないままでも結論が変わることはあります。

離婚問題について

Q

婚姻費用・養育費はいつから請求できますか。これまで支払われていなかった期間の分は支払わせられませんか。

A

原則として、請求する調停を申し立てるなど、明確な形で請求した時以降の分しか請求が認められません。

婚姻費用・養育費を家庭裁判所で請求している場合、最終的に定まるまでにも期間がかかります。そこで、裁判所が審判で決める場合に、「いつの時点からの婚姻費用・養育費の請求が認められるか」が問題となります。
これは、一般には、調停を申し立てるか、そうでなくとも内容証明郵便で請求するなど、明確な形で婚姻費用・養育費を請求した時点からとするのが多数です。
本来の扶養義務はずっと生じていたので、論理的には扶養しなくなった時点から認める余地もあるのですが、過去の分を際限なく支払を命じると義務者に過大な負担になることなどを考慮して、このような扱いになることが一般です。

離婚問題について

Q

婚姻費用・養育費はいつまで請求できますか

A

婚姻費用については、離婚又は別居状態解消まで、養育費については、成人になるまでが原則です。場合によっては、子どもが22歳に達した後の3月までの養育費が認められる場合もあります。

1 婚姻費用
婚姻費用の分担義務は、婚姻自体から生じるので、婚姻の解消がその分担義務の終期になります。
そこで、審判や調停で、婚姻費用を決める場合、支払いの終期として、「離婚又は別居状態の解消まで」などと定められます。
もっとも、婚姻費用の分担を避けるためにあえて元の自宅に戻って同居を再開しても、そのような場合には婚姻費用の支払を止めることは認められません(名古屋家裁岡崎支部2011年10月27日判決)。
また、子どもがいる場合は、子どもの分については後記の養育費の期限と同じ問題があります。

2 養育費
(1) 一般的な終期
養育費は、一般には、子どもが成人に達するまで認められることが一般的でした。
この点、民法改正によって、2022年4月からは、18歳以上であれば成人になります。
しかし、婚姻費用・養育費の新算定表を作成した司法研修所編『養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究』52-61頁において、「成年年齢が18歳に引き下げられたとしても,我が国の法体系において, 20歳未満の者については,その未成熟な面を考慮し,保護の対象とすべきとする考え方が維持されている」ことなどから、今後も、20歳までが終期となるとの考えが示され、裁判例もこれまでのように20歳までの分担を命じる例が見受けられます。
したがって、今後も、子どもが幼い事案(大学まで進むかどうか、養育費分担を決める時点では不確定要素が強い事案)では、20歳までの分担を命じられるのが一般的になると見込まれます。
(2) 20歳を超えて分担が認められる場合
非親権者(養育費の分担義務者)も同意して子どもが大学に入っているような場合などには、子どもが22歳に達した後の3月まで(つまり、大学卒業まで)と定められることもあります。

離婚問題について

Q

婚姻費用・養育費を決める「算定表」は、どのような計算で作成されているのですか

A

双方の総収入から、標準的な割合に基づき「基礎収入」を算出し、これを、配偶者や子どもの生活費指数に応じて振り分けた結果です

計算の簡易さのため、双方の総収入(手取りではない額面の収入)から、税金等を控除した「基礎収入」を算出し、これを年齢等に応じて必要となる度合いに差を付けて振り分けた結果に適合するように支払額を決めるというものです。
具体的には、
(1) 総収入から、統計に基づく標準的な公租公課(税金、社会保険料)・職業費・特別経費を控除した「基礎収入」を算出する。
(2) 基礎収入を、親を「100」、0~14歳の子を「62」、15~19歳の子を「85」とする生活費指数で、権利者側の生活費を定める。
(3) その結果に基づいて、義務者が権利者に支払う額を決める。
というものです。

<基礎収入割合>
計算に用いる基礎収入の割合は以下の通りとされています(司法研修所編『養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究』35頁)。

給与所得者の場合

年収(万円) 割合(%)
0~75 54
~100 50
~125 46
~175 44
~275 43
~525 42
~725 41
~1325 40
~1475 39
~2000 38

自営業者の場合

年収(万円) 割合(%)
0~66 61
~82 60
~98 59
~256 58
~349 57
~392 56
~496 55
~563 54
~784 53
~942 52
~1046 51
~1179 50
~1482 49
~1567 48

 

<養育費の計算式>
(1) 義務者・権利者の基礎収入の算出
(2) 子どもの生活費(年額)の算出
子どもの生活費=義務者の基礎収入×子の指数/(義務者の指数+子の指数)の算出
(3) 義務者の分担額(年額)の算出
義務者の分担額=子の生活費×義務者の基礎収入/(義務者の基礎収入+権利者の基礎収入)

(計算例:以下のケースの養育費)
父親の給与収入 800万円
母親の給与収入 200万円
母親が監護する15歳未満の子ども1人
(1) 基礎収入を算出
義務者の基礎収入=800万円×0.4=320万円
権利者の基礎収入=200万円×0.43=86万円
(2) 子どもの生活費(年額)の算出
320万円×62/(100+62)≒122.47万円
(3) 義務者の分担額(年額)の算出
122.47万円×320/(320+86)≒96.53万円(年額)
→月額約8万円

<婚姻費用の計算式>
(1) 義務者・権利者の基礎収入の算出
(2) 権利者世帯の生活費(年額)の算出
権利者世帯の生活費=(権利者・義務者の基礎収入合計)×権利者世帯の指数合計/(義務者の指数+権利者世帯の指数合計)の算出
(3) 義務者の分担額(年額)の算出
権利者世帯の生活費-権利者の基礎収入

(計算例:以下のケースの婚姻費用)
夫の給与収入 800万円
妻の給与収入 200万円
妻が監護する15歳未満の子ども1人
(1) 基礎収入を算出
義務者の基礎収入=800万円×0.4=320万円
権利者の基礎収入=200万円×0.43=86万円
(2) 双方の基礎収入から権利者世帯に割り当てられるべき生活費を算出
(320万円+86万円)×(100+62)/(100+100+62)≒251.04万円
(3) 義務者の分担額を算出
251.04万円-86万円=165.04万円(年額)
→月額約13.75万円

離婚問題について

Q

算定表に当てはめる収入は、どのような資料でどのように判断したらいいですか。

A

給与所得者であれば「総収入」であり源泉徴収票や所得証明書で判断できます。自営業者であれば確定申告書の控えで判断しますが、所得課税証明書でもおおよその額は計算できます。

 

算定表では、税金等を含めた総収入を元に、総収入から決まる又は統計的に定まる税金や職業費・特別経費を控除した基礎収入を算出して計算しています。
そのため、手取りの金額や売上は算定表に当てはめる収入ではありません。具体的には、以下の通りになります。

1 給与所得者の場合
給与所得者の場合、算定表に当てはめる収入は、給与の総収入であり、税金等を引かれた手取りの金額ではありません。源泉徴収票であれば「支払金額」であり、所得証明書であれば「給与収入」として表示された金額です(「給与所得」は税金等が控除された後の金額です)。

2 自営業者の場合
自営業者の場合は、確定申告書の㉚「課税される所得金額」欄の金額となりますが、単なる税金の処理のために控除されている金額があるので、以下の通り、調整が必要となります。
(1) 「所得から差し引かれる金額」の項目で「課税される所得金額」に加算する金額
① 「所得から差し引かれる金額」のうち、以下の項目の金額は、現実の支出を反映していないか、扶養義務に優先する支出といえないので、収入として加算することになります。
「小規模企業共済等掛金控除」
「寡婦,ひとり親控除」
「勤労学生,障害者控除」
「配偶者控除」「配偶者特別控除」
「扶養控除」
「基礎控除」
② 「所得から差し引かれる金額」のうち、以下の項目の金額は、基礎収入算出で控除する特別経費に標準的な額は含まれているので、加算することになります。
「生命保険料控除」
「地震保険料控除」
「医療費控除」
(2) 「その他」の項目で「課税される所得金額」に加算する金額
以下の項目は「所得金額等」の算出に当たって控除されているので、別途、加算します。
「専従者給与(控除)」は、現実に支払われていない場合は加算します。
「青色申告特別控除」は現実の支出ではないので、加算します。

