よくある質問 I FAQ

法律問題の
ご質問とアドバイス

以下の問題について、ご質問とアドバイスです。
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労働問題について

Q

労働問題のQ&A(目次)

A

労働問題のトラブルは多岐にわたります。相談を受ける中でよく接する問題を中心に掲載しています。

各タイトルをクリックすればそれぞれのQ&Aに飛びます。

第1 雇用開始に際してのトラブル
1 「内々定」「内定」が取り消された場合に、何ができますか。

2 勤務開始後に、求人票と異なる労働条件を示されたが従わないといけませんか。

第2 「試用期間」に関するトラブル
「当初3か月試用期間」として勤務を開始しました。この場合、3か月以内だと自由に解雇されてしまいますか。

第3 「労働者」に該当するかどうか
「業務委託」としてトラック運転手の仕事をしてきましたが、残業代は請求できませんか。

第4 残業代
1 過去の残業代はいつまで請求できますか(時効の問題)。
2 残業代を請求する上で、どのような証拠があればよいですか。
3 残業時間の証拠がごく限られた勤務日数分しかありませんが、残業代請求は可能ですか。
4 「役職手当に残業代が含まれているから、残業代は出ない」と言われましたが、正しいのでしょうか(固定残業代の問題)。
5 「課長で管理職に当たるから残業代は出ない」と言われました。正しいのでしょうか。
6 トラック運転手です。「出来高払いだから残業代はない」と言われましたが、残業代請求は可能ですか。
7 「残業を禁止しているのに勝手に残業したのだから、残業代は出ない」と言われましたが、請求できませんか。
8 会社に勤務したまま残業代請求はできますか。

第5 労働条件の切り下げ
1 一方的に「経営が厳しいから給料を下げる」と言われましたが、争うことはできませんか。
2 給与減額の同意書に署名押印するよう求められましたが、応じないといけませんか。
3 給与減額の同意書に署名押印してしまいましたが、もはや争うことはできませんか。
4 人事異動に伴って給与が減らされましたが、争う余地はありませんか。

第6 解雇・雇止め
1 どういう場合に解雇が無効になりますか。
2 解雇された場合に、どのように争ったらいいですか。
3 解雇を争う場合、解雇予告手当を受け取ってはいけませんか。失業給付を受けてはいけませんか。
4 会社から「明日から来なくていい」と告げられたので出勤しなかったら、「退職」したことにした離職票が送られてきました。解雇として争うことはできませんか。
5 6か月ごとの雇用期間で5年を超えて更新して勤務を続けてきましたが、「今回は更新しない」と言われました。争うことはできませんか。

第7 退職
1 会社を退職しようと考えて、2週間後に退職するという退職届を提出したら、「就業規則で退職の1か月前までに提出しないといけない」と言われました。従わないといけませんか。
2 自分で退職の通知をしたら「会社指定の退職届ではないから無効だ」と言われました。会社指定の退職届でないと退職はできないのですか。
3 退職日までに有休を使い切って退職することは可能ですか。

第8 社会保険非加入
1 会社にパートで雇用されて毎日6時間週5日勤務で働いているので、健康保険・厚生年金保険に加入できると思うのですが、「パートなので加入できない」と言われました。どうしたらいいでしょうか。
2 健康保険・厚生年金保険の加入対象なのに、過去10年以上加入してもらえず、自分で保険料を支払っていました。会社に何か請求できませんか。

労働問題について

Q

「内定」「内々定」が取り消された場合に、何かできますか。

A

「内定」の取り消しであれば解雇と同様に争うことができます。「内々定」の取り消しに対しては損害賠償請求ができる場合がありますが、労働契約が成立していると主張するのは困難です。

1 「内々定」「内定」とは
一般に、新卒採用の場合、採用企業は卒業年度の10月1日までに、採用決定の通知(内々定)をしたうえで、10月1日の内定式で正式の内定を通知しています。これは、かつては経団連が定めたいわゆる「就活ルール」、現在は政府の「要請」によって、正式な内定日が卒業・終了年度の10月1日以降とされているためです。

一口に「内定」「内々定」といっても、新卒採用とそうでない場合などまちまちですが、新卒採用の内定で、そのまま労働契約が成立することを前提としている場合であれば、内定によって「始期付き」「解約権留保付き」の労働契約が成立したことになります。
「始期付き」というのは、現実に働いて給与を受け取るのは4月1日ですが、内定時点で労働契約は成立しているという意味です。「解約権留保付き」というのは、一定の内定取り消し理由がある場合(卒業できなかった場合など)に労働契約が解約されるという留保がついているという意味です。

