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不倫相手との間で、「今後、配偶者と私的な接触をしない。これに違反した場合には1000万円支払う」といった違約金の合意をした場合、有効ですか
婚姻関係が破綻したり離婚したりした後の連絡・接触を制限することはできませんし、金額が高額すぎたり制限範囲が広すぎれば無効(一部無効)になることもあります。
この点が争われた裁判例はそれほど見当たらないですが、確認できる範囲から傾向を述べると以下の通りとなります。
1 連絡・接触制限合意の有効性・範囲
この種の接触・連絡の制限の合意自体は、不貞相手との関係を完全に断ち切らせるために必要な合意であるというような理由により、有効と認められています。
他方で、不貞相手との関係を断ち切らせるのはあくまで婚姻関係を保護するためなので、婚姻関係破綻後には合意は無効になることになります(裁判例⑥)。
また、連絡・接触を禁止するのもあくまで婚姻関係を保護するためなので、連絡・接触禁止合意違反に基づいて賠償が認められた事案も、性的接触を伴うなど婚姻関係を脅かすといえそうな事実があった場合や(裁判例⑤)、端的に再度の不貞があった場合(裁判例③)です。
また、連絡・接触合意に反したLINE・メールの送信行為については、「原告が,被告とAの平穏な婚姻関係を破綻させられる脅威を感じ,原告とAの婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある行為」であるとして賠償を命じた例もあれば(裁判例④)、違約金が高額すぎて無効であり、また、連絡・接触禁止合意違反としても「これが原因となって原告とAとの婚姻関係が破綻したと認めるに足りる証拠はな」いことを理由に不法行為成立も否定した例もあります(裁判例②)。LINE・メール程度の連絡・接触行為となると、違約金額との兼ね合いなどにも左右され、判断が分かれそうです
2 高額な違約金合意の有効性
以下のような事例があります。
・違約金100万円を有効と認めた例(裁判例⑤⑦)
特に裁判例⑦は、違約金としては「1回100万円」ですが、6回の不貞行為をしたと認定され、6回分600万円の請求が認められています。
・違約金1000万円と定めたのが高額すぎるとして150万円の限度で有効とした例(裁判例③〔再度の不貞行為がなされた事案〕)
・違約金1000万円と定めたのが高額すぎて違約金合意自体が無効であるとした例(裁判例②〔単に連絡・接触合意違反のメール送信行為があった事案〕)
・違約金5000万円と定めたのが高額すぎるとして1000万円の限度で有効とした例(裁判例①〔再度の不貞行為がなされた事案〕)があります。
もっとも、裁判例①は事実関係が特殊すぎて参考になりません。
裁判例③も、再度の不貞行為により婚姻関係が破綻したことによる慰謝料が200万円だと認め、そこから違約金150万円を差し引いた50万円を慰謝料として支払を命じており、結局、合意がなく再度の不貞行為があった場合に慰謝料請求したのと異ならない結論になっているとも言えます。
その意味では、再度の不貞行為があれば、合意違反を問題にしなくても慰謝料請求が認められるわけですから、高額すぎる違約金を定めても必ずしも大きな意味があるわけではないとも言えそうです。
3 合意が意味を持つ場合
もっとも、再度の不貞行為までは証拠を確保できなくとも、示談後、再び相当親密な交流を再開していた(しかし、不貞行為として賠償請求できるとまでいえるかは微妙)ようなケースでは、違約金請求であれば認められる余地はあることになります(裁判例⑤のようなケース)。
また、不貞行為「1回100万円」という違約金条項が有効になったケースもあるので(裁判例⑦〔ただし、具体的事情の下で有効という判断でもある〕)、そういう定め方をすることで高額な違約金が認められる余地があるとは言えます。
(裁判例)
① 東京地裁2005年11月17日判決
原告の妻とくり返し不貞行為をくり返した事業経営者の被告が、「二度とA〔妻〕と不貞関係を持たないことを誓約し、これを破ったときには5000万円を賠償する」との誓約書を作成して合意した後、更に不貞行為を続けたばかりか、他者と共謀して原告に対する殺人未遂事件を起こして重傷を負わせた事実関係の下、殺人未遂による損害賠償請求のほか、上記誓約による賠償金5000万円を請求した事案。
