よくある質問 I FAQ

法律問題の
ご質問とアドバイス

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離婚問題について

Q

自衛官が将来受け取る若年定年退職者給付金は財産分与の対象になりますか。

A

まだ事例が少なく、一概に言えません。

自衛官には若年定年制が採用されており、多くは54~57歳という早期に定年退職となります。その代わりに、通常の退職金とは別に「若年定年退職者給付金」が支給されます。
この制度が導入されたのは1990年の法改正によるものであり、これが財産分与対象となるかどうか争われ判決に至ったケース自体があまり確認できません。
制度からすれば、退職金とは別個に財産分与になるという考えも、ならないという考えもどちらもあり得るといえます。

1 積極説(対象になる)の根拠として考えられる理由
① 実質的には退職に伴い支給されるものであり、支給の確実性が高い。
② 支給金額の計算方法も明確に定められている(防衛省の職員の給与等に関する法律27条の3以下)。
③ 支給金額の計算方法としても退職時の俸給月額を基礎とした計算になっていて通常の退職金の計算と類似し、労働の後払的性格ともいえる。

2 消極説(対象にならない)の根拠として考えられる理由
① 退職金はいつ自己都合でやめても支給されるのに対し、若年定年退職者給付金は、20年以上勤務した上で定年になるか、定年になる前1年以内に一定の事由により退職する場合など、支給される場合が限定されている(防衛省の職員の給与等に関する法律27条の2)。
② 法改正前は自衛官に対しては55歳から年金を支給する特例が設けられていたのを改めて導入された制度であり、制度導入の経緯から将来の年金支給に代わるものといえる。
③ 現実の支給内容としても、以下のとおり、早期定年退職による通常の定年までの間の収入減少を補填する給付という面がある。
ア 支給額が、若年定年から通常の定年までの年数によって計算される(年数が長い方が支給額が増える)
イ 第1回目の給付金は、退職の翌年の所得が退職翌年まで自衛官として在職していたと仮定した場合の年収相当額を超えた場合は全額返納し、一定額以上の収入だった場合も収入額に応じて返納しなければならない(防衛省の職員の給与等に関する法律27条の4第3項)
ウ 第2回目の給付金は、退職の翌年の所得が、退職翌年まで自衛官として在職していたと仮定した場合の年収相当額から俸給月額1.714倍分を引いた金額を超える場合は支給されず、また収入が一定以上あればそれに応じて支給が減少するという調整がある。(防衛省の職員の給与等に関する法律27条の4第1項第2項)

<裁判例>

これが財産分与対象になるかどうか争われ判決・決定までいった事例は少ないですが、以下の通り扱いが分かれています。
〇 さいたま家裁2021年9月30日判決
定年まで10年以上先という事情の下で、「若年定年退職者給付金は,……若年定年制により退職した自衛官に対して,退職後から60歳までの間の所得条の不利益を補うために支給されるものであって(甲19),労働の事後的対価(賃金の後払い)としての性格を有するものではなく,基準時まで夫婦共有財産として蓄積しているとはいえないから,財産分与の対象にはならない」と判断しました。
〇 広島高裁2020年3月23日決定
離婚前に自衛隊を定年退職しており、財産分与の基準時は離婚時となった事案で、若年定年退職者給付金の利用実態(ほとんどの自衛官が支給を受けており、生活設計に組み込まれていること)や労働の事後的対価という性格もあると見ることができること、基準日時点で支給が相当程度確実であることから、財産分与対象とされました。