2 「内定」が取り消された場合
内定段階で正式の労働契約は成立しているので、内定取り消し理由を企業が定めていても、解雇と同様に「客観的に合理的で社会通念上相当として是認することができる場合」でなければ、内定取り消しは無効となります。
企業が「入社後の勤務に不適当と認められたとき」など、広い取り消し理由を定めていても、自由に取り消すことができることにはなりません。

内定取り消しが無効となった場合、通常の解雇が無効となった場合と同じように、企業に給与を支払い続けるよう請求することができます。4月1日以降は「労働者」としての権利を有しており、現実に働いていないとしても、それは企業の責任となるためです。

3 「内々定」が取り消された場合
内々定の段階では、求職者側はまだほかの企業に就職活動を続けることもできます。企業側も正式な採用はその後の「内定」によることを予定しているので、一般には労働契約が成立したとは認められません。そのため、内々定の取り消しに対しては、4月1日以降の給与の請求をすることは困難です。
しかし、内々定前後のやり取りなどにもよりますが、求職者側にとって採用されるのが確実だと期待を抱かせながら内々定を取り消した場合や、企業側の対応が不誠実であった場合(採用方針について的確な情報を提供しないまま採用せず、安定した職を失わせてしまったケースなど)では、一定の賠償請求は認められています。
もっとも、裁判で認められた賠償額は50~300万円程度であり新卒採用の機会を失わされたことへの賠償としては十分とは言い難いです。

労働問題について

Q

求人票を見て面接を受け、勤務を開始した後に渡された雇用契約書では求人票よりも悪い労働条件になっていました。この労働条件に応じないといけませんか。

A

変更された労働条件に応じる義務はなく、納得いかないのであれば拒否すべきです。

1 求人票の内容通りの労働条件で雇用されたと主張することは可能
求人者はハローワークの求人票を見てその労働条件の通りだと信じて応募するのが通常です。
そのような理由などから、裁判例でも、「求人票記載の労働条件は、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなど特段の事情がない限り、雇用契約の内容になる」と判断された例もあります(大阪高裁1990年3月8日判決、大阪地裁1998年10月30日判決、京都地裁2017年3月30日判決)。求人票ではない求人広告で同様の判断になった例もあります(東京地裁2017年5月19日判決)。

2 会社が提示した雇用契約書に署名押印すると争いづらくなる
もっとも、この場合であっても、その後に渡された雇用契約書に署名押印してしまった場合には、変更された労働条件に同意したものとして、雇用契約書通りの労働条件になってしまうおそれもあります。
したがって、納得いかないのであれば雇用契約書に署名・捺印せずに、求人票通りの労働条件のはずだと主張すべきです。

労働問題について

Q

「当初3か月試用期間」として勤務を開始しました。この場合、3か月以内だと自由に解雇されてしまいますか

A

「試用期間」中でも自由に解雇できるわけではなく、合理的な理由が必要です。

「試用期間」は実際に勤務させてみて従業員としての適格性を判断するための期間として設けられていますが、試用期間中や満了時であるからといって自由に解雇・本採用拒否ができるわけではありません。あくまで雇用契約は成立しているので、解雇に準じて合理的な理由がなければ無効になります。

労働問題について

Q

「業務委託」としてトラック運転手の仕事をしてきましたが、残業代は請求できませんか。

A

形式上「雇用」になっていなくても、業務実態に照らして「雇用」に該当すれば残業代請求など労働者としての権利を行使できます。

1 「業務委託」などの形式でも「雇用契約」に当たることがある
いわゆる「庸車」と呼ばれるようなトラック運転手は、形式上はある会社が個人に業務委託した形で仕事をさせていることがあります。トラック運転手に限らず、形式上、「業務委託」「請負」の形式で、実質は事業主が個人に仕事を指示して働かせている場合はしばしばあります。
トラック運送事業者によるトラック運転手の社会保険非加入については2008年7月頃から取締りも厳しくなっているようであり(国土交通省「トラック運送事業者の社会保険等未加入に対する行政処分等の状況について」)、過去に未加入だったが途中から加入したという例も見かけます。