結果的には、「所得金額等」の「⑫ 合計」から「⑬ 社会保険料控除」分を控除するのと同じ額か大きく違わない額になることも多いので、所得課税証明書しか資料がない場合、そのような計算にすることもあります。

離婚問題について

Q

算定表の幅の枠内での金額はどのように決まるのですか。

A

幅の中で位置する場所で金額を決めることが多いです。

最近は算定表の根拠となる計算方式が広く知られるようになっていることもあり、裁判所が審判で額を定める場合も、当事者が主張すれば、計算方式に沿って計算されることが多いです。もっとも、裁判所が審判で養育費・婚姻費用の額を決めるときには、1000円単位くらいで四捨五入するなりして定められることが多いです。

当事者から厳密な計算方法の主張が出ていない場合は、幅の中でのおおよその位置によって定められることも少なくありません。たとえば、4~6万円の枠内の下の方なら4万円、真ん中くらいなら5万円、上の方なら6万円、といった具合です。
このように、かなり画一的に定められる傾向にあります。「こういう点で困るから枠内で多め/少なめにすべきだ」と主張しても、金額を修正すべき具体的事情(子どもが私立学校に入っているなど定型的に修正事情となる事情)がなければ、幅の枠内であっても考慮されていない傾向にあります。

離婚問題について

Q

算定表に当てはまらないケースでは、婚姻費用・養育費はどう計算したらいいのですか

A

算定表の根拠となった計算方法に即して計算することになります

たとえば、(1)夫婦の双方に未成年の子どもが1人ずついる場合、(2)子どもが4人以上の場合、(3)義務者が再婚した場合、(4)義務者の下に子どもがいる場合(婚姻費用)など、算定表では当てはまらないケースも少なからず存在します。

「「算定表」は、どのような計算で作成されているのですか」で解説した通り、算定表は一定の計算方法に基づいた結果を表にしたものです。なので、該当する表がない場合も、根拠となった計算方法に基づいて計算すれば、一定の分担額を定めることは可能です。

離婚問題について

Q

相手が働けるのに働いていない場合でも、実際の収入を元に婚姻費用・養育費が算定されますか

A

わざと退職したり収入を減らした場合などでは、従来の収入を元に計算したりすることもあります

婚姻費用・養育費は、基本的には現実の収入を元に計算します。
もっとも、義務者の収入がなく、又は低い場合でも、十分働けるのに、労働意欲がなくて働かない場合やわざと低い収入になっている場合などは、その現実の収入がないことや低いことを理由に婚姻費用等の分担義務を免れるとすることは公平に反する場合があります。
そのような場合は、退職などして収入が下がる前の収入で計算したり、賃金センサスなどによって収入を擬制して計算される場合もあります。
専業主婦も、子どもが小学生程度になっていれば、パートタイムとしての労働は可能として、パートタイム収入相当の収入があるものとして計算されることもあります。

離婚問題について

Q

婚姻費用・養育費を計算する上で何が収入と扱われますか

A

それぞれの性格に応じて判断されます

以下の給付等について、説明します。
(1) 生活保護費
(2) 児童手当・児童扶養手当、高等学校等就学支援金
(3) 子どもの収入
(4) 親の援助
(5) 年金収入
(6) 雇用保険による給付など
(7) 結婚前からあった資産

1 生活保護費
生活保護は、夫婦相互の扶養でなお足りない場合に支給されるものなので、権利者が既に生活保護を受けていても、収入として扱われません。

2 児童手当・児童扶養手当、高等学校等就学支援金
これらの手当は、専ら児童の福祉や高校教育の負担軽減という特別な目的のためであり、家族の生活費とは別個のものとして、収入としては扱われません。

3 子どもの収入
子どもがアルバイトなどにより収入を得ていても、収入として扱うことは基本的にはありません。
もっとも、子どもの収入が相当程度に達していれば、そもそも扶養すべき未成熟子として扱わないことはあり得ます。

4 親の援助
一方が親から援助を受けていても、夫婦間の義務が優先するので、収入として考慮されません。

5 年金収入
年金は収入として扱われます。また、年金収入には職業費がかからないので、基礎収入算定に当たっては修正されることになります(額面が同じでも、通常の収入よりも多いものとして扱われる結果になります。)。
障害年金については、障害者自身の自立や介護への資金援助の面もあるので、全てが収入とは扱われないこともあり得ます。

6 雇用保険による給付など
雇用保険による失業給付や傷病手当などは、本来の収入の代替ともいえるので、収入扱いすることになります。職業費がかからず修正を要する点は年金収入と同様です。

7 結婚前からあった資産
基本的には、生活費は収入からまかなわれるものであり、継続的に資産を取り崩して生活費に充てることはないので、通常は資産を収入として扱うことはありません。もっとも、多額の資産があることが婚姻費用分担額を決める上で一定の考慮がなされることはあり得ます。
また、相当の資産を築いて定年退職するなどして、資産を取り崩して生活しているような事情であれば、資産の取崩しも収入として計算することはあり得ます。
他方で、資産から生じる賃料収入などの収入は、これを収入から除外すべき理由もないので、収入として扱われるのが原則です。
〇東京高裁2020年11月27日決定
80歳以上の年齢である父親(義務者)が、一旦決められた養育費金額について、会社役員を退任し、不動産も売却して不動産賃料収入を失ったことなどを理由に養育費減額を求めた事案。
東京高裁決定は以下のとおり判断して減額を否定した。あくまで減額事由の有無としての判断だが、この考えからすれば資産の取り崩しも収入と扱われることになる。
「相手方は、情報通信関連の会社の取締役などの役職を歴任し、前件審判当時年収2000万円を超える高額な給与収入を得ていたことや、年間800万円を超える不動産収入を得ていた不動産を売却したことから、これまでにかなりの資産を蓄積しているものと推測される。そうすると、高齢となって会社役員を辞任し、給与収入がなくなったとしても、これまでの経歴や地位に照らし、資産を取り崩してある程度従前の生活水準を維持しようとすることが想定される。ところで、未成熟子に対する養育費の支払義務は、いわゆる生活保持義務であり、子の生活水準を親の生活水準と同程度に維持する義務であるから、相手方が資産をどの程度保有し、そこからどの程度生活費として費消しているかを解明しなければ、適切な養育費の金額を決めることは困難である。しかし、相手方は、抗告人から財産開示を求められ、当裁判所からも資料の提出を求められたのに、自己の資産について一部を開示したのみで、全体の資産の開示を拒んでおり、不動産の売却代金の使途なども明らかにしていない。そうすると、相手方の収入の減少だけでは養育費の金額を減額すべき事情の変更と認めるに十分ではなく、相手方の保有資産額や、日常の収支などが明らかにならないと適切な養育費を判断することができないから、本件においては、前件審判によって定められた養育費の金額を減額すべき事情の変更があるとは認められない。」

離婚問題について

Q

住宅ローンの返済などの借金返済は、婚姻費用・養育費を算定する上で収入から控除されますか

A

借金は基本的には考慮されませんが、権利者が住んでいる住居の住宅ローンを支払っている場合は、住居費相当額を負担すべき額から控除するなどの修正がされる場合はあります

一般には、借金の返済があっても考慮されません。通常、借金の返済は、婚姻費用・養育費の分担に優先するものではないからです。
もっとも、住宅ローンの支払は、住居費の支払という側面もあります。そこで、権利者が住居ローン付き住居に住んでいて、義務者が住宅ローンを支払っているようなケースでは、算定表で計算される婚姻費用から住居費相当額を控除するなどの修正がされることはあり得ます。

離婚問題について

Q

子どもが私立学校に通っている場合も、婚姻費用・養育費は算定表通りになりますか

A

算定表は公立学校の教育費を前提にしているので、加算して修正されることはあります。大学に進学している場合も同様です。

1 基本的な考え方
算定表では、教育費については、公立中学校・公立高等学校に関する学校教育費を前提にしています。
そのため、義務者が、もともと私立学校への入学を認めていた場合には、公立学校の学費を超える分を分担することになります。ただし、算定表では教育費は生活費指数として考慮されているため、義務者が高収入の場合には既に公立学校分以上の負担を既にしていることになり、単純に超えた分にならないことはあります。
大学の学費についても、同様です。

