よくある質問 I FAQ

法律問題の
ご質問とアドバイス

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離婚問題について

Q

無断録音や他人のメールは、不貞などの証拠として使えますか

A

犯罪に当たるような行為で確保したものでなければ、証拠として使うことは可能です

1 証拠能力のルール
民事裁判では、証拠として使える物の制限は原則としてありません。ただし、著しく反社会的な手段を用いて、人の精神的肉体的自由を拘束する等の人格権侵害を伴う方法によって採集されたものについては、違法に収集された証拠(違法収集証拠)として、証拠として使えなくなるというのが一般的な考え方です。

2 メールやLINEなど
配偶者のメールやLINEを見る方法としては、①配偶者のID・パスワード等を配偶者の携帯電話機等に入力して、その機器の内部に保存されたメール等を見る方法と、②配偶者のID・パスワード等を用いて、他のパソコンなどからログインして、メール等を見る方法が考えられます。
しかし、後者の②の場合は、配偶者の承諾がない場合には不正アクセス禁止法の「不正アクセス行為」に当たり、犯罪に該当します。犯罪行為で取得した証拠かどうかは違法収集証拠に当たるかどうかに直結はしませんが、違法性が高いとの評価にはなります。最近の裁判例を見ても、不正アクセス行為によって取得したものではないことを理由として、配偶者と不貞相手のメール等の証拠能力を否定していないものも存在します。
他方で、前者の方法による場合は犯罪に当たりません。既に別居した後に配偶者の自宅に入って証拠を取得したような場合を別とすれば(この場合、住居侵入罪になり得る。)、①の方法によって取得した証拠が違法収集証拠と評価される可能性は低いと思われます。

最近の裁判例の傾向
(1) 名古屋地裁2017年9月15日判決
「原告がA美の同意を得ることなくメールのデータ等を入手したものであるとは認められるものの,原告が携帯会社のサーバーに侵入してデータを入手したと認めるに足りる証拠はなく,また,信義則上,証拠から排除しなければならないほどの事情があるとも認められない。」
(2) 東京地裁2016年 8月 4日判決
「被告は,原告がAからパスワードを教えられていないのに,これを特定して,Aの携帯電話に入力して甲2,3を入手したとして,甲2,3の証拠能力が否定されるべきと主張するが,被告主張の事実を前提としても,甲2,3が著しく反社会的な手段を用いて採集されたものとは認められず,証拠能力を欠くものとは認められない。」
(3) 東京地裁2015年 9月16日判決
原告(夫)が、被告(妻)の携帯電話機から収集した証拠(データ)について、原告が,被告の携帯電話の着信に気づき,被告から携帯電話を取り上げようとした際,被告の顔面を殴打し,右脇腹を押さえ付けて肋骨を骨折させる程度の暴行を加えているという事実関係で、「これが原告の被告に対する不法行為として民事上の責任を負うことは別として,本件訴訟における違法収集証拠として証拠能力が否定されるべきものとまでは認められない。」と判断している。(なお、上記暴行についても慰謝料請求が認められている。)
(4) 東京地裁2009年 7月22日判決
夫の入浴中に、無断で携帯電話を確認して、そのメールを転送したり、夫のパソコンに保存されていた不貞相手の写真をプリントアウトした行為について、「その取得の方法・態様は,上記メール及び写真の民事訴訟における証拠能力を排除しなければならないほどに著しく反社会的なものであるとは認め難」いと判断した。

このように、勝手にパソコン・携帯電話機のメール等を取得したという程度では証拠能力は否定されていません。

3 録音
録音としては、①配偶者や浮気相手を問い質して、不貞を認めさせたときの会話を録音した場合や、DV場面などを録音した場合、②自宅や自動車内に録音機器を置いておき、不貞の場面や不貞相手との会話内容を録音したというケースがあります。
まず、①については、このように、録音する者と相手方の会話などを録音したものは、相手方に無断で録音しても証拠能力は否定されません。離婚・不貞事件に限らず、パワハラ事件など多数の事例でこういった証拠が使われることはありますが、証拠能力は問題にもならないが実際のところです。
他方で、②については、プライバシー侵害になるとは言えますが、これも証拠能力は否定されていません。
もっとも、裁判例を見ると、録音装置を設置した時点ではまだ完全な別居状態ではなかったことに言及しているものもありますし(東京地裁2013年 8月22日判決)、別居後に妻が元の自宅に入って持ち出した夫のノートについて証拠能力を否定した例も存在します(東京地裁1998年 5月29日判決)。こうした傾向から考えると、完全な別居後に録音装置を仕掛けたようなケースでは証拠能力が否定されることもあり得ると言えます。