このような場合、形式上「業務委託契約書」のような書面が作成されている場合や、あるいは、雇用契約書等の雇用契約の根拠となる書面がない場合でも、実態として雇われて仕事をしている関係であれば、「雇用契約」であることに基づいて残業代など労働者としての権利を行使できます。

2 「雇用契約」に当たる場合に請求できる権利
雇用契約に該当すれば、たとえそれまで「出来高払い」の形で「請負代金」を支払われていても、法律上は「賃金」(給与)だったことになります。したがって、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えて仕事をした分の残業代請求も可能となります。
また、社会保険に加入していなかったのであれば、それに基づく損害賠償請求が認められる場合もあります。

労働問題について

Q

過去の残業代はいつまで請求できますか。

A

2020年4月1日以降が支払日となる残業代は3年で時効になります。それ以前の残業代は2年で時効になります。

これまでは給与・残業代は2年経過で時効により消滅することになっていましたが、2020年の法改正により、時効期間は3年間となりました(改正後の労働基準法115条、143条)。
もっとも、法改正が適用されるのは2020年4月1日以降が支払日となる給与・残業代だけなので、それより前が支払日となる残業代は過去2年分しか請求できません。
結果として、以下の通りになります。
2022年1月1日~2022年3月31日 過去2年分しか請求できない
2022年4月1日~2023年3月31日 2020年4月1日以降の残業代を請求できる
2023年4月1日~ 過去3年分の残業代を請求できる。

労働問題について

Q

残業代を請求する上で、どのような証拠があればよいですか。

A

一概に言えませんが、客観性の高い証拠があることが望ましいです。

比較的手堅い証拠としては、以下のようなものになります。
・タイムカード
・業務日報
・デジタコの記録やタコチャート紙(トラック運転手の場合)
この現物が手元にある必要はなく、コピーや写真撮影したものでも十分証拠になります。

労働問題について

Q

残業時間の証拠がごく限られた勤務日数分しかありませんが、残業代請求は可能ですか。

A

ごく一部しかなくても請求できる場合もあります。

ごく限られた日数分しか存在しなくても、他の勤務日も同程度に勤務していたと主張して残業代請求をすることは考えられます。裁判に持ち込んで、その中で開示させるなど、いろいろな方法が考えられます。

労働問題について

Q

「役職手当に残業代が含まれているから、残業代は出ない」と言われましたが、正しいのでしょうか。

A

ある手当を残業代の趣旨で支払うことは認められる場合もありますが、雇用契約書や就業規則等で明確な定めがなければならず、常に有効とは限りません。

会社が、「〇〇手当」という名目の支給を行い、この手当を残業代として支払っていると主張していることはしばしばあります。
このような「固定残業代」で残業代を支払うこと自体は認められますが、そのためには、いくつかの要件を充たす必要があります。
1 残業代として支払われていることが雇用契約書等で示されていること(対価性)
あくまでも労働条件として「〇〇手当」を残業代として位置づけるものなので、雇用契約書・就業規則等で「〇〇手当を残業代として支払う」と記載されるなど、労働契約の内容になっている必要があります。
2 通常の労働時間の賃金部分と残業代部分が判別できること(明確区分性、判別要件)
たとえば、「月給30万円(残業代分も含む)」といった労働条件では、どこまでが残業代以外の給料分か不明となります。このような定めだと、固定残業代の定めとして有効とは言えません。
3 その他無効となる場合
(1) それまで固定残業代として支払われていなかった手当を後から固定残業代の位置づけにした場合
これは労働条件を一方的に不利益に変更することになり、無効となる場合があります。
(2) 固定残業代が予定する残業時間が過大であったり、現実に過大な残業時間となっている場合
このような場合、法が許容する限度を超える残業を認めることが許されないなどの理由から無効となる場合があります。

<当事務所の取り扱い事例>
当事務所の弁護士が扱った事件でも、以下の通り、固定残業代が無効となった判決があります。

〇 名古屋高裁2017年5月18日判決労働判例1160号5頁
当初固定残業代ではなく「日給1万2000円」(時給1500円)の労働条件であった従業員が、3時間の時間外労働分の残業代を含めて1日1万2000円とする雇用契約書に変更された事案で、そのような変更は無効であると判断されました。

〇 名古屋高裁2020年2月27日判決労働判例1224号42頁
「職務手当 130,000円 (残業・深夜手当とみなします)」と定められた職務手当について、職務手当が予定する時間外労働時間数は月約80時間であるのに対し、現実には月120時間を超える残業をしていたことなどから、固定残業代としては無効と判断されました。

