よくある質問 I FAQ

法律問題の
ご質問とアドバイス

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離婚問題について

Q

離婚後も共同親権になった場合、監護している親が単独で決められるのはどういった事柄ですか。

A

きわめて不明瞭です。

1 現行法と法改正の内容
現行法においても、離婚前においては「父母の一方が親権を行うことができないとき」を除いて親権は父母が共同して行使することになっており(現行民法818条3項)、法改正もその定めは異なりません(新民法824条1項)。
改正法では、これに加えて、「子の利益のため急迫の事情があるとき」には一方で単独行使が可能であり、また、「監護及び教育に関する日常の行為」についても単独行使が可能とされました。しかし、これらの要件・意味が曖昧であり、ガイドライン等もないため予測が困難な面があります。
ひとまず、現時点で想定できる範囲で解説します。

2 各種の法律行為(契約)
まず、未成年者が当事者となる契約(預金口座・証券口座開設など)については、現行法でも法定代理人である親権者の同意が必要であり(民法5条1項)、父母が親権者であれば双方の同意が必要です。これは法改正後も異ならないので、離婚後に共同親権となった場合には、こうした手続に非監護親の同意も必要となります。

3 保育園への入園
保育園の入園は、市町村から認定を受けて行うものであり、この認定の申請は「保護者」が行うこととされています(子ども・子育て支援法20条1項)。
ここでいう「保護者」とは、「親権を行う者、未成年後見人その他の者で、子どもを現に監護する者」とされているため(同法6条2項)、「子どもを現に監護」している親権者だけで入園手続は可能ということになります。

4 学校への入学
(1) 入学の法的性質
小中高の学校への入学は、この入学が子ども(生徒)と学校の契約なのか、保護者(親)と学校の契約なのか、契約当事者が解釈として明確ではありません。また、公立学校の場合はそもそも契約関係と言えるのかすら、解釈として明確ではありません。
(2) 公立学校の場合
公立小学校・中学校については、市町村教育委員会が就学予定者の就学すべき学校を通知、指定することとなります(学校教育法施行令5 条 l 項、 2項)。そして、市町村教育委員会が設定する許可基準に応じて「相当と認めるとき」は、保護者の申し立てにより指定校を変更することができることになっています (同施行令8条)。したがって、法令上は転校も含めて契約によるものとは言い難く、そうであれば、必ずしも親権の行使として入学・転校させるわけではないので、親権者単独で可能とも言えます。
公立高校についても、入学は、「入学者の選抜に基づいて、校長が許可する」ことになっており(学校教育法施行規則90条)、転校も同様に「転学先の校長は、教育上支障がない場合には、転学を許可することができる。」という定めとなっています(同規則92条)。こうした定めからすれば、これも契約によるものとは言い難く、そうであれば、必ずしも親権の行使として入学・転校させるわけではないので、親権者単独で可能とも言えます。
なお、裁判例としては、公立中学校について親権者と地方公共団体との「公法上の在学契約関係」と判断した例(福岡地裁2001年12月18日判決)、公立高校について親権者と地方公共団体との「公法上の在学契約関係」と判断した例(横浜地裁2006年3月28日判決)はありますが、契約当事者が誰かということは明確に争われておらず、前例としての意味は乏しいと言えます。
(3) 私立学校の場合
私立学校については、契約によって入学・転校すると考えざるを得ません。
この場合の契約当事者についていえば、子ども(生徒)と学校の契約であれば、各種契約と同様に、親権者双方の同意がなければ入学もできないことになります。保護者(親)と学校の契約であれば、そもそも親権の行使ではないのだから、法改正の影響は受けないことになります。
裁判例としては、私立の中学校及び高校について生徒と学校法人との在学契約と判断した例(東京高裁2006年9月26日判決)があります。ただ、この事件は契約当事者が誰かということが中心的争点だったわけではなく、確固たる前例とは言い難いものです。
また、そもそも、誰が契約の当事者なのかはそれ自体が契約内容で定まるものであり、その解釈が争われるのは入学申込書等の書類でその点が明確になっていないためと言えます。
そして、現実には、学校の入学に当たり、親権者双方の署名を求められるよりは、保護者一人の署名で足りることが多いのが実情です。したがって、少なくとも現実の運用では、明確に意識されていないにせよ、保護者(親)と学校の契約という前提で扱われているとも言えます。実質的に考えても、生徒が契約当事者になるとすれば、学費等の負担をするのは生徒自身であり親には請求できないということになるので、特に私立の学校であれば、学校側の合理的意思にもそぐわないように考えられます。
このように、あくまで親が契約当事者だと考えれば、法改正の影響はなく、今後も監護している親が単独で進学を決められることになります。
ただし、法改正の影響として、学校側が親権者双方の署名(同意)を求めるようになることも考えられ、各学校の対応にも左右されそうです。

