よくある質問 I FAQ

法律問題の
ご質問とアドバイス

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労働問題について

Q

「役職手当に残業代が含まれているから、残業代は出ない」と言われましたが、正しいのでしょうか。

A

ある手当を残業代の趣旨で支払うことは認められる場合もありますが、雇用契約書や就業規則等で明確な定めがなければならず、常に有効とは限りません。

会社が、「〇〇手当」という名目の支給を行い、この手当を残業代として支払っていると主張していることはしばしばあります。
このような「固定残業代」で残業代を支払うこと自体は認められますが、そのためには、いくつかの要件を充たす必要があります。
1 残業代として支払われていることが雇用契約書等で示されていること(対価性)
あくまでも労働条件として「〇〇手当」を残業代として位置づけるものなので、雇用契約書・就業規則等で「〇〇手当を残業代として支払う」と記載されるなど、労働契約の内容になっている必要があります。
2 通常の労働時間の賃金部分と残業代部分が判別できること(明確区分性、判別要件)
たとえば、「月給30万円(残業代分も含む)」といった労働条件では、どこまでが残業代以外の給料分か不明となります。このような定めだと、固定残業代の定めとして有効とは言えません。
3 その他無効となる場合
(1) それまで固定残業代として支払われていなかった手当を後から固定残業代の位置づけにした場合
これは労働条件を一方的に不利益に変更することになり、無効となる場合があります。
(2) 固定残業代が予定する残業時間が過大であったり、現実に過大な残業時間となっている場合
このような場合、法が許容する限度を超える残業を認めることが許されないなどの理由から無効となる場合があります。

<当事務所の取り扱い事例>
当事務所の弁護士が扱った事件でも、以下の通り、固定残業代が無効となった判決があります。

〇 名古屋高裁2017年5月18日判決労働判例1160号5頁
当初固定残業代ではなく「日給1万2000円」(時給1500円)の労働条件であった従業員が、3時間の時間外労働分の残業代を含めて1日1万2000円とする雇用契約書に変更された事案で、そのような変更は無効であると判断されました。

〇 名古屋高裁2020年2月27日判決労働判例1224号42頁
「職務手当 130,000円 (残業・深夜手当とみなします)」と定められた職務手当について、職務手当が予定する時間外労働時間数は月約80時間であるのに対し、現実には月120時間を超える残業をしていたことなどから、固定残業代としては無効と判断されました。

〇 名古屋高裁2020年5月20日判決
「課長,所長代理以上を対象に,役付に付随する責任に対し手当するとともに,所定休日労働に対する割増賃金として支払う」と就業規則で定められた「役付手当」について、「管理職以上の責任に対する手当としての性質が含まれ,その職務に対応する金額がどのようなものであるかは本件就業規則において必ずしも明らかにされておらず,役職相当の賃金部分と割増賃金との区別が必ずしも明確であるとはいえない」ことなどを理由に、固定残業代としては無効と判断されました。