〇 名古屋高裁2020年5月20日判決
「課長,所長代理以上を対象に,役付に付随する責任に対し手当するとともに,所定休日労働に対する割増賃金として支払う」と就業規則で定められた「役付手当」について、「管理職以上の責任に対する手当としての性質が含まれ,その職務に対応する金額がどのようなものであるかは本件就業規則において必ずしも明らかにされておらず,役職相当の賃金部分と割増賃金との区別が必ずしも明確であるとはいえない」ことなどを理由に、固定残業代としては無効と判断されました。

労働問題について

Q

「課長で管理職に当たるから残業代は出ない」と言われました。正しいのでしょうか。

A

残業代が支払われない「管理職」に該当するのは一部に限られます。

法律上、「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)については、雇用主に残業代の支払義務がないことになっています。
もっとも、一般的に「管理職」(部署の長)であれば法律上の管理監督者に当たるということにはなりません。管理監督者は事業経営について管理者的立場にあり又はこれと一体をなす立場にあるものである必要があります。
一般的な要件はありませんが、裁判でも管理監督者と認められるケースは少なく、雇用主がこじつけて主張することが多い部類の主張です。

また、管理監督者に対しても、深夜(午後10時から午前5時)に勤務したことに対する深夜割増賃金(時給の0.25倍)は支払う義務があります。

労働問題について

Q

トラック運転手です。「出来高払いだから残業代はない」と言われましたが、残業代請求は可能ですか。

A

出来高払いであることは残業代が出ない理由になりません。

「出来高払い」「歩合給」であっても、雇用されている以上は、残業に応じた残業代を請求する権利があります。
トラック運転手であれば、タコチャートや、タコグラフの記録、業務日報などが残業代の証拠となります。

労働問題について

Q

「残業を禁止しているのに勝手に残業したのだから、残業代は出ない」と言われましたが、請求できませんか。

A

「残業禁止」が周知されていたか、残業しなくてもよい体制がとられていたかという事情によります。単に建前として「残業禁止」と言われていただけでは残業代が出ない理由にはなりません。

残業は所定時間外の労働時間に対する対価であり、ここでいう「労働時間」は、「労働者が使用者の指揮命令下にある時間又は使用者の明示・黙示の指示により業務に従事した時間」という枠組みで判断されます。
そのため、現実に従業員が働いているのを使用者も知りながら止めていなかったなどの事情であれば、黙示の指示により業務に従事したことになり、残業代が認められます。
形式的に「残業禁止」ということになっていても、時間外労働で残業代が請求できなくなるとは限らず、終業時刻で仕事を終了させることができる体制になっていたか、終業時刻で退出するよう指示が徹底されていたか、などの事情で残業に当たるか判断されます。当然に残業代が認められないとは言えません。

労働問題について

Q

会社に勤務したまま残業代請求はできますか。

A

可能です。ただし、勤務に影響することは考えておく必要があります。

残業代請求は正当な権利の行使なので、残業代請求したことを理由に不利な扱いをすることはできません。現実にも、在籍しながら残業代請求して金銭を支払わせている例もあります。
もっとも、昇給や配転など、雇用主の裁量が広く認められる事項で、不利に扱われる可能性は否定できないといわざるを得ません。
これを防止するとすれば、労働組合に加入して(できれば大勢の同僚とともに加入して)雇用主が安易に不利な扱いをできないようして残業代請求をするなど、雇用主に強いプレッシャーがかかる手立てを考える必要もあり得ます。

労働問題について

Q

一方的に「経営が厳しいから給料を下げる」と言われましたが、争うことはできませんか。

A

一方的に労働条件を不利益に変更することはできず、変更されても無効です。

労働条件は使用者・労働者の合意で決められるのが原則であり(労働契約法3条1項)、変更するのも合意が必要です(同法8条)。
就業規則等で降格による減給等の定めがあり、それを根拠にした減額であれば有効となる余地もありますますが、何の根拠もなく一方的に不利益に変更することはできません。

労働問題について

Q

給与を減額することの同意書に署名押印を求められましたが、応じないといけませんか。

A

応じる義務はないので、「持ち帰って検討させてください」と述べて持ち帰り、弁護士・労働組合に相談しましょう。

このような同意書に署名押印したからといって有効となるとは限りませんが、応じない方が無難であることは間違いありません。
応じないようにして、速やかに弁護士や労働組合に相談する方が無難です。同意を求められた状況について録音をするなどしてできるだけ証拠を残しておく方がいいです。