2 加算の方法
公立学校学費からの超過分をどう分担するかについては、権利者・義務者の基礎収入の割合で按分する、単純に折半するなどの方法があります。

離婚問題について

Q

預貯金が持ち出されている場合でも、婚姻費用を支払わないといけないのですか

A

預貯金は財産分与の問題として処理されるので、婚姻費用には影響しません。

別居に当たって預貯金が持ち出された場合でも、その清算は財産分与でなされることになります。婚姻費用分担額計算に当たっては原則考慮されません。

〇 福岡高裁2010年6月1日決定
婚姻費用の分担額を定めるに当たって、同居中に蓄積した夫婦の共同財産等を考慮すべきか否かが問題となった事案。
同決定は、「同居中に蓄積した夫婦の共同財産や別居後にX(妻)がY(夫)名義の口座から引き出した金員を婚姻費用分担額の算定において考慮すべき」との主張に対して、夫婦の共同財産は離婚の際の財産分与として清算するのが原則であり、また、XがY名義の口座から引き出した上記金員等について婚姻費用分担の先払いとすることは、扶養義務者において婚姻費用分担義務を免れる一方、扶養権利者が財産分与により取得できる夫婦共同財産の減少を招くことになり、相当ではないから、当事者の継続的な収入のみを基礎として婚姻費用分担金を定めるべきである旨判断した。

〇 東京高裁2011年6月3日決定
婚姻費用分担申立事件において、夫婦共有財産である預貯金等を管理している者から婚姻費用の分担を求めることができるか否かが問題となった事案。
同決定は、婚姻費用を請求するX(妻)が夫婦共有財産を持ち出してもそれは離婚時の財産分与において処理すべき問題であり、Y(夫)が婚姻費用の分担義務を免れることはできないと判断した。

離婚問題について

Q

一旦決まった婚姻費用・養育費の変更は認められますか

A

一定の事情変更があれば増額・減額は認められます。ただし、当初、婚姻費用・養育費を決めた時点で予期されていた事情変更だと、増額・減額が認められないこともあります。

1 事情変更による金額変更の一般的基準
一般には、婚姻費用・養育費について、合意・決定の前提となっていた客観的事情に変更が生じ、その事情変更を当事者が予見できず、元の金額を維持することが公平に反するような場合は増減が認められる、と説明されます。
もっとも、事情変更は様々なケースがあるので、一概には言えません。

2 収入の減少
収入の減少といっても、時間外手当の減少など一定の幅があることは避けられないので、予期しない程度の変動であることが必要となります。
また、義務者が意図的に収入を減らしたと認められる場合(辞める必要もないのに仕事を辞めたなど)だと、そのような収入減少をもって減額理由とは認められないこともあります。

3 子どもが成人になった場合の婚姻費用
子どもが成人になれば、婚姻費用のうち当該子どもの生活費分は扶養義務がなくなるので、事情変更と言えるでしょう。

4 義務者の再婚、子どもの出生
(1) 離婚から次の再婚等まで期間が短い場合
養育費を決めて離婚して間がなく、義務者が再婚し、更に子どもをもうけたというケースは、その時期によっては事情変更と認められないこともあります。
というのも、そういうケースでは、義務者は次の再婚を既に予期していたと言え、その前提で養育費を決めた又は決定されたと扱われても仕方ないからです。
他方で、後記(2)のとおり、一定期間経過後の再婚であれば事情変動が認められることとの均衡から、離婚から間がない再婚であっても、一定期間経過した後なら減額事由と認められることもあります。
(2) 離婚から再婚まで一定期間がある場合
一定期間が空いてから、再婚し、更に子どももできたといったケースでは、これを具体的に予期できたとはいえません。
そのため、概ね2年以上を経過して再婚等になっているケースでは事情変動が認められているようです。

離婚問題について

Q

一旦合意した婚姻費用・養育費が高すぎる/安すぎるので、変更できませんか

A

変更できないのが原則と言えますが、不相当の程度によっては変更が認められることもあります。

本来、算定表はあくまで裁判所が婚姻費用・養育費を定める場合の基準として作成されたものであり、絶対的なものではありません。法律上も、養育費はまず「協議」で定めるものとされ、協議で定めらないときに家庭裁判所が定めるとされています(民法766条1項2項)。
したがって、単に合意した婚姻費用・養育費が高すぎる/安すぎるというだけで変更できる理由にはならないのが原則です。
もっとも、合意に至る事情のほか、合意後の期間その間履行に努力したかどうかなどの事情を考慮して変更を認めた例もあります。

離婚問題について

Q

子どもが15歳になった場合や、定年退職で減収になった場合はあらかじめ予見できた事情ですが、婚姻費用/養育費の増額・減額理由になりますか

A

原則として認められると考えられます。あらかじめ予見できたといっても、元の合意を維持するのが不相当になったのが明らかだからです。

「一旦決まった婚姻費用・養育費の変更は認められますか。」で述べたように婚姻費用・養育費の増減理由には「その事情変更を当事者が予見できなかったこと」も要件であると言われます。
もっとも、その要件を機械的にあてはめれば子どもが15歳になったとか定年退職による収入減はあらかじめ予見できたと言えなくもありません。しかし、そのような理由で増額・減額を認めると客観的事実に照らして婚姻費用/養育費額が不相当になった場合まで変更が認められなくなります。そのため、裁判例でも、「予見できたかどうか」は必ずしも重視されず増減理由と認められています。その意味で「予見できたかどうか」は必ずしも必須の要件とは言えず、事情変更があっても変更すべきでない場合に増減を否定するための理由とされている面があるようにも見受けられます。

〇 東京高裁2021年3月5日決定
子どもが11歳の時点で調停で決められた養育費について、15歳になってから増額を申し立てたケース。裁判所は、「当事者双方において子が15歳に達した後も養育費を増額させないことを前提として養育費の金額について合意した等の特段の事情が認められない限り,子が15歳に達したことは原則として養育費を増額すべき事情の変更に該当する」と判断し、増額を認めた。
〇 東京高裁2019年12月19日決定
2018年3月に調停で定めた婚姻費用について、義務者が同年6月に勤務していた会社の役員を退任し、2019年3月末で退職したことを婚姻費用減額理由と認め、年金収入を元にした婚姻費用額に変更した。

離婚問題について

Q

一旦合意した婚姻費用/養育費が変更される場合は、変更後の金額は算定表に基づいて計算されますか

A

元々の婚姻費用/養育費が算定表より高く/安く定められている場合、その格差が維持されることもあります。

当事者で婚姻費用・養育費を算定表より高く/安く合意する取り決めも有効なので、事情変動により変更が認められても、「算定表より高く/安くする」という元の取り決めの効力まで失われる理由はありません。
裁判例でも、事情変動により減額が認められた場合も、算定表より高く定めたことの効力は引き継がれています。
〇 札幌高裁2018年1月30日決定
公正証書で取り決められた養育費について、義務者が再婚し再婚相手との間に子どもができたことを理由に減額を求めた事件。
公正証書作成当時の収入を元にすれば取り決めらされた養育費は算定表より2万4718円高かったという事実関係で、裁判所は「当事者双方が同合意に際し、標準的算定方式による試算をしたことを認めるに足りる資料はないが、上記のとおり、客観的に見て標準的算定方式による試算額を大きく上回る養育費の合意をしていることからすると、同合意における当事者の意思としては、標準算定方式による試算額を上回る場合であっても、その試算額に差額分(本件では2万4718円)を加算する趣旨であったと解するのが合理的である」と判断し、事情変動後の収入等で計算した算定表に基づく養育費相当額に、上記加算額を再婚相手との子どもと按分して加算して変更後の養育費額を定めた。
〇 東京高裁2016年7月8日決定
公正証書で取り決められた養育費について、義務者が再婚し再婚相手との間に子どもができたことを理由に減額を求めた事件。
公正証書作成当時の収入を元にすれば取り決めらされた養育費は算定表より5万5000円高かったという事実関係で、裁判所は「本件公正証書における養育費の合意額は客観的に見て標準算定方式により算定される額に月額5万5000円を加えた額であったことを認めることができ,現在における養育費の額の算定においてもこの合意の趣旨を反映させるべきである」と判断し、事情変動後の収入等で計算した算定表に基づく養育費相当額に、上記加算額を再婚相手との子どもと按分して加算して変更後の養育費額を定めた。

