よくある質問 I FAQ

法律問題の
ご質問とアドバイス

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離婚問題について

Q

夫婦の一方名義の預貯金はどのように財産分与対象となりますか。婚姻前から持っていた預金は特有財産になりますか。

A

別居時に存在している預貯金が財産分与対象となりますが、婚姻前から持っていた預貯金が含まれている場合は事案ごとの判断になります。

預貯金は、基本的には別居時点の残高が対象となります。
もっとも、その預貯金には婚姻前からもっていたお金も含まれている場合があります。
この場合の扱いは、必ずしも一貫した決まりがなく、考えとしても分かれている傾向にあります。概ね以下の2通りといえます。
① 差額処理
基準時に残存している限度で、婚姻時にあった預貯金は特有財産になるという考え(蓮井俊治「財産分与に関する覚書」ケース研究329号)。
この場合、婚姻又は同居開始時点で50万円で、別居時に130万円であれば増加した80万円分が財産分与対象となることになります。
② 一体処理
夫婦の預貯金は全体として一つの家計を構成し、入出金を繰り返しながら変動していくので、婚姻時の残高も夫婦共有財産の形成のための原資として消費されたと考えることができ、原則として、基準時の残高全体を対象とするという考えもあります(山本拓「清算的財産分与に関する実務上の諸問題」家月62巻3号)。この場合も、婚姻又は同居開始時点で一方の預金が多かった事情は分与割合で考慮するとされます。

そもそも、証拠上、婚姻・同居開始時点の預金額が明らかにできないケースも多々あり、①の処理が不可能なこともあります。
そこで、「混在した預貯金の預金期間が長期で家計の支払に供されてきたものであるとか、増減が甚だしい場合には後説〔②の処理〕によることになろうが、減少したことは一度もなく、増加しただけの場合は、前説〔①の処理〕が妥当ともいえ、事案に応じて処理すれば足りる。」という説明もされます(松本哲泓『離婚に伴う財産分与-裁判官の視点にみる分与の実務-』91頁)。
裁判例を見ても、全体として財産が増加しているケースや増減が明確なケースでは①の処理となっているように思われます。

 

(裁判例)

1 福岡家裁2018年3月9日審判
内縁関係解消による財産分与申立てについて、②の処理をした上で、分与割合では分与義務者の寄与度を3分の2として調整しました。
「相手方は,内縁関係の開始時に相手方が保有していた預貯金口座の残高の合計額である4733万4354円(乙91)を控除すべきであるとも主張している。
しかしながら,そもそも,申立人と相手方の内縁関係は約18年半もの長期間に及んでいる上に,関係証拠に照らすと,相手方は,同期間中に,上記預貯金口座以外にも複数の預貯金口座を保有していたことが認められる。そして,各預貯金口座の出入金履歴には,生活費関係の多数の出入金のほかに,事業関係資金等と推察される多数かつ多額の出入金及び資金移動も混在していることが認められる。
上記事情等に照らすと,内縁関係の開始時に相手方が保有していた預貯金口座の残高について,特有性が維持されているとは認められないから,相手方の主張は採用できない。」

2 東京高裁2011年12月20日判決
約9年半同居していた夫婦の離婚請求事件で、妻(原告)名義の預金の特有財産性について、以下の通り判断されて①の処理がされています。このケースでは、判決で被告から原告への多額(約3000万円)の金銭支払いとなっており、相当な財産の増加があった事案のようです。
「原告は、婚姻時合計881万9690円の預貯金を有し、別居時の預貯金は合計1187万2786円と増加しているが……、婚姻時から金額が増加している同番号2-1、同2-2、同2-5の預貯金の入金状況を見ると、婚姻時に近接した時期に多額の入金がされており、原告の母が原告の独身時代に生活費として渡された金銭を箪笥預金や株式購入に充て、原告の母の金銭も含めて原告名義の定期預金等として入金してきた(原告本人9、10、37頁、甲71)とみることが相当である。したがって、原告名義の預貯金は原告の特有財産と認められる。」

3 東京高裁2011年9月29日判決
平成21年.3月3日に婚姻し、同年12月18日頃別居となった夫婦の離婚請求事件で、財産分与について、以下の通り判断されて①の処理がされています。全体としては預金の増加分を上まわる債務があることで財産分与請求が認められていません。
「(ア) 被控訴人名義の預金
被控訴人名義の預金(三菱東京UFJ銀行及び北海道銀行)の残高は,控訴人との婚姻届出日の平成21年3月3日時点で合計11万2564円,同居を開始した同月21日の時点で合計503円,別居に至った同年12月18日の時点で合計9万0169円であり(乙33,34),同居開始日から別居の日までに8万9666円増加している。当該増加分は,控訴人との共同生活中に形成された財産であり,財産分与の対象となる積極財産に当たる。
(イ) 控訴人名義の預金
被控訴人名義の預金(三菱東京UFJ銀行及びゆうちょ銀行)の残高は,控訴人との婚姻届出日の平成21年3月3日時点で合計1万1024円,同居を開始した同月21日の時点で合計6114円,別居に至った同年12月18日の時点で合計5308円であり(甲20の1,2,21の1),被控訴人との共同生活中に形成された預金は存在しない。」

3 大阪高裁2007年1月23日判決
被控訴人(夫)の預金の一部について、①の処理により特有財産と認められています。全体としては夫から妻への多額の金銭支払い(1739万円のほか、退職時の退職金の4分の1)となっており、相当な財産の増加があった事案のようです。
「みずほ銀行の定期預金のうち50万円は,被控訴人が婚姻前から管理している給与の振込口座と一体となった定期預金で(甲15,弁論の全趣旨),平成2年9月20日には既に預金されていたことからすれば(甲13),婚姻前に被控訴人がした預金が継続しているものであり(甲25の6頁),被控訴人の特有財産と認めるのが相当である。」

4 名古屋家裁1998 年6月26日審判
昭和61年7月末から内縁関係となり、平成4年2月7日別居となった内縁の夫婦について、夫の預金について、昭和61年7月31日時点と平成4年1月31日時点の預金額の増加分を計算し、増加分を財産分与対象とし、①の処理となっています。
全体としては、内縁期間が4年間程度でありながら、夫から妻へ1000万円の金銭支払いとなっており、相当な財産の増加があったといえます。