労働問題について

Q

給与減額の同意書に署名押印してしまいましたが、もはや争うことはできませんか。

A

同意書に署名押印しても直ちに同意があったとは言えず、争う余地はあります。

このように労働条件の不利益変更に対する同意書に署名押印しても、当然に有効な同意があったとは限りません。
最高裁判決でも、「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無」について、「当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容および程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯およびその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供または説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきである」と判断されています(最高裁2016年2月19日判決等)。
したがって、同意書に署名押印したからと言って直ちに争えなくなるとは限りません。争うのであれば、できるだけ速やかに弁護士や労働組合に相談して、「自由な意思の署名押印ではなかったから無効だ」と通知した方がいいでしょう。

労働問題について

Q

人事異動に伴って給与が減らされましたが、争う余地はありませんか。

A

単なる職務内容の変更(配置転換)であれば、減給の根拠とならないことが多いです。他方で、降格(部長から課長への格下げなど)であれば、その降格の合理性が認められなければ減給も無効となります。

人事異動という場合には、職務内容(勤務する部署)の変更(配置転換)の場合と、降格(役職・職位の引下げ)の場合が考えられます。
配置転換それ自体は事業主に大きな裁量が認められているのが実情ですが、配置転換と賃金とは別個の問題です。特に日本の一般の企業では厳密に職務に対応した賃金を設定していないのも通常ですから、配置転換が有効であっても、給与減額まで有効になるとは言えません。

降格に伴う減給については、降格の合理性が認められれば減給が認められる余地もありますが、まずもって、就業規則等で降格と賃金の減額が連動する制度となっていなければ、単なる減給として争う余地もあります。
そうでなくとも、報復的な降格など人事権の濫用に当たる場合には降格が無効となり、減給も無効となります。

労働問題について

Q

どういう場合に解雇が無効になりますか。

A

個別の法令で解雇が禁止されている場合のほか、正当な理由のない解雇も無効となりますが、個別具体的な判断を必要とする場合が多いです。

業務上の傷病で休業中の場合など、法律で絶対的に解雇が禁止されている場合もあり、このような解雇は当然に無効となります。
もっとも、現実には、そのように露骨に違法となる解雇は滅多になく、「経営上の理由」「勤務態度不良」などの理由によって解雇になることが一般的です。
このような解雇についても、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には無効となりますが、これは一義的な基準は存在しません。最後は個別具体的な判断にならざるを得ません。

労働問題について

Q

解雇された場合に、どのように争ったらいいですか。

A

解雇が無効だと主張して争う場合には、(1)解雇後も労働者の権利を有している地位の確認、(2)解雇後に勤務していれば支払われた賃金の請求をして争うのが一般的です。

解雇が無効である場合には、雇用契約が続いていることになり、訴訟で争う場合はその地位確認を求めることになります。
そして、現実には解雇されたことで従業員が勤務していないとしても、それは無効な解雇をした使用者の責任なので、従業員は解雇後も賃金を支払うことも請求できます。

労働問題について

Q

解雇を争う場合、解雇予告手当を受け取ってはいけませんか。失業給付を受けてはいけませんか。

A

解雇予告手当を受け取るだけで不利になることはありません。無効であっても解雇された以上、失業給付を受けることも問題ありませんが、仮給付で受ける方が無難です。

一般的には、解雇を争うということは雇用関係が続いていると主張することですから、これと矛盾する行動はとらない方が無難です。
もっとも、解雇予告手当は給与振込口座に一方的に入金されてくることが一般的であり、これをそのままにしておいただだけで解雇を認めたことにはなりません。

解雇を無効だと争うとしても現実には解雇されて給与がひとまずは支払われなくなるので、失業手当を受けることも問題ありません。もっとも、解雇を争っているのであれば、公共職業安定所に対して解雇を争っている資料(裁判所の事件係属証明書等)を提出して、仮給付として受け取る方が無難ではあります。当初にひとまず給付を受けてから仮給付に切り替えることもできます。