同判決は、以下のとおり1000万円の限度で違約金合意の有効性を認めた。
「不貞行為についての損害賠償として、5000万円全額の支払を被告に命ずるというのは高額に過ぎ、被告の不貞行為の態様、資産状況、金銭感覚、その他本件の特殊事情を十分に考慮しても、なお相当と認められる金額を超える支払を約した部分は民法90条によって無効であるというべきである。
本件では、前記のとおり被告が本件殺人未遂行為に及んでいることからして、被告の行動が悪質ではあることは明らかであるが、それは後記のとおり本件殺人未遂行為に係る慰謝料の算定に当たって評価すべきであって、あくまで不貞行為についての慰謝料という観点から損害賠償の予定として相当と認められる金額を認定すべきである。
しかるところ、5000万円という金額は、被告が自ら提示したものであること、被告は会社の代表者を務め、本件殺人未遂行為の報酬等として数千万円もの大金を拠出するなど、かなりの資力があり、金銭感覚も通常人とは異なっているとうかがわれること、不貞行為の内容をみても、被告は、先に本件誓約1をしながら、平然とこれを破り、Aを唆して家出させて同棲に及び、さらに本件誓約2の後も、すぐにAとの不貞行為を再開し、入院中ですら逢瀬を重ねるなどその態様も大胆不敵で違法性は強いというべきこと、その他本件の各事情を勘案すると、被告に対して不貞行為に関する損害賠償額の予定として支払を命ずるべき金額としては1000万円を限度とするのが相当と認められる。」
② 東京地裁2009年1月28日判決
不倫相手との間で、「①被告はA〔原告の配偶者〕と何度にも渡る不貞の関係を持ったことを認め,謝罪する,②被告は同窓会に関係する事項から撤退し,今後,方法のいかんを問わずAと一切の直接の連絡をしないこと(ただし,連絡ができなくなったという最後の連絡を除く。),③被告は慰謝料500万円を3月25日までに支払う,④違約した場合には被告は違約金1000万円を別途,支払う」と合意した後、被告がAにメールで連絡をしたという事実関係において、原告が、合意による慰謝料500万円に加え、違約金1000万円を請求した事案。(メール内容は判決では認定されていないが、原告の主張によれば「原告と被告との面談の内容や和解の内容をすべて明らかにした」というものである。)
同判決は、慰謝料500万円の合意は有効と認める一方で、違約金合意については以下のとおり判断し、違約金の合意は無効とした。
「慰謝料500万円を支払わない,Aと連絡を取る等の違約があれば,慰謝料500万円のほかに違約金としてその倍の金額の1000万円もの多大な金員を別途支払うことになるという違約金条項は,結局,違約があった場合には被告の支払額を3倍の1500万円まで高めるものであって,不貞行為による損害賠償請求という本件事案の性質に照らし,社会通念上,容認することができない不当かつ不合理な合意というほかない。結局,違約金に関する合意の限りでは,本件和解契約書は暴利行為ないし公序良俗に反しており,無効というべきである。
したがって,慰謝料500万円の合意は認められるが,違約金1000万円の合意は無効である。」
その上で、メール送信行為についての不法行為の成立も、以下のとおり否定した。
「本件約定に反して被告が本件和解契約成立後,Aに電子メールを送った事実は認められるものの,これが原因となって原告とAとの婚姻関係が破綻したと認めるに足りる証拠はなく,原告の請求はその余の点について判断を加えるまでもなく,理由がない」
③ 東京地裁2013年12月4日判決
不倫相手が、「今後,A〔原告の配偶者〕に会うことはもちろん,一切の電話・メール・手紙・面会等で連絡をとることはしない。職務上においても必要最小限以外のコンタクトをとらないことを約束する」「万が一違反した場合には,別途違約金として1000万円を支払う」旨の誓約書を作成して合意した後、再度の不貞行為に及んだ事案。
同判決は、以下のとおり判示し、1000万円の違約金を定める条項は150万円の限度で有効であると判断した。
「本件違約金条項は,面会・連絡等禁止条項の違反について,違約金を課すものであると認められるところ,違約金は損害賠償額の予定と推定されるから(民法420条3項),その額については,面会・連絡等禁止条項が保護する原告の利益の損害賠償の性格を有する限りで合理性を有し,著しく合理性を欠く部分は公序良俗に反するというべきである。
