よくある質問 I FAQ

法律問題の
ご質問とアドバイス

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離婚問題について

Q

配偶者が会社の従業員と不倫した場合、会社の責任はありませんか

A

問題となったケースが少ないですが、問題になった事案では会社の責任を認めない判決が多数です。

1 従業員の行為について雇用主が責任を負う場合
一般に、会社の従業員がその事業の執行について第三者に損害を加えた場合は、会社も損害を賠償する責任を負います(使用者責任(民法715条))。
従業員の加害行為が暴力行為のような事実行為の場合は、使用者の事業の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有する行為であるかどうかで、使用者責任が認められるかどうか決まります。

2 裁判例
したがって、会社の業務と無関係に知り合って不貞に及んだようなケースでは、使用者責任を追及する根拠はないと言えます。
他方で、会社の業務過程で不貞に発展したような場合であれば、事実関係次第では使用者責任を追及する余地も生じ得ます。このような請求がなされた事案は多くは確認できませんが、確認できる裁判例においては、不貞自体は業務と関連がないということで、使用者責任を否定されているケースが通例です。

3 使用者責任を認めた例
使用者の責任を認めたケースとしては、以下の裁判例があります。いずれも事案の個別性が影響しており、一般的に使用者責任を認めているとは言えません。
〇 東京地裁2021年6月25日判決
原告の妻が、原告の出向先である会社の代表取締役(原告の出向元会社の執行役員)と不貞行為をして離婚に至ったと認定された事案です。原告は、上記代表取締役(Y1)に対して不貞慰謝料請求するとともに、出向元会社に対し、不法行為及び使用者責任に基づいて損害賠償請求をしたのに対して、以下のとおり判断されました。
Y1が単なる従業員ではなく出向先の代表取締役である点が判断に影響しているように思われます。また、会社の責任を認めた根拠として直接は言及されていませんが、Y1は原告の妻と仕事上知り合っていたという事実関係であった点も判断に影響しているようにも考えられます。

(会社の不法行為責任について)
「使用者が労働者に出向を命じ,その就業場所を当該出向先と指定した場合においては,当該出向先において労働者の労務管理を統括する権限と責任を有する者は,出向元の使用者が負う上記配慮の義務の履行補助者として,当該義務の内容に従って,その職務を遂行すべきものというべきである……。
もとより,使用者が負う上記配慮の義務の具体的内容は一義的に定まるものではないが,少なくとも,労働者の出向先における労務管理の統括者が当該労働者の配偶者と不貞関係を持つという行為は,当該出向労働者がその就業場所である出向先で労務を提供する過程において,その心の健康に害を被る危険性の高い行為であり,上記配慮の義務に違反するものといわなければならない。したがって,このような行為が行われた場合には,出向元の使用者において,当該労働者に対する上記配慮の義務の不履行があったものとしてこれに基づく雇用契約上の責任を負うものというべきであり,また,当該行為を行った出向先の労務管理の統括者においても,当該労働者の上記配慮を受ける権利を侵害したものとして当該労働者に対する不法行為責任を免れないものというべきである。
これを本件についてみると,被告会社は,原告X1の使用者として原告X1に対する上記配慮の義務を負っており,また,原告X1の出向先のB社で代表取締役を務めていた被告Y1は,同社における労務管理の統括者として上記義務の履行補助者の立場にあったものというべきところ,前記認定のとおり,被告Y1は,原告X1のB社出向期間中に,Dが原告X1の妻であることを知りながらDと不貞関係を持ったことが認められるから,被告Y1は,当該不貞行為により,原告X1の上記配慮を受ける権利を故意により侵害したものとして,原告X1に対する不法行為責任を免れず,原告X1の被った精神的苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。原告X1の主張は,この趣旨をいうものとして理由がある。」

(被告会社の使用者責任について)
「被告会社は,その執行役員である被告Y1との間に使用関係が認められるうえ,前記3で説示したとおり,実質的にみても,自らが雇用する原告X1についての労務管理業務を被告Y1に委ねることにより,その事業のために被告Y1を使用していたものと評価することができる。そして,前記3に説示したところによれば,被告Y1の不貞行為が,被告会社から委ねられた労務管理業務(前記配慮の義務の履行補助)の執行について行われたものであることも明らかである。
したがって,被告会社は,民法715条1項本文の使用者責任に基づき,被告Y1と連帯して,被告Y1の不貞行為により原告X1の被った精神的苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。」

〇 神戸地裁姫路支部2014年2月24日判決
自衛隊の本部心理担当幹部であった隊員が、カウンセリングの過程でわいせつ行為を行ったことを理由に、以下のとおり判断して国の賠償責任を認めた判決です。明らかに業務過程の行為であることによるものと考えられます。
「被告の被用者であるEが,被告の事業であるL駐屯地におけるカウンセリングに際し,原告の妻であるFに対して,カウンセリング行為であるとして,Eのわいせつ行為を行ったことが認められる。
したがって,被告が,原告がEのわいせつ行為によって被った損害について使用者責任を負うことは明らかであり,Eのわいせつ行為と同人の職務との密接関連性を否認する被告の主張は採用しえない。」