労働問題について

Q

会社から「明日から来なくていい」と告げられたので出勤しなかったら、「退職」したことにした離職票が送られてきました。解雇として争うことはできませんか。

A

退職しておらず従業員の地位が続いているとして、解雇と同様に地位確認・賃金請求をして争うことは可能です。

一方的な解雇が認められないために、会社によっては、「明日から来なくていい」などといって実質的に解雇したにかかわらず、「解雇ではない」と言い張ることもあります。
しかし、一旦雇用されたのであれば、退職したり解雇されたりしない限り雇用関係が続くので、解雇か退職かごまかされても、「退職しておらず、引き続き従業員の地位にあり、勤務する意思がある」と通告して、地位確認・賃金請求をすることは可能です。
この場合、会社が退職を主張するのであれば、会社が退職を証明しなければならなくなり、退職届も何もなければ証明できなくなるだけです。
当事務所の弁護士が扱った例でも、会社が従業員に「明日から来なくていい」などと告げて出勤を拒否した上、従業員が退職した扱いの離職票を送付したケースでも、判決では会社の解雇だったと認められ、解雇無効による地位確認・賃金請求が認められています(名古屋高裁2019年10月25日判決)。

労働問題について

Q

6か月ごとの雇用期間で5年を超えて更新して勤務を続けてきましたが、「今回は更新しない」と言われました。争うことはできませんか。

A

解雇された場合と同様に争うことができます。今の期間満了までに「無期転換」の通知をしてから争う方が無難です。

従業員が雇用期間を定めて雇用された場合に、使用者が雇用契約を更新しないことを「雇止め(やといどめ)」と言います。
使用者があくまで一時的な仕事のために期間を定めて雇用し、期間満了で終了させるのであれば「雇止め」を争う余地はありません。
他方で、現実には、一時的な業務ではないのに雇用期間を定めて雇い、何度も更新をくり返して勤務が継続してきたのに、ある時に使用者の都合で雇止めにするといった例も見られます。このような場合は、単に契約期間満了というだけで有効になるとは限りません。

1 雇止めの制限
まず、雇用期間を定めた契約更新が何度も続いており、業務内容としても一時的なものではないような場合には、「労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある」場合に当たると主張できます(労働契約法19条)。この場合、解雇と同様に、雇止めが「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」ときは雇用契約が続いていることになります。
また、契約更新の手続が全く形骸化しており、実質には期間なく雇用しているのと同視できる場合も同様に雇止めが制約され、制約の度合いが強くなります。

2 5年を超えて契約更新を続けてきた場合の無期転換請求
また、雇用期間を定めた雇用を更新して通算して5年を超えて勤務してきた場合には、現在の雇用期間が終了するまでの間に、雇用契約を「期間の定めのない雇用契約」に変更する請求することができ、一方的な請求で「期間の定めのない雇用契約」になります(労働契約法18条)。
この場合、使用者はもはや雇用契約を「更新しない」ことはできなくなり、雇用契約を解消しようとするのであれば解雇するしかありません。
雇止めでも解雇と同様に争うことはできますが、一般には雇止めの方が緩やかに認められるので、「期間の定めのない雇用契約」に転換して解雇を争う方が得策です。

労働問題について

Q

会社を退職しようと考えて、2週間後に退職するという退職届を提出したら、「就業規則で退職の1か月前までに提出しないといけない」と言われました。従わないといけませんか。

A

法律上は退職の通知をしてから2週間で退職でき、就業規則等でこれを延長しても無効だと考えられています。

法律上、期間の定めのない雇用契約であれば、2週間前に通知することで退職できることになっています(民法627条1項)。
ここで「2週間」というのは通知をした翌日からカウントするので、たとえば、2月1日に通知した場合は、2月15日が経過することで退職したことになります。

この民法627条1項の定めについては、就業規則や雇用契約書で異なる定めをしても無効となる「強行法規」という考えが多数です。
問題となったケースは少ないですが、裁判例でも従業員からの退職を法律よりも拘束する就業規則等は無効だと判断されています。

〇 福岡高裁2016年10月14日判決
民法627条1項の定めを強行法規だと判断した。
〇 大阪高裁1984年7月25日判決
2017年の法改正前の民法627条2項では、「期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以降についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半についてしなければならない。」と定められていた。
この民法627条2項の規定について、「解約予告期間経過後においてもなお解約の申入の効力発生を使用者の承認にかからしめる特約とするならば、もしこれを許容するときは、使用者の承認あるまで労働者は退職しえないことになり、労働者の解約の自由を制約することになるから、かかる趣旨の特約としては無効と解するのが相当である」と判断した。
直接的には民法627条1項についての判断ではないが、民法627条に基づく労働者からの退職を制約する就業規則を無効と判断した裁判例ではある。

