よくある質問 I FAQ

法律問題の
ご質問とアドバイス

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離婚問題について

Q

婚姻費用・養育費の増額・減額理由がある場合、どの時点から増額・減額が認められますか。

A

調停申立てなどの形で明確に増額・減額を請求した時点から増額・減額が認められるとの考えが一般的ですが、事案によっては別個の扱いもあります。

「婚姻費用・養育費はいつから請求できますか」で述べたとおり、婚姻費用・養育費の分担は明確に請求された時点以降となるのが一般的です。増額・減額でも、同様に、増額・減額が明確に請求された時点以降について増額・減額が認められることが多いです。

ただし、権利者の子が養子縁組したケースでは、義務者にとっては養子縁組という減額理由が生じた事実を知らない一方で権利者は知っていることになります。そのため、このようなケースでは養子縁組時点などに遡って減額が認められる可能性もあります。
もっとも、いくつかの高裁決定を見ると、離婚後、養育費の支払を継続していたケースでは、養子縁組時点からの免除・減額を認めると権利者から義務者への返還額が多額になることを理由に調停申立時からの減額にとどめています(①③)。その一方、養育費を支払っていなかったケースでは養子縁組時点からの免除を認め(②)、途中から支払いが打ち切られたケースでは打ち切られた時点からの免除を(その時点で免除の意思が表明されたものと扱って)認めています(④)。
いずれも、免除を遡って認めることで支払われた養育費の返還義務が多額になることをなるべく回避しようとしているように思われます。

① 東京高裁2020年3月4日決定
離婚後に権利者の子が養子縁組した事案で、原審判は養子縁組時点からの養育費免除を認めたのに対し、上記決定は、養子縁組時からの免除を認めるとその後支払われた養育費が720万円以上になり多額の返還義務を生じさせることや、権利者も義務者の再婚を知っており養子縁組の可能性を認識できたことなどを理由に、調停申立時からの免除に変更した。

② 東京高裁2018年3月19日決定
離婚し養育費を取り決めたにもかかわらず義務者は一切養育費を支払っておらず、その後、権利者の子が養子縁組をしたことを理由として減額(免除)の調停が申し立てられたという事案。
上記決定は、以下のとおり判示して、養子縁組時点からの免除を認めた。
「本件養子縁組によってCが長男及び長女の扶養を引き受けたとの事情の変更は、本件養子縁組という専ら抗告人側に生じた事由であるし、収入の増減の変更があった場合等と異なり、本件養育費条項を定めたときに基礎とした事情から養育費支払義務の有無に大きな影響を及ぼす変更があったことが抗告人にとって一見して明らかといえるのであって、抗告人において、本件養子縁組以降、実父から養育費の支払を受けられない事態を想定することは十分可能であったというべきである。
他方、相手方とすれば、本件養子縁組の事実を知らなかった平成19年頃までに、本件養子縁組がされたことを変更の事由とする養育費減額の調停や審判の申立てをすることは現実的には不可能であったから、相手方に対して本件養子縁組の日から本件養子縁組がされたことを知った日までの養育費の支払義務を負わせることは、そもそも相当ではない。また、それ以後についても、相手方において、本件養子縁組により、もはや本件養育費条項に基づく養育費の支払義務はなくなったと考えたのであるから、本件養育費条項を養育費の支払義務がないと変更するように求める養育費減額の調停や審判の申立てをして、支払義務がないことを明らかにすることが望ましかったというべきであるが、これをしなかったとしても、前記のとおり、抗告人は本件養子縁組によりCが長男及び長女の扶養を引き受けたことを認識していたことに照らすと、このような相手方の不作為が、抗告人との関係において、相手方の養育費支払義務が変更事由発生時に遡って消失することを制限すべき程に不当であるとはいえない。
そうすると、相手方が、抗告人との協議離婚以降、本件養子縁組がされる以前、全く養育費を支払っておらず、そのこと自体は問題であるというべきであるとしても、当事者間の公平の観点に照らし、相手方の抗告人に対する養育費の支払義務がないものと変更する始期を事情変更時に遡及させることを制限すべき事情があるとはいえない。」

③ 福岡高裁2017年9月20日決定
離婚し、権利者の子の養子縁組がなされてから約1年後に減額調停が申し立てられた事案。
家裁審判では、「子らがEと養子縁組をしたのは、平成27年●●月●●日であるが、その時点から減額することとなると、前記の基礎収入額にとどまる相手方世帯にとって既払分の返還額が大きくなり過ぎて相当でないから、減額の始期は、本件の調停が申し立てられた平成28年●●月●●日の後である同年●●月●●日とするのが相当である。」と判断して調停申立時(翌月)からの減額とした。上記高裁決定でも、特別の理由は示さずに調停申立ての翌月からの減額とした。

④ 東京高裁2016年12月6日決定
離婚に際して公正証書で養育費を取り決め、権利者の子の養子縁組が平成26年5月になされ、平成28年3月に養育費減額(免除)の調停が申し立てられた事案であり、義務者は平成27年4月以降は養育費を支払っていないという事実関係。
上記高裁決定は、以下のとおり判示して、支払を打ち切った時点からの免除を認めた。
「抗告人が相手方に対して支払うべき未成年者らの養育費を零に減額すべき始期について検討すると、かかる点についての判断は、家事審判事件における裁判所の合理的な裁量に委ねられているところ、累積した過去分を一度に請求される危険(養育費請求又は増額請求の場合)や既に支払われて費消した過去分の返還を求められる危険(養育費減額請求の場合)と明確性の観点から、原則として、養育費の請求、増額請求又は減額請求を行う者がその相手に対してその旨の意思を表明した時とするのが相当である……。
本件では、相手方が再婚したことに伴って未成年者らが相手方の夫と養子縁組をしたのは平成26年5月●●日であるところ、前記認定のとおり、抗告人は、同年7月頃には、かかる事実を知りながら養育費の支払を継続しているものの、同年11月●●日付け準備書面において、同年5月●●日付けの上記養子縁組以降は本来抗告人に養育費の支払義務がない旨の主張をしており、平成27年4月には、その支払を打ち切っていることが認められ、抗告人は、相手方に対し、その後、養育費の支払をしていないことに照らすと、同月には養育費の額を零とすることを求める抗告人の意思が明確に示されたものというべきであり、抗告人は、相手方に対し、遅くとも同月には、養育費の額を零とすることを黙示的に申し入れたと認めることができる。
したがって、本件においては、同月から抗告人が相手方に対して支払うべき未成年者らの養育費を零(支払義務の免除)に減額するのが相当である。」