離婚問題について

Q

婚姻費用・養育費の増額・減額理由がある場合、どの時点から増額・減額が認められますか。

A

調停申立てなどの形で明確に増額・減額を請求した時点から増額・減額が認められるとの考えが一般的ですが、事案によっては別個の扱いもあります。

「婚姻費用・養育費はいつから請求できますか」で述べたとおり、婚姻費用・養育費の分担は明確に請求された時点以降となるのが一般的です。増額・減額でも、同様に、増額・減額が明確に請求された時点以降について増額・減額が認められることが多いです。

ただし、権利者の子が養子縁組したケースでは、義務者にとっては養子縁組という減額理由が生じた事実を知らない一方で権利者は知っていることになります。そのため、このようなケースでは養子縁組時点などに遡って減額が認められる可能性もあります。
もっとも、いくつかの高裁決定を見ると、離婚後、養育費の支払を継続していたケースでは、養子縁組時点からの免除・減額を認めると権利者から義務者への返還額が多額になることを理由に調停申立時からの減額にとどめています(①③)。その一方、養育費を支払っていなかったケースでは養子縁組時点からの免除を認め(②)、途中から支払いが打ち切られたケースでは打ち切られた時点からの免除を(その時点で免除の意思が表明されたものと扱って)認めています(④)。
いずれも、免除を遡って認めることで支払われた養育費の返還義務が多額になることをなるべく回避しようとしているように思われます。

① 東京高裁2020年3月4日決定
離婚後に権利者の子が養子縁組した事案で、原審判は養子縁組時点からの養育費免除を認めたのに対し、上記決定は、養子縁組時からの免除を認めるとその後支払われた養育費が720万円以上になり多額の返還義務を生じさせることや、権利者も義務者の再婚を知っており養子縁組の可能性を認識できたことなどを理由に、調停申立時からの免除に変更した。

② 東京高裁2018年3月19日決定
離婚し養育費を取り決めたにもかかわらず義務者は一切養育費を支払っておらず、その後、権利者の子が養子縁組をしたことを理由として減額(免除)の調停が申し立てられたという事案。
上記決定は、以下のとおり判示して、養子縁組時点からの免除を認めた。
「本件養子縁組によってCが長男及び長女の扶養を引き受けたとの事情の変更は、本件養子縁組という専ら抗告人側に生じた事由であるし、収入の増減の変更があった場合等と異なり、本件養育費条項を定めたときに基礎とした事情から養育費支払義務の有無に大きな影響を及ぼす変更があったことが抗告人にとって一見して明らかといえるのであって、抗告人において、本件養子縁組以降、実父から養育費の支払を受けられない事態を想定することは十分可能であったというべきである。
他方、相手方とすれば、本件養子縁組の事実を知らなかった平成19年頃までに、本件養子縁組がされたことを変更の事由とする養育費減額の調停や審判の申立てをすることは現実的には不可能であったから、相手方に対して本件養子縁組の日から本件養子縁組がされたことを知った日までの養育費の支払義務を負わせることは、そもそも相当ではない。また、それ以後についても、相手方において、本件養子縁組により、もはや本件養育費条項に基づく養育費の支払義務はなくなったと考えたのであるから、本件養育費条項を養育費の支払義務がないと変更するように求める養育費減額の調停や審判の申立てをして、支払義務がないことを明らかにすることが望ましかったというべきであるが、これをしなかったとしても、前記のとおり、抗告人は本件養子縁組によりCが長男及び長女の扶養を引き受けたことを認識していたことに照らすと、このような相手方の不作為が、抗告人との関係において、相手方の養育費支払義務が変更事由発生時に遡って消失することを制限すべき程に不当であるとはいえない。
そうすると、相手方が、抗告人との協議離婚以降、本件養子縁組がされる以前、全く養育費を支払っておらず、そのこと自体は問題であるというべきであるとしても、当事者間の公平の観点に照らし、相手方の抗告人に対する養育費の支払義務がないものと変更する始期を事情変更時に遡及させることを制限すべき事情があるとはいえない。」

③ 福岡高裁2017年9月20日決定
離婚し、権利者の子の養子縁組がなされてから約1年後に減額調停が申し立てられた事案。
家裁審判では、「子らがEと養子縁組をしたのは、平成27年●●月●●日であるが、その時点から減額することとなると、前記の基礎収入額にとどまる相手方世帯にとって既払分の返還額が大きくなり過ぎて相当でないから、減額の始期は、本件の調停が申し立てられた平成28年●●月●●日の後である同年●●月●●日とするのが相当である。」と判断して調停申立時(翌月)からの減額とした。上記高裁決定でも、特別の理由は示さずに調停申立ての翌月からの減額とした。

④ 東京高裁2016年12月6日決定
離婚に際して公正証書で養育費を取り決め、権利者の子の養子縁組が平成26年5月になされ、平成28年3月に養育費減額(免除)の調停が申し立てられた事案であり、義務者は平成27年4月以降は養育費を支払っていないという事実関係。
上記高裁決定は、以下のとおり判示して、支払を打ち切った時点からの免除を認めた。
「抗告人が相手方に対して支払うべき未成年者らの養育費を零に減額すべき始期について検討すると、かかる点についての判断は、家事審判事件における裁判所の合理的な裁量に委ねられているところ、累積した過去分を一度に請求される危険(養育費請求又は増額請求の場合)や既に支払われて費消した過去分の返還を求められる危険(養育費減額請求の場合)と明確性の観点から、原則として、養育費の請求、増額請求又は減額請求を行う者がその相手に対してその旨の意思を表明した時とするのが相当である……。
本件では、相手方が再婚したことに伴って未成年者らが相手方の夫と養子縁組をしたのは平成26年5月●●日であるところ、前記認定のとおり、抗告人は、同年7月頃には、かかる事実を知りながら養育費の支払を継続しているものの、同年11月●●日付け準備書面において、同年5月●●日付けの上記養子縁組以降は本来抗告人に養育費の支払義務がない旨の主張をしており、平成27年4月には、その支払を打ち切っていることが認められ、抗告人は、相手方に対し、その後、養育費の支払をしていないことに照らすと、同月には養育費の額を零とすることを求める抗告人の意思が明確に示されたものというべきであり、抗告人は、相手方に対し、遅くとも同月には、養育費の額を零とすることを黙示的に申し入れたと認めることができる。
したがって、本件においては、同月から抗告人が相手方に対して支払うべき未成年者らの養育費を零(支払義務の免除)に減額するのが相当である。」

離婚問題について

Q

子どもを監護していない夫(別居中)が児童手当を受け取っている場合、その児童手当を返してもらえないですか

A

児童手当は子どもと同居している親が受け取ることになるので、別居している親が受け取った場合は返還請求できます。

児童手当は子どもを「監護し、かつ、これと生計を同じくする」親に受け取る資格があります(児童手当法4条1項1号)。
一般には、別居している親は「監護」しているとは言い難いので、受け取る資格はありません。
また、仮に別居親が婚姻費用を分担していることで「監護し、かつ、これと生計を同じくする」と見る余地があるとしても、同居している親がいる場合には同居親が受け取る資格があります(児童手当法4条4項)。
したがって、別居親は法律上の根拠なく児童手当を受け取っていることになるので、同居親から別居親に対して、不当利得返還請求をできます。
請求方法としては、本来的には、訴訟を起こすことになります。もっとも、婚姻費用分担審判において、別居親が受け取った児童手当分を本来の婚姻費用額に加えて支払を命じることで実質的に返還を命じた例もあります。

〇 東京地裁2018年11月19日判決
妻から、別居中の夫に対し、夫が受給していた児童手当の返還等を請求した事件で、以下の通り判断して請求を認めた。
「児童手当の受給要件については,父母が児童と同居している場合は,当該児童の生計を維持する程度の高い者によって監護され,かつ生計を同じくするものとみなされるとしても,父母が別居している場合には,当該児童と同居している父又は母によって監護され,かつ生計を同じくするものとみなされるから(児童手当法4条),別居親が受給した別居期間を対象とする児童手当については,別居親が同居親との関係で法律上の原因なく利得しているとみて,別居親から同居親に支払われるべきである。原告は,平成28年2月22日から被告と別居して長男を監護養育しており,被告が受給した同月分及び翌3月分の児童手当合計3万円(本件児童手当金)のうち平成28年3月分の1万5000円については,被告が原告との関係で法律上の原因なく利得しているとして,被告から原告に支払われるべきであり,これに反する被告の主張は採用しない。」