労働問題について

Q

自分で退職の通知をしたら「会社指定の退職届ではないから無効だ」と言われました。会社指定の退職届でないと退職はできないのですか。

A

退職するという意思が明確に表明されていれば、どのような形式でも退職の通知として有効です。

期間の定めのない雇用契約であれば、退職はあくまで「退職する」という通知(意思表示)をして2週間経過することで効力が生じます。
そのため、どのような様式で通知しても構いません。
もっとも、後日退職の通知をしたかどうか不明になるのを避けるためには、内容証明郵便による通知が一番確実です。

労働問題について

Q

退職日までに有休を使い切って退職することは可能ですか。

A

可能であり、雇用主は拒否できません。

退職の通知から2週間以上後であれば、従業員から自由に退職日を設定できます。
そして、一般には従業員の有給休暇の請求に対しては、雇用主は、て事業の正常な運営を妨げるときには他の日に有給休暇を取るよう求める権利(時季変更権)がありますが、退職日までの全日数に有休を使用する場合は、他の日に有休を行使する余地がないので、時期変更もできません。(昭和49年1月1日基収5554号)
したがって、使い切って退職することも可能です。

労働問題について

Q

会社にパートで雇用されて毎日6時間週5日勤務で働いているので、健康保険・厚生年金保険に加入できると思うのですが、「パートなので加入できない」と言われました。どうしたらいいでしょうか。

A

いわゆる「パート」でも週の所定労働時間が週20時間以上あるなど一定の要件に当たる場合には、雇用主は健康保険・厚生年金保険に加入させる義務があります。加入してもらっていない場合は、従業員から年金事務所に確認請求するという方法があります。

1 社会保険の加入義務
雇用主が法人又は常時5人以上の従業員がいる事業所であれば、「適用事業所」となり、雇用主は勤務する従業員を健康保険・厚生年金保険(社会保険)に加入させる義務があります(正確には、被保険者資格取得を届け出る義務)。

日雇など一定の場合には加入対象となりませんが、いわゆる「パート」と呼ばれる短時間労働でも、それなりの労働時間となっていれば加入対象となります。(詳しい要件は厚生労働省等の案内をご確認ください。法改正もあり、時期によっても異なります。)

2 未加入への対策
しかし、雇用主によっては加入手続きを怠っている場合があります。
この場合には、労働者が直接年金事務所に確認請求をすることで、年金事務所も調査し、本来は加入対象だと判断されれば、過去2年分まで遡って加入されます。
この場合、過去に自分で国民健康保険料・国民年金保険料を納めていた場合には、還付されます。他方で、過去2年分の健康保険料・厚生年金保険料を雇用主が収めた場合には、その半分は従業員負担分となり、支払うことになります。一般には、きちんと国民健康保険料・国民年金保険料を納めていた場合であれば、差引きでプラスになります。

労働問題について

Q

健康保険・厚生年金保険の加入対象なのに、過去10年以上加入してもらえず、自分で保険料を支払っていました。会社に何か請求できませんか。

A

加入していれば保険料の半分を雇用主が負担することで、もっと安く済んだ自己負担分の損失を損害賠償請求できます。年金受給年齢に達した後であれば、受け取る年金が少なくなった分の賠償請求が認められる余地もあります。

1 自分で社会保険料を負担していたことによる賠償請求
本来、社会保険に加入している場合は、雇用主が保険料の半分を負担します(健康保険法161条、厚生年金法82条)。
これに対して、国民健康保険・国民年金の場合は、全額自己負担となります。
そこで、本来事業者に半分は負担してもらえたのに全て自分で負担したということになり、納付した保険料の半分の賠償請求が認められた例もあります。(名古屋高裁2017年5月18日判決、津地裁2019年4月12日判決)。
2 年金給付の減少を理由とする賠償請求
きちんと事業主が社会保険に加入していないと、厚生年金保険料を納めていないので、将来支払われる年金(老齢厚生年金)が減少することになります。
その分をあらかじめ請求したケースでは、将来の受給が不確定であることなどを理由に概ね請求は認められていません。
他方で、年金受給年齢になった後で請求した例では、請求が認められているものもあります。

当事務所の弁護士が扱った例として、名古屋高裁2020年5月20日判決では、1999年4月から2007年3月まで厚生年金に加入していなった労働者が、65歳になって退職してから損害賠償請求したのを認めています。