5 医療行為
医療行為については、(1)医療を受けるという契約を子ども又は親権者単独でできるのか、(2)手術や薬剤投与などの身体に対する侵襲(ダメージ)を伴う医療行為(医的侵襲行為)を正当化するための同意を子ども又は親権者単独でできるのか、という2つの側面が問題になります。
(1) 医療契約としての側面
医療機関で医療を受けるのは、医療契約という契約によるものです(ただし、たとえば救急搬送で患者1人が運ばれ、患者本人に意識がないようなケースでは事務管理という法理によるものであり、契約によるものではありません。)。
この医療行為の性質をどう考えるにせよ、「監護及び教育に関する日常の行為」については親権の単独行使が可能ですので、風邪などの重大でない傷病の医療や、ひとまず診察を受けるような場合であれば、監護している親権者単独で可能と考えられます。

それでは、「日常の行為」と言い難い、重大な手術などの場合はどうでしょうか。
入学契約と同様に、この医療契約についても、未成年者が患者となる場合に、誰が契約の当事者なのかは明確ではありません。これは具体的事情(親が同伴して診察を受けるか、子どもだけで診察を受けるのか。子どもの年齢・判断能力がどの程度か。)によっても異なると考えられますが、保護者(親)が契約当事者だと考えれば、親権者一人で子に手術を受けさせることも可能ということになります。他方、あくまで子どもが契約当事者だと考えると、親権者双方の同意が必要になります。この場合でも、緊急手術が必要な場合には「子の利益のため急迫の事情があるとき」に該当するものとして一方で単独行使が可能と考えられます。
ただし、法改正の影響として、医療機関側が親権者双方の署名(同意)を求めるようになるということも考えられ、各医療機関の対応にも左右されそうです。
(2) 医的侵襲行為への同意としての側面
一般に、医的侵襲行為は、患者本人の同意を得て行われます。
これは契約のためではなく、医的侵襲行為はたとえ必要な手術等であっても、身体に傷をつけるなど身体への傷害も伴う行為であり、患者本人の同意がなければ傷害罪等の犯罪に当たる行為となるからです(もっとも、本人に意識のない場合の緊急手術など、患者本人の同意がなくとも正当化される場合はあります。)。
この同意は、契約その他の法律行為ではないので、本来的には親権の問題ではないし、自己の身体への侵害を許すかどうかという本人だけが決めるべき問題と考えれば、未成年者であっても判断能力があれば患者本人が決定すべき事項と言えます。
他方、現実には成人であっても患者本人に判断能力がない場合に、患者に代わる家族の同意で医的侵襲行為をしているケースも多々見受けられます。しかし、本来は本人が決める事項を家族の同意で代えることができる法的根拠はないし、家族と言ってもどこまでの範囲の同意を得ればいいのか、意見が食い違ったときどうすべきか、何も明確ではない領域です。逆に言えば、明確ではない以上は、監護している親だけの同意で医的侵襲行為をしても、それが違法になるとも限らないと言えます。
このように、現状でも、根拠も同意権者の範囲も不明なままに運用されている事項であり、何の整理もないままに法改正だけしたので、専ら医療機関側の対応に左右される面があります。

6 住居の移動
民法822条では、子どもの住む場所(居所)は親権者が指定することとされています。
したがって、理論上は、離婚後も共同親権が続くなら、この居所の指定も父母が共同してすることになり、共同して決められないのであれば居所を変更できないことになります。
しかし、現実には、現在も離婚するまでの共同親権である下でも、配偶者の同意を得ずに子どもを連れて別居することはいくらでもあり、そのことで直ちに違法になるわけでもありません。
また、子どもがどこに住むかは契約その他の法律行為ではなく事実の問題であり、現実に引っ越した場合に、その居所の指定が無効だといったところで、引っ越しの事実がなくなるわけもありません。

そう考えると、住居の移動が現実に妨げられるとは考えにくいです。

*記事掲載時(2024年5月31日)で把握できている情報に基づく内容であり、その後の動向で記事内容が不適当になっていることがあり得ます。
*法改正に賛成・反対の立場から記事を掲載するものではなく、なるべく客観的に法改正の内容及びその影響として予測される事項を説明する趣旨です。ただし、判例・法令で明確になっていない事項も多いため、今後の推移を見ないと判断しづらい事項も多々あります。