〇 東京地裁2017年11月6日判決
元妻が元夫に対して、元夫が別居後も受け取っていた児童手当の返還等を請求した事件で、以下の通り判断して請求を認めた。
「児童手当の受給資格者は,『児童を監護し,かつ,これと生計を同じくする父又は母』であるところ(児童手当法4条1項1号),被告は,平成23年3月7日に原告が子らを連れて本件マンションを出た後,子らとの交流もなかったものであり(甲21,乙16,原告本人,被告本人),子らの生活について通常必要とされる監督と保護を行っていたとは認められず,子らを『監護』していたとはいえない。
そうすると,被告は,子らを監護していたとは認められない同月8日以降の分の児童手当に関しては,その受給資格を有していなかったものと認められ,同日以降,子らを監護し,かつ,子らと生計を同じくしていたと認められる(甲21,乙16,原告本人,被告本人)原告との関係において,上記児童手当相当額を不当に利得したというべきである。他方,同日より前の分の児童手当に関しては,受給資格を欠くものとは認められない。」

〇 福岡高裁2018年7月19日決定
別居中の妻から夫に対して婚姻費用の分担を求めた事案において、別居してから夫が受領していた児童手当を妻に交付していなかったことについて、児童手当は子育て支援のために支給されるものであり、夫が本来負担すべき婚姻費用とは別に子の監護者に支給され、子育て支援に充てられるべきものであるとして、夫が受領していた児童手当分を加算して支払を命じた。

離婚問題について

Q

支払が不安なので、養育費を一括払いしてもらうことはできませんか。保証人を付けさせることはできませんか。

A

当事者が合意しない限り、できません。一括払いの場合には、課税されるリスクもあります。

養育費は、子どものための生活費であり、必要な都度発生するものです。前払いというのは養育費の性質にそぐわず、裁判所が決める場合には、毎月払いとなるのが確実です。
また、仮に当事者間で合意して一括払いをしてもらっても、贈与として扱われ、課税されるリスクもあります。
保証人については、保証人となる人が承諾しない限りは付けられません。

離婚問題について

Q

婚姻費用・養育費の金額を決めるのとは別に「子どもの学費を負担する」という合意をしましたが、学費の金額は取り決めていません。この合意に基づいて学費を請求できますか。

A

合意内容としていかなる費用を負担するのか明確であれば、請求できます。

1 取り決めの有効性
婚姻費用・養育費の金額を当事者の合意で取り決めることは多々行われており、算定表どおりに合意しないといけないこともないし、決まった金額で取り決めないといけない理由もありません。
一定の費目・負担割合等を取り決める合意内容も当事者の合意であれば有効であり、その合意に従って請求できます。

2 請求方法
もっとも、このような合意だと請求できる金額が合意内容(合意した書面・調停調書等)からは一義的に定まらないので、公正証書や調停・訴訟上の和解で合意していても、改めて訴訟を起こす必要があります。
また、費目を明確にしておかないと、子どもにかかるいかなる費用までが負担の範囲になるのか等をめぐって再度争いになることもあります。合意に至る経緯等にも左右されますが、「学校等の受験,入学,進学,留学のための費用」という取り決めで授業料の分担まで認めた例(文言から広げたといえる例)もあれば、文言通りに限定した例もあり、予測が困難になる面もあります。合意条項をよく考える必要があります。

〇 東京地裁2019年9月4日判決
訴訟上の和解で、養育費の支払金額とは別個に、「被告と原告は,長男に要する学校等の受験,入学,進学,留学のための費用は,2分の1ずつ負担することとし,被告は,これを,原告から上記費用の負担の請求及び同費用の資料の送付を受けた日から1か月以内に第3項記載の口座に振り込む方法により支払うこととする。」という取り決めをして離婚した事案。
離婚後、この合意条項の解釈をめぐって争われた裁判では、この条項の文言が「『学校等の』という限定のないものとなっており,小学校に係る費用をも対象とするものと解し得る規定ぶりであった上,『受験,入学』とは別に挙げられている『進学』に入学金等の一時金のみならず在学中の授業料等をも含めて解釈したとしても,特段不合理ではないとの文言解釈についての判断を示したほか,長男の両親である原告と被告の職種や収入にも鑑みると,被告において,本件和解に当たって,第6項において長男が本件小学校を含む私立小学校に入学した場合の授業料等をも対象とするものであることを黙示に同意したものと評価するのが相当である旨の理由を述べつつ,本件和解の第6項は,本件小学校の授業料等も対象とするものであるとの判断を示した」判決が確定していた。
そこで、上記判決も、前判決を踏襲して小学校の授業料等の分担の請求を認めた。

〇 東京地裁2017年12月8日判決
訴訟上の和解で離婚し、養育費の支払金額とは別個に、「被告は,原告に対し,長男Aが大学に進学した場合には,大学の入学金及び授業料の半額を支払う。ただし,原告は長男Aの進学先等を決める際には,被告に事前に協議するものとし,原告がこの協議を怠った場合には,前文の限りではない。」と取り決めがされていた事案。
上記判決は、合意に基づく請求を認めつつ、以下のとおり判断して、納付された「施設設備費」「学生傷害共済補償費」「父母会」「同窓会費」の分については請求を認めなかった。
「一般に,我が国の大学においては,『入学金』や『授業料』のほか種々の名目で金員の納付が求められることが多いことは公知の事実であり,かつ,子が将来大学に進学したときに備えてその学費等に関する養育費の分担を協議するに当たっては,上記のような実情を踏まえて,名目の如何を問わず子が進学した大学に納付しなければならない金員につき分担することを意図する場合には文言上もそれが明らかになるような条項とすることも容易であるのに,本件和解条項においては『入学金及び授業料』とだけ記載されていることに鑑みれば,原告の内心はともかくとして,少なくとも被告との間で意思が合致し,協議が調ったのは『入学金』と『授業料』の半額という範囲であると解さざるを得ない。」

〇 東京地裁2014年5月29日判決
協議離婚に当たって当事者が合意した合意書において、毎月の養育費の金額の取り決めとは別に、以下の合意内容があった事案。
「長女Aにかかる特別の費用として,次のとおり支払う。
(ア) 学費(入学費,授業料,施設費その他名目の如何を問わず就学先に対する納付義務を負うもの)実額
ただし,大学については,初年度180万円,2年目以降160万円を上限とし,これを上回る場合には,上回る部分について別途協議する。大学院については,別途協議する。
(イ) 受験料 実額
ただし,8校分を上限とし,これを上回る場合には,上回る部分について別途協議する。
(ウ) 塾代 実額
ただし,年額60万円を上限とし,これを上回る部分がある場合には,別途協議する。
(エ) 制服代 実額
(オ) 留学費用 別途協議する。
(カ) 歯科矯正費用 別途協議する。
(キ) 傷病時の入院・治療関係費 実額」
上記判決もこの合意を有効と認めて合意に基づく請求を認めた。

〇 東京地裁2011年11月25日判決
婚姻費用分担調停で婚姻費用額とは別に以下の条項で調停が成立した後、離婚訴訟の判決で離婚した事案。
「当事者間の長男A(昭和62年○月○日生)の学校から請求される授業料等学校関係費用並びにアトピー治療のために必要な病院の費用及び通院のために必要な同長男の往復の交通費(宿泊が必要な場合は宿泊費を含む。)は相手方が負担する。」

上記判決は以下のとおり判示して、上記調停条項は離婚後も有効であると判断した。
「本件調停の調停条項をみると,1項においては,『相手方は,申立人に対し,別居期間中の婚姻費用の分担として,平成14年3月から双方が別居解消又は離婚に至るまでの間,1か月金15万円ずつを毎月末日限り,・・・支払う。』とされており,婚姻が継続している間の費用についての合意であることが文言上示されているが,本件調停条項を含む2項においては,上記のような期間を限定する趣旨の文言は入れられていない(甲3)。また,本件調停条項に規定された合意内容に鑑みても,その合意が,婚姻期間中に限り有効と解さなければならないものであるということはできない。
以上によれば,本件調停の調停調書は,少なくとも本件調停条項を含む2項については,原告と被告との離婚により効力が消滅したということはできない。」