そこで検討すると,面会・連絡等禁止条項は,被告にAとの不貞関係を確実に断ち切らせ,原告の精神的安定を確保し,Aとの婚姻関係を修復するという正当な利益を保護するためのものであって,その目的は正当であると認められる。そして,原告本人の供述によれば,原告としては,面会・連絡等禁止条項の履行を確保することが,本件違約金条項を定める大きな目的だったことが認められるが,上記正当な目的を有する面会・連絡等禁止条項の履行を確保するために,その違反行為に違約金を定めることも,上記目的を達成するための必要かつ相当な措置であると認められる。
しかしながら,本件違約金条項による違約金額1000万円は,メールや面会等による接触にとどまらず不貞関係にまで至った場合に認められる損害額(後記4(3)のとおり)に照らすと,損害賠償額として著しく過大であるというほかない。
なお,原告本人の供述によれば,原告が本件において違約金の額を1000万円と設定したのは,原告において事前にインターネットで調べたところ,慰謝料の2倍から3倍を違約金として定めるのがいいと書かれていたからである。しかしながら,慰謝料額が500万円であることにも,違約金の額がその2倍ないし3倍であることにも法的根拠はなく,本件の違約金額の設定方法にも合理性は認められない。
そして,面会・連絡等禁止条項に違反してAと面会したり電話やメール等で連絡をとったりした場合の損害賠償(慰謝料)額は,その態様が悪質であってもせいぜい50万円ないし100万円程度であると考えられるから,履行確保の目的が大きいことを最大限考慮しても,少なくとも150万円を超える部分は,違約金の額として著しく合理性を欠くというべきである。
したがって,本件違約金条項のうち,150万円を超える部分は,著しく合理性を欠き,公序良俗に反し無効である。」
その上で、再度の不貞行為による慰謝料について、子の不貞行為により婚姻関係が決定的に破壊されたことなどを理由に慰謝料相当額を200万円と認め、「再度の不貞は,面会・連絡等禁止条項違反でもある。したがって,違約金による填補を考慮して,被告は,再度の不貞による慰謝料として50万円の支払義務を負う」と判断した。
結論的には違約金合意にかかわらず、再度の不貞行為による慰謝料を負担したのと異ならない結果になったともいえる。
④ 東京地裁2018年9月25日判決
不倫相手との訴訟上の和解で、「被告が,原告に対し,解決金として100万円の支払義務があることを認め,被告が,原告,A及びAの親族に対し,メールや電話等の方法を含む一切の連絡及び接触をしないことを確約する」旨の合意をした後に、不倫相手が、配偶者に対し「成功報酬はらってほしいだけだよ」「みなさんに全部お話します それで,訴えられてもかまいません」「あなたのせいで,お店の方々には迷惑かかりますし,お店はつぶれますね」「親とあなたの実家にもいきますので」「もう成功報酬は,払わないってことでいいんですね?そしたら,いったとおりのことをします まず,本部のかたにお話してから店長に言います そのあと,警察にもいきます あたしの親にも会ってくださいね」という内容のLINEメッセージを送付した。
このLINEメッセージの送信行為が合意違反であるとして損害賠償請求がなされた事案において、以下のとおり判断して不法行為の成立を認め、慰謝料5万円等の支払を命じた。
「本件和解は,成立後,再び原告とAとの婚姻関係を破綻に至らせるような行為,具体的には,被告とAが接触をしないということを当然の前提として,当事者間で成立させたものといえる。
それにもかかわらず,被告は,本件和解成立後もAと同じ職場で勤務し続け,Aに対しLINEメーセージを送付したのであり,また,その内容も,前記前提事実(3)のとおり,不貞行為を周囲に話してAや職場に迷惑をかけるという内容であり,このような被告の行為は,原告が,被告とAの平穏な婚姻関係を破綻させられる脅威を感じ,原告とAの婚姻関係を破綻に至らせる蓋然性のある行為であると認められるから,かかる被告の行為は,原告に対する不法行為に該当するものと認めるのが相当である。」
⑤ 東京地裁2018年12月12日判決
不倫相手が、「①今後いかなる理由があるとしても原告の夫であるAとの電子メール,電話,ショートメッセージサービス,ソーシャルネットワーキングサービス,面会等の一切の関係を絶つこと」及び「②これに反する行為をした場合には,妻である原告から即座に違約金として100万円を請求されても異存はなく,その場合,被告にどのような事情があったとしても速やかに上記金員を一括で原告に支払うこと」をそれぞれ誓約する誓約書を作成した事案。
この誓約書による合意の有効性について、以下のとおり判断し、誓約後に性的な接触を含む接触をするなどしたことを理由とする違約金請求を認めた。
「被告は,本件合意における被告とAの接触の禁止対象が広範に過ぎるため無効であると主張する。仮に一般論として,配偶者と不貞相手との接触を禁じ,当該接触禁止約束に違反した場合に極めて高額な違約金を定めるなどする合意が,公序良俗違反等により無効になるという理論があり得たとしても,その全部が無効になると解するのは相当ではなく,さらに,本件においては,仮に上記のような一部無効の理論を採ったとしても,本件合意が原告の夫であるAとその不貞相手である被告との関係を絶つことを目的として原告と被告との間で合意されたものであることに照らせば,本件合意のうち,少なくとも,実際に面会して性的な接触を含む接触をしたり,日帰りかつ二人きりではないとはいえ連れだって旅行に出かけたり,あるいは二人でホテルに同宿してテーマパークで遊興する(しかも,いずれについても,当該接触がやむを得ないということのできるような事情は微塵もない。)という接触を禁じ,その接触禁止約束に違反した場合に違約金として100万円を支払う旨の部分が公序良俗に反するなどとして無効にならないことは明らかである。」
⑥ 東京地裁2020年6月16日判決
不倫相手との間で不貞慰謝料について示談し、配偶者と私的な接触を持たず、違反した場合には「a 電話やメール・手紙,面会その他の方法の如何を問わず,私的な接触を行った場合,1回につき30万円」「b 不貞行為に及んだ場合,1回につき100万円」との違約金を定めた合意の有効性について以下のとおり判断した。そして、不倫相手が示談後に再度不貞行為に及んだ時点ではすでに婚姻関係は破綻していたとして、違約金請求は棄却した。
「本件違約金条項は,被告とAとの不貞行為が原告の権利ないし法益を侵害することを前提とするものであるところ,不貞行為時において,既に婚姻関係が破綻していた場合には,それにより原告の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法益が侵害されたとはいえず,特段の事情のない限り,保護すべき権利又は法益がないというべきである。そうすると,本件違約金条項のうち,原告とAの婚姻関係破綻後について定めた部分は,公序良俗に反し無効と解するのが相当である。」
⑦ 東京地裁2021年10月28日判決
婚姻関係ではなく婚約関係のもとでの不倫事案。被告が、原告と婚約関係にあったAと不倫し示談した際に「再度,不貞行為をもった場合は,被告は,原告に1回につき100万円を支払う」との違約金合意をした。その後、被告はAと6回不倫をしたことで、原告は被告に600万円を請求した事案。
違約金条項の有効性について、「本件条項の趣旨目的は,被告によるAとの再度の不貞行為を抑止することが主たる目的であって,過当な金銭を取得することが主たる目的であるとは認められず,不貞行為1回あたり100万円という金額が,その趣旨目的に照らして一見して著しく過大であると評価することはできない。」として有効と判断された。
また、6回の不貞行為で600万円という高額の違約金になる点についても、「本件条項は,短期間に不貞行為が多数回繰り返された場合には損害賠償額が高額に上る可能性があり,事案によっては,本件条項の趣旨目的に照らして著しく過大な金額であるとの評価を受ける余地がないではないが,本件違反行為は,令和2年3月15日(本件合意書作成日)から同年10月4日(本件違反行為が発覚した日)まで,半年以上に渡って繰り返されたものであること,本件違反行為の結果,Aは父親が被告である可能性の高い子を妊娠するに至り,Aの内心において原告との婚約関係の解消も検討していたこと,原告とAは最終的には結婚するに至っているが,Aは本件妊娠に係る子を堕胎しており,本件違反行為が原告とAの婚約関係に与えた影響は大きいものであったといえることを踏まえると,本件違反行為による不貞行為の回数が6回であり,損害賠償額が600万円になるとしても,本件条項の趣旨目的に照らして一見して著しく過大であると評価することはできず,公序良俗に反して無効であるということはできない。」と判断された。