その上で、請求された費用のうち、予備校費用については調停条項に基づく請求を認め、他方で、大学で購入した書籍については請求できる範囲から除外した。
「文言上は,一般的にいえば予備校も一種の『学校』であるといって差し支えない上,実質的にみても,予備校に通うことは,大学を受験する者にとってごく一般的な行為であり,多くの者にとってそれが必要であるともいえることからすると,その費用が「学校関係費用」に含まれないと解することは,本件調停成立時の当事者の合理的意思及び一般の社会通念に反する結果となるというべきである。」
「別紙『教科書等購入一覧』記載の各項目についてであるが,それぞれ領収書等が証拠として提出されているものの,そこで購入された書籍等が大学から求められて購入したものであると認めるに足りる証拠はなく,その購入費用が『学校から請求される』『学校関係費用』に当たると認定することは困難といわざるを得ない(なお,授業料が学校から請求されるものであることは余りにも当然であるから,『学校から請求される』との文言が『授業料』に係るものであると解することはできない。)。」

〇 東京地裁2007年3月2日判決
離婚調停で、子どもらの養育費の金額の取り決めと別に、以下の取り決めがされた事案。
「被告は、同人ら〔子どもら〕の入学金、授業料、修学旅行などの課外活動費等の学費(ただし、所属学校に対して直接支払うべき金員)及び入学諸雑費、部活の合宿費を別途負担する。
また、被告は、長女が塾に通った場合にはその費用(高校1年から3年までの間)を月額2万円を限度として負担する。
月額5万円以上の医療費の負担については、被告は別途協議に応じる。」

上記判決は上記合意に基づく請求を認め、また、負担する範囲(私立学校学費も含むか、部活費用も含むか)について以下のとおり判断した。
「前記認定によれば、離婚調停成立時、長女と二男は私立学校に在学していたこと、長女は私立学校への進学を予定していたこと、長女と二男が在籍していた私立学校はいわゆる一貫校であること、被告と長男も小学校から大学まで私立の一貫校に通ったこと、長女と二男が在学していた私立学校を退学することが相当な特別な事情はなかったこと、被告は離婚調停成立後の平成14年1月になって私立学校を退学することを求めたこと等が認められる。
これらの事実によると、調停条項2(1)の学費等については、私立学校の学費等を含むと解することが相当である。なお、同項中の『部活』について、大学の同好会を除く合理的な理由が認められないから、これを含むと解すべきである。」

〇 東京地裁2006年10月30日判決
離婚に際して、公正証書で養育費の金額とは別に以下の取り決めがなされた事案。
「第4条 甲は,前条の養育費とは別に,丙及び丁の学費(丙については,短期大学を卒業するまでの授業料その他の学費,丁については,高校,大学又は専門学校を卒業するまでの授業料,入学金,寄付金等の諸費用及び制服代等)を負担するものとし,その支出をする必要が生じた都度これを乙の指定する方法によって乙に支払う。」

上記判決は公正証書の取り決めに基づく請求を認め、負担する範囲として以下のとおり判断した。
「本件公正証書の記載によれば,本件合意によって被告が負担することを約したものは,『学費(高校,大学又は専門学校を卒業するまでの授業料,入学金,寄付金等の諸費用及び制服代等)』というのであり,その文言からみて,学校で授業を受け,単位を取って卒業するために通常必要な費用を包括的に含むものと解され,特段の限定があるものとみることはできない。……被告指摘の『特別授業料』は,単位をとるために必要な費用であったことが認められるところであり,本件合意にいう学費に含まれると解され,その範囲外であると解することはできない。また,被告は,『送金手数料,教材費』も本件合意による負担約束の範囲外であると主張するが,送金手数料は,授業料等を納めるために要したものであって,授業料の支払について振込の方法が使われることは通常のことであるから,これを範囲外とすることはできないし,上記『教材費』も,対応する前掲各証拠……によれば,B1が通学していた美術専門学校における学業に通常必要な範囲内のものと認めることができ,これらが本件合意による負担約束の範囲外であると解することはできない。」
「さらに,被告は,B1が美術専門学校卒業後,入学した東京都菓子学園に関する費用につき,本件合意の範囲外であると主張するが,本件合意の内容は前記のとおりであって,被告は,B1が『大学』に入った場合には,その『学費』を負担する旨約束したものと解されるところであるから,少なくとも大学の通常の在学期間である4年間の学資までは約束した負担に含まれると解される。……B1は,平成15年度から3年間美術専門学校に通っていたものであるが,同校卒業後,同校で学んだことを生かしつつ将来の職業のため,平成18年度から1年間の予定で,卒業試験に合格すれば東京都知事からパン・菓子製造科技能士補の資格を授与される職業訓練校である東京都菓子学園に入学したことが認められ,上記入学の動機,経緯及び期間も計4年間と大学の通常の在学期間と同じであることに鑑みると,本件合意の範囲内と認めるのが相当であり,これを本件合意の範囲外と解することはできない。被告は,B1が,御茶の水美術専門学校に入学し,卒業後,更に東京都菓子学園に入学することは,本件合意当時予定した範囲を越えるかのように主張するが,本件合意当時である平成12年6月には,昭和59年○○月○○日生のB1は,15歳だったのであり,その後の進学予定が確定的でなかったことは当然であり,それゆえ本件合意において『高校,大学又は専門学校を卒業するまでの』学資と表現されたものと解され,この段階で,3年間の専門学校進学が確定していたのではないことは本件合意の文言からも明らかであるというべく,少なくとも4年間の学資は,予定された範囲内と認めるのが相当であり,この判断を覆すに足りる特段の事情を認めるに足りる証拠はない。」

〇 広島地裁1993年8月27日判決
離婚調停において一定額の養育費の取り決めのほかに、「現に通学中の学校及び将来進学する学校の授業料、教科書代、教材費、通学のための交通費、受験費、入学費その他一切の教育に関する費用を、その必要を生じた都度支払う」との取り決めをした事案。
上記判決は、この取り決めについて以下のとおり判断して、該当する費用について請求を認めた。
「『一切の教育に関する費用』には、教育に直接必要な費用のみならず、子らの教育に間接的に必要な費用も含まれるものと解すべきである。したがって、本件調停条項にいう「一切の教育に関する費用」とは、例示された『授業料、教科書代、教材費、通学のための交通費、受験費、入学費』以外の学校に支払うべき費用(クラブ活動も学校教育の一環であるから、その費用はこれに含まれる。)のみならず、学校教育を受ける際に必要な学用品や制服などの購入費用、学校教育を補完し進学準備のために一般に必要とされる塾や予備校の費用などを意味するものと解される。
他方、本件調停条項の他に養育費に関する条項が設けられていることに照らすと、給食費は、通常の食費の一部として、養育費によってまかなわれるべきである。また、子らが個人的興味に基づいて行う活動に要する費用は、本件調停条項が予定する費用に該当しないものとみられる。」

離婚問題について

Q

年金分割とは、どのような制度ですか

A

姻期間中の年金の保険料納付記録を、最大2分の1まで一方から他方に分割することで、将来に受領する厚生年金を均衡になるようにする制度です。

離婚時の年金分割制度には、「合意分割」と「第3号分割」があります。
1 合意分割
合意分割は、離婚する夫婦の一方又は双方が婚姻中に厚生年金に加入していた場合に、請求期限以内に合意又は裁判手続きで按分割合を定めて年金事務所に請求することで、婚姻期間に対応する標準報酬額の多かった方の保険料納付記録の最大2分1までを、少なかった又はなかった方の当事者に分割する制度です。
ここでいう保険料納付記録というのは、これまで支払ってきた厚生年金保険料の算定の基礎となった標準報酬額(給与・賞与を元にした金額)のことをいいます。支給される年金額は、受給権が発生するまでの間の標準報酬額を基礎として計算されます。

2 第3号分割制度
2008年4月1日以降の婚姻中に、第3号被保険者(会社員や公務員など、勤務している第2号被保険者に扶養されている配偶者)であった期間がある場合に、第3号被保険者が、請求期限内に年金事務所に請求することで、第3号被保険者の期間に対応する厚生年金に加入していた当事者の保険料納付記録の2分の1が、第3号被保険者であった当事者に分割される制度です。
第3号分割制度では、当事者の合意もなにも必要なく、第3号被保険者であった者だけで手続可能です。
婚姻期間のうち、合意分割の対象となる期間と第3号分割の対象となる期間の両方がある場合には、合意分割の手続さえとれば、第3号分割の対象となる期間分も2分の1に分割されるので、別途第3号分割の手続をする必要はありません。

3 有利・不利
以上から、おおむね以下の通りに整理できます。
① 2008年4月1日以降に婚姻して婚姻期間中ずっと被扶養配偶者だった場合は、合意分割でも3号分割でも同じなので、自分だけで手続きできる3号分割をすればいい。
② 2008年3月31日以前に婚姻して、収入が少なかった側は、合意分割をする方がいい。
③ 3号分割の方が有利なケースは例外的

離婚問題について

Q

内縁関係にあった場合でも年金分割の請求ができますか

A

可能ですが、被扶養配偶者として第3号被保険者であった場合に限られます。

内縁の場合は、一方が被扶養配偶者として第3号被保険者であった場合に、その第3号被保険者であった期間についてのみ年金分割が可能です(厚生根金保険法78条の2第1項、同法施行規則78条の2第1項3号)。
したがって、届出をした婚姻の場合と比べて、分割を求める側にとっては相当不利益になることがあり得ます。

離婚問題について

Q

財産分与と同様に、年金分割も同居期間中だけを対象とすることはできないのですか

A

法令で婚姻期間中と明記されているので、できません。

年金分割(合意分割)の対象となる期間は、「婚姻が成立した日から離婚が成立した日までの期間」と明記されています(厚生年金保険法78条の2、同法施行規則78条の2第1項1号)。
合意分割であっても、裁判所が決めることができるのは分割する割合だけであって、期間は裁判所が決める対象になりません。
したがって、この点を裁判で争っても別の結論になることは考えられません。

離婚問題について

Q

合意分割の按分割合は、どのように決まりますか

A

裁判所が決める場合は、極めて例外的なケースを除いて半々に分割されます。

合意分割では、「按分割合」を決めて分割することになります。
「按分割合」とは、単純化して言えば、夫婦合計の標準報酬額に対する、分割を請求する側の標準報酬額の割合です。つまり、これが0.5なら、双方の婚姻期間中の保険料納付記録は完全に半々に分けられることになります。

この按分割合は、法律上は、「当該対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情を考慮して」定めることになっています。
しかし、この按分割合は、裁判所が決める場合は、極めて例外的なケースを除いて、0.5になります。

たとえば、「厚生年金保険・国民年金事業年報」(厚生労働省)によれば、2016年度に年金分割された事例のうち、按分割合が50%だったものが97%、0.4~0.5が1.7%、0.3~0.4が0.9%、0.2~0.3が0.3%となっています。
これは当事者が合意して分割したものも含んでいるので0.5未満の分割も若干見られますが、そうであっても0.5(半々)が圧倒的多数だということが分かります。

2020年度司法統計年報家事事件編第37表では、年金分割申立事件のうち、審判では按分割合を0.5としたものが99.37%です(1591件中1581件)。わずかな例外の理由は不明ですが、よほど特殊なケースか、あるいは、実質は当事者間に0.5未満とする合意がある場合の合意に相当する審判が含まれている可能性もあります。

離婚問題について

Q

離婚に当たり、「当事者間に何らの債権債務を有しないことを確認する。」という合意をしましたが、年金分割も請求できなくなりますか

A

あくまで当事者の間で金銭請求できないことを合意しただけなので、年金分割請求は可能だと考えられています。

調停で離婚する場合などには、「当事者間に何らの債権債務を有しないことを確認する。」といった条項で合意をすることが通例です。
しかし、年金分割の請求は、離婚した当事者の間で金銭請求をするものではない(法律用語でいえば、公法上の請求権である)ことから、このような合意をした場合でも年金分割請求はできると考えられています。

離婚問題について

Q

離婚に当たり、「年金分割請求をしない」という合意をした場合、この合意は有効ですか

A

有効と考えられており、そのように判断した審判例もあります。

合意分割では、按分割合は合意で決めることができることから、このような合意も有効と考えられています。
もっとも、第3号分割については、年金分割割合は0.5と定まっており(合意で左右する余地がない)、公法上の請求権の行使を直接制約する合意はできないことから、このような合意をしても年金分割を阻止できません。

離婚問題について

Q

離婚した後に年金分割の請求をする場合、期限はありますか

A

2年以内に請求をしないといけません。2年以内に家庭裁判所に年金分割の申立てをすれば、2年経過後でも請求できますが、この場合、年金分割を認める調停成立等の後1か月以内に年金事務所に請求しないといけません。

原則として、年金分割の請求(年金事務所への申請)は、離婚してから2年以内となります。
ただし、2年経過前に家庭裁判所に年金分割の申立てをするなどしていた場合で、2年経過後に調停が成立したり、審判・判決の確定になった場合は、その日から1か月以内なら請求ができます。

離婚問題について

Q

離婚した後に年金分割請求をしようと思っていたら、元配偶者が死亡しました。この場合に年金分割は可能ですか。

A

合意分割はできないケースが多いです。第3号分割は可能ですが、すぐにしないといけません。

1 死亡した場合の扱い
一般に、当事者が死亡した場合には死亡した者の標準報酬は存在しないことになり、年金受給権は年金を受ける者だけの権利で相続の対象にもならないので、年金分割は原則としてできなくなります。
以下のとおり一定の例外はありますが、合意分割では要件を充たすケースは稀ですし、第3号分割でも期限が厳しくなっています。
2 合意分割の場合
合意分割の場合には、按分割合について合意している公正証書等が存在するか、あるいは、裁判所の手続で按分割合が確定しているなら、それを裏づける調書等を添付して合意分割の手続が可能です。ただし、これも死亡した日から1か月以内に請求をしないといけません。(厚生年金法施行令第3条の12の7)
逆に言えば、按分割合を定める手続きをしていない時点で相手方が死亡していたら、年金分割の余地がなくなります。
3 第3号分割の場合
第3号分割については、死亡した日から1か月以内に請求すれば、手続は可能です。(厚生年金法施行令第3条の12の14)

以上のとおり、離婚した後に年金分割請求をしようと思っていたら、離婚後に元配偶者が死亡してしまったというケースでは、年金分割できる余地が大幅に狭まります。離婚前に死亡したなら遺族年金を受給できるのと対比しても問題がありますが、以上の法制度を前提にするなら、離婚と年金分割はセットで行うように注意した方がいいでしょう。

離婚問題について

Q

離婚をする場合の届出はどのようにしたらいいですか。二人で届出をしないといけませんか。

A

協議離婚であろうと裁判所の手続による離婚であろうと、届出に行くのは一人で可能です。

 

1 協議離婚の場合
協議離婚の場合は、離婚届に必要事項を記入し、夫婦が署名したものを届け出ることになります。離婚届は、役所・役場に備え付けられているものを使う必要はなく、インターネットでダウンロードをしたものを使用しても必要事項が記載されていれば受け付けられます。
届出先は、(1)夫婦の本籍地の役所・役場か、(2)届け出る人の住所地の役所・役場になります。
窓口に行って届け出る人に対しては本人確認がされるので(戸籍法27条の2第1項)、免許証などの身分証明書を持参する必要があります。
本籍地の役所・役場に届け出る場合は他に必要書類はありませんが、それ以外の場所で届け出る場合には戸籍謄本も必要になります。
届出自体はどちらか一人だけで行うことも可能です。その場合、窓口に行かなかった方には離婚届が受理されたという通知が送られます。

2 裁判所の手続による離婚の場合
裁判所の手続で離婚できた場合(調停離婚、審判離婚、裁判上の和解による離婚、判決による離婚)、調停・和解の成立や審判・判決の確定で離婚したことになります。その場合でも、離婚した事実を戸籍に反映させるために届出をすることになります。
この届出にも離婚届の用紙は使いますが、一方のみが署名したもので行うことができます。
届出をするのは、調停なら調停を申し立てた者(申立人)、裁判なら裁判を起こした者(原告)が行うのが原則です。もっとも、離婚の効力が生じてから10日以内に申立人・原告が届出をしない場合には、その相手方が届出をすることができます。

届出では、婚姻によって氏が変更された者(多くの場合は妻なのが現状)について、新たに本籍地を定めるか元の本籍地に戻るかを届け出ることになります。そのため、妻が届出をする方が都合が良いことが多いので、妻が申立人・原告となっていない場合でも、調停・和解の場合には、「相手方or被告の申出により離婚する」と定めることで、第一次的には妻からの届出とするように扱うこともあります。
一方で、判決で離婚となった場合で、原告が夫の場合は、夫が届出をしないといけないものの、妻の本籍地をどう届け出るかという問題があります。可能なら相手方と協議をした方がよいのですが、できない場合には、一方的に「もとの戸籍に戻る」と指定して届出をするのが無難ということになります。

離婚問題について

Q

離婚のときに夫の氏を引き続き使用することにしましたが、後から旧姓に戻りたいと思った場合はどうしたらいいですか。

A

家庭裁判所の許可が必要となります。

婚姻して氏を変更した者が離婚後も婚姻中の氏を引き続き使用したい場合には、離婚の日から3か月以内に婚氏続称の届出をすることで、婚姻中の氏を使用することができます。

他方で、一旦、婚氏続称の届出をした後に、やはり旧姓に戻りたいと考えることもないではありません。
この場合は、家庭裁判所に氏の変更の許可を申し立てることになります。これは、法的には、婚姻・離婚と関係なく、一から氏を変更するのと同じに扱われ、「やむを得ない事由」が要件となります。
もっとも、裁判例では、本来的には旧姓に戻ることもできたのだから後から変更を認めても支障はないなどの理由で、相当緩やかに許可がなされています。

離婚問題について

Q

元夫と離婚しましたが、離婚から300日経過する前に子を出産する予定です。本当の父親は交際相手である彼氏の子どもですが、そのまま出生届を出すと元夫の子と扱われるといわれました。どうすればいいのでしょうか。

A

 出産前に本当の父親と婚姻すれば、再婚相手との子として届出ができます。
 本当の父親と婚姻しないまま出産した場合には、医師の「懐胎時期に関する証明書」を添えて届出をすることで、元夫を父親とせずに届出をすることができます。それができない場合には、出生届は出さずに、(1)元夫に対する親子関係不存在確認の調停を申し立てて、審判で親子関係不存在を確定した上で届出をするか、(2)実父に対する認知調停を申し立てて、審判で実父との親子関係を確定して届出をする、という方法があります。

 

1 出産前に実の父親と再婚する場合
離婚した後の出産であっても、離婚から300日以内の出産だと、法律上、婚姻関係にあった父親の子どもだと推定されるので(民法772条1項2項)、そのまま届出をすると元夫の子どもとして扱われてしまいます。
もっとも、離婚後に再婚してから出産した場合には、再婚後の夫との子どもと推定され、こちらが優先されます(民法772条3項)。
したがって、出産前に再婚しておけば、最初から再婚相手との子どもとして届け出ることができます。

 

2 出産前に実の父親と再婚しない場合
他方で、再婚しないまま出産した場合(出産後に再婚した場合も含む。)には、婚姻関係にあった元夫との子どもと推定されるので、そのまま届出をすると元夫の子どもとして扱われてしまいます。
これを回避する方法として、離婚よりも後に妊娠したことが医師の診断で証明できるときには、元夫を父親とせずに出生届を提出することができます。
具体的には、医師に「懐胎時期に関する証明書」を書いてもらい、これを出生届とともに提出することで、元夫と父親とせずに届出ができます。

しかし、離婚及び出産の時期によってはそれができない場合もあり得ます。その場合は、出生届はひとまず出さないでおいた上で、母親が子どもの法定代理人として、(1)元夫に対する親子関係不存在確認の調停を申し立てて、審判で親子関係不存在を確定した上か、あるいは、(2)実父に対する認知調停を申し立てて、審判で実父との親子関係を確定した上で、出生の届出をする、という方法があります。

なお、出生届を出さないままだと児童手当などの行政上の手当を受けられません。
しかし、上記の調停を申し立てている場合には、「事件係属証明書」(調停を申し立てて裁判所で審理しているという証明書)を裁判所からもらい、これを添えて申し出ることで、出生届を出さないまま住民票に登録し、児童手当などを受けることができます。

 

*2024年4月1日施行の法改正後の法律に基づく解説のため、それより前の事案には該当しない部分があります。

離婚問題について

Q

婚姻費用・養育費には税金がかかりますか。

A

原則としてかかりません。将来分まで含めて一括で支払ったような場合には課税される可能性もあります。

 

所得税法では「学資に充てるため給付される金品……及び扶養義務者相互間において扶養義務を履行するため給付される金品」(同法9条1項15号)には所得税がかからない対象とされています。
また、「扶養義務者相互間において生活費又は教育費に充てるためにした贈与により取得した財産のうち通常必要と認められるもの」には贈与税の対象にならないこととされています(相続税法21条の3第1項2号)。
そのため、一般には婚姻費用・養育費に税金がかかることはありません。

もっとも、将来分まで含めて一括で支払うと実質は贈与であるとして贈与税の対象になる可能性はあります。

離婚問題について

Q

慰謝料には税金がかかりますか。

A

慰謝料には税金はかかりません。

被害者が損害賠償金を受け取った場合は、非課税となっています。慰謝料も損害賠償金なので、非課税となります。

離婚問題について

Q

財産分与には税金がかかりますか。

A

金銭の支払であれば、分与する側もされる側もかかりません。不動産を取得する場合は不動産取得税の負担があります。不動産を分与する側は、不動産を取得したときより不動産の価値が上がっていれば譲渡所得税がかかることがあります。

財産分与の金銭支払いの場合は、支払う側にも受け取る側にも税金はかかりません。
不動産の分与がされる場合、取得した側に不動産取得税が課されます。
分与した側については、「分与をした時において時価により当該資産を譲渡したこととなる」ため、譲渡所得税の対象となり得ます(所得税基本通達33-1の4)。そのため、分与の時点での時価が、その不動産の取得費及び譲渡費用より高額の場合には譲渡所得税がかかることになります。

離婚問題について

Q

離婚し、元妻に子どもの養育費を支払っている場合、子どもを扶養控除の対象にすることはできますか。元妻も収入があり子どもを扶養控除の対象として申告したときはどうなりますか。

A

一定の要件を充たせば扶養控除の対象にすることは可能です。父母の双方が子どもを扶養控除の対象として申告した場合、一方しか扶養控除は受けられません。

 

扶養控除の要件
子どもを扶養控除の対象とする場合の要件は、以下の通りとなっています(ただし、一般的なケースを想定したもので細かい要件は省略しています)。(所得税法2条1項34号、34号の2)
① 子どもが納税者と「生計を一にする」こと
② 子どもの所得金額が48万円以下であること
③ 子どもが16歳以上であること

ここで問題となるのは、「生計を一にする」という要件です。
国税庁の解釈では、同居していれば原則として「生計を一にする」に該当し、同居していない場合でも、「常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合」には「生計を一にする」に該当することになっています(所得税基本通達2-47)。
より具体的には、養育費の支払が、「①扶養義務の履行として、②「成人に達するまで」など一定の年齢に限って行われるものである場合には、その支払われている期間については、原則として「生計を一にしている」ものとして扶養控除の対象として差し支えありません。」とされています(国税庁HP)。
そのため、離婚に伴い又は離婚後に、「養育費として、毎月〇〇円を、〇年〇月まで支払う。」といった具合に取り決めて支払っている場合は、扶養控除の対象とする要件を充たすことになります。

重複した場合の扱い
もっとも、1人の子どもを父母が重複して扶養控除の対象とすることはできません。
そして、父母が別々に扶養控除の申告をした場合には、確定申告書や給与所得者の扶養控除等申告書等による扶養控除の申告を先にした方が扶養控除できることとされています(所得税法施行令219条2項1号)。
これによって定まらないときは(申告の前後が不明だったり同時だったりした場合)、所得金額の多い方が扶養控除できることとなっています(所得税法施行